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3話
弁当の支度が出来ると、むつは部屋に入っていき、寝袋で丸まって寝ている冬四郎の顔を覗きこんだ。髭も伸びてきていて、普段あまり見る事のないだらしない雰囲気のある兄を、むつはまじまじと見ていた。
「…何だよ」
「起きてたの?朝ご飯出来てるよ。お弁当も。そろそろ支度しないと、遅刻しちゃう」
むつが膝をついて、うつ向いているからか、長い髪の毛が冬四郎の顔にちらちらとかかっていて、邪魔そうに顔をしかめていた。それを手で払いながら、大きな欠伸をして冬四郎は、寝袋から這い出してくると伸びをした。
「…寝袋洗っとくね」
「悪い…臭いか?」
「お酒のね。お兄ちゃんは臭い時ないから大丈夫だよ?いっつも同じ匂いがしてる」
「どんな匂いだ?」
「うーん…石鹸?」
「風呂上がりの時の話か?」
昨日の夜のやり取りなど無かったかのように、冬四郎はむつの頭をわしっと撫でると立ち上がり腰を捻った。床で寝ているから身体が固まるのか、ばきっといい音がしていた。