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3話
「おーいしーいーっ」
幸せそうにパリッと仕上がっている春巻きにかぶりつき、むつはご機嫌そうだった。色々な野菜と春雨の入っている春巻きは、冬四郎も含めて兄たちの好物でもあり、帰省すると母親はよく作ってくれる。
「…で、むつ。父さん何だって?」
「お見合い明日の19時だって。そんな時間からって…ただのお食事じゃない?」
「初対面だかし、長い時間なんて嫌だろ?」
「絶対に嫌」
冬四郎は早くも茶碗を空にして、立ち上がると自分でよそって戻ってきた。
「なら、むつは明日行くつもりなのね?」
「え…うーん…悩んでる。お見合いって言っても、お父さん一緒に来るわけじゃないんだって。あたし1人でって…そこまで形式的なのじゃないからって」
まだ1本目の春巻きを食べ終えていないむつは、八つ当たりのように大きく口を開けて春巻きを詰め込むと、むぐむぐと噛んでいる。