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2話
「まぁいっか。後さ…お父さんは玉奥の…その…お、親の…知ってるでしょ?だから、その…あたしの…えっと…あの…」
父親の前で、玉奥の、血の繋がりはあっても顔も覚えていない両親の事を、お父さん、お母さんと呼ぶのは躊躇われるようで、むつは言いにくそうにしている。
「何だ?ちゃんと言ってごらん?」
「玉奥のお父さんがお父さんの後輩って言ってたでしょ?だから能力の事も…それって酒井さんには伝えてあるの?」
「いや、伝えてはいない。それは、あってもなくても同じじゃないのか?別に隠したいなら、隠しておけばいいんだから」
「…かもしれないけど」
「そんな事を気にしてるのか?」
身寄りのなくなったむつを引き取るくらい、玉奥の父親とは仲が良かったという事は、父親も能力の事に関しては何とも思っていないのかもしれない。それはそれで嬉しい事だが、見合いをする相手と父親は違う。むつはどことなく消化不良な感じだった。