1話
ちょっとウィンドウショッピングな気分で、むつに付き合うつもりの山上だったが、むつがあっちにもこっちにもと気になる物を見付けると、ふらっと居なくなるのを追い掛けて、すっかり疲れていた。だが、そのわりには気に入る物はないのか、なかなか買わない。
「お前なぁ…」
「え?このニット帽どう?」
山上の気持ちには気付かず、むつは白い耳当てのついているニット帽をかぶって山上の方を向いた。
「ちょっと子供っぽすぎ?定番すぎかな?」
「定番だから外せないんだろ?」
「仕事来るのにかぶってもいい?」
「うちはスーツ出勤とか決まってないだろ?」
「まぁね。でも、スーツじゃないのって颯介さんと祐斗だけじゃない?社長は外出ないのに、いっつもスーツだし」
「だな。私服を決めるのが面倒なんだよ…そういうお前もスーツの事が多くないか?」
「だって仕事だもん。オンオフって感じ?それにスーツなら…っていっても、かっちりしたスーツ姿でもないけど。どこに行くにしても変じゃないし」
「まぁ…そうだな。で、それ買うのか?」
「うーん…買う‼社長は?」
「俺っ!?おかしいだろ…」
「帽子かぶるとますます胡散臭いもんね」
くすくすと笑いながら、むつは上機嫌にニット帽を片手にレジに向かっていく。だが、レジ横に沢山のだて眼鏡が並んでいるとまた立ち止まって、あれこれと試しにかけている。