3話
しっかりとスーツを着てコートを羽織った冬四郎は、むつから弁当を渡されると照れたような笑みを浮かべた。
「…見送られるのは恥ずかしいから」
「えー?」
「まぁ…」
玄関までくっついてきたむつと母親をリビングにまで押しやってから、冬四郎はいってきますと言うと、逃げるように出ていった。
「変なの。いちにぃとお父さんは見送っても何にも言わないのに」
「そうね。あ、でも諒さんも冬四郎さんみたいに、そそくさと出ていくわね」
「恥ずかしいのかな?」
「かもしれないわね。さて、お母さんは今日は何しようかしら」
「昨日は何してたの?」
「冬四郎さんを荷物持ちに付き合わせてスーパーに買い物。あとは、この辺をちょっとお散歩したくらいね。むつはどうするの?」
流しで洗い物をしながら、むつはうーんっと首を傾げた。普段であれば、洗濯して掃除して買い物となるが、それらは母親がすでにしてある。そうなると、やる事がない。
「買い物でも…一緒に行く?で、ランチして帰ってくるっていうのはどう?」
「いいわね。今日着ていく洋服選んであげるわね」
「…行く事になってるし」
ざぶざぶと茶碗を洗いながらむつが言うと、母親は何もかも見透かしたようにふふっと笑っていた。