131/1084
3話
電車に乗って移動し、むつと母親は特定の店に行くでもなく、とりあえずといった感じで、店内を覗いていく。あれも、これもと服を見るがやはり、ぴんと来る物はない。この前、山上と来た時にもなかなか買う物がなかったように、むつは直感でしか選ばない。
「あら、これなんてどう?むつは、あんまりピンクとか着ないから、たまにはどうかしら?」
母親は淡いピンク色の、ノースリーブスタイプのセーターを手にしている。タートルネックだが、少しゆるい作りになっているが、セーターの方は身体にフィットしそうだった。
「寒くない?」
「上着着るんですもの大丈夫よ。これに…スカートがいいかしら?パンツだと…お食事に行くお店はどんな所なの?」
「ちょっとお洒落な所みたい」
「なら、カジュアルすぎてもダメね。いっそのこと着物で行く?あったわよね?」
「あるけど…それもそれで…」
「わがままねぇ」
母親はそのセーターが気に入っているのか、元の場所に戻そうとはせずに手に持っている。