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3話
むつが手を洗って化粧を落として着替えを済ませて来る頃には、ダイニングテーブルに食事が並んでいた。朝、母親が言った通り、むつの好物が並んでいてそれだけでむつは嬉しくなった。
「冬四郎さんが、餃子を作ったのよ。大丈夫かしらね?火は通ってるから、大丈夫ですけどね」
「母さん…どういう意味だよ」
「だって、冬四郎さんが包丁持ってる姿なんて見た事なかったんですもの…怖くって怖くって。それに味付けもどうなのかしらって思うと」
くすくすと笑いながら、母親は冷えたビールも出してきた。実家でなら食事時に酒を呑むのを、よく思わない母親だが、今日はそれをよしとしてくれるようだ。ぷっと吹き出して笑いながら、むつは3人分のグラスを出してくると、こぽこぽとビールをそそいだ。
「いただきまーすっ」
餃子に春巻きとメイン料理が2つもあり、サラダとナムルなど箸休めの小鉢も並んでいる食卓は、普段1人でなら先ずあり得ない。むつはレモンを少しつけて、冬四郎が作ったという餃子を頬張った。