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2話
「大丈夫ですよ」
ホテルのオーナーであり、複数の飲食店を経営しているむつの知り合いで犬神の京井遥和は、にっこりと微笑んでいるだけだった。わざわざ京井自らが出向いてくれる辺り、すでに特別扱いを受けていると感じているむつだったが、その好意は嬉しい。
「で、これは?」
「私からのサービスですよ。キャロットケーキ。新作なんですよ。それと、いつもご利用頂いておりますからね。それから…晃さんがむぅちゃんに悪い事をしたと気にされてましたからね」
「…話聞いてるの?」
「内容は聞いてませんが、昨夜いらした時に落ち込んでらしたので、どうしたのかとたずねたら、そうおっしゃってましたので」
「そう…」
京井はむつの声と表情から何を読み取ったのか、ごゆっくりとだけ言い立ち去っていった。