112/1084
2話
「いや…」
「お話中、失礼します。ご注文のコーヒーお持ちしました」
父親が話しかけて口を閉じた。店員の低く穏やかな声と共に、白いレースのテーブルクロスの上に、コーヒーが音もなく置かれた。それと一緒に、鮮やかなオレンジ色のシフォンケーキが置かれた。
「あ、あの…これ…はっ!?」
伝票を置いて、さっさと立ち去ろうとする店員を引き留めたむつは、思わず大きな声が出てしまい、両手で慌てて口を押さえた。
「は、遥和さん…何で?」
「晃さんから、お父様がお泊まりになられる事は聞いてましたので。その間は私もこちらに居るようにしていたんです。そしたら、むぅちゃんもいらして、お2人でこちらに入っていくのを見ましたので」
「で、店員としてコーヒーをね…他の従業員さんが働きにくくなるやつよ。オーナー自らコーヒー運ぶなんて」
「大丈夫ですよ。責任持って仕事をしてるなら、そんな風に思いませんから」
「かもしれないけど…周りが今度はあたしらに気を遣うかもしれないし…こっちが恐縮するわよ」