3話
化粧の方も母親の手直しがあり、出来上がる頃には、むつは普段とは違う自分に驚いていた。付け睫をしたわけでもないが、睫毛がくっきりして長さが出ている。ばさばさと多すぎるわけでもないから、下品な感じは全くしない。
「いいわね。可愛いわ‼むつは美人系でもあり、可愛いさもあるからやりがいがあって楽しいわ。もうすこぅし普段から女の子らしさが出てくると嬉しいわね」
「…はぁ、そうですか?」
「でも、これならモテるわよ‼大丈夫」
何が大丈夫なのかと言いたいが、化粧やら髪の毛やらを出来る限りにセットして楽しんでいる母親には、何を言っても無駄なような気がして、むつは乾いた笑いを浮かべるだかりだった。
「さ、準備できたし。楽しみね」
「お母さん…反対してたんじゃないの?」
「反対よ。でも、むつをこうして可愛くする機会は少ないもの。さくっと帰ってきなさいね。お夕飯作って待ってるから」
「…これから食事行くっていうのに」
「口に合わないかもしれないじゃない。それに、冬四郎さんのお夕飯は必要ですからね」
仕事を終えてからの冬四郎は、むつに付き添うわけでもなくただ監視する役目となっている。そうなれば、夕飯を食べる事も出来ないだろう。兄には少し申し訳ない気持ちになりつつ、むつは鞄にハンカチや財布などを入れていた。