2話
山上が事の成り行きを楽しんでいるなど、想像もしていないむつは、ホテルの駐輪場にバイクを停めると、ヘルメットを脱いで溜め息を漏らした。何度も来た事はあるとは言えど、普通のビジネスホテルとは違う高級感溢れる場所は、やはり落ち着かない。
きょろきょろとしながらフロントに行き、父親の名前を告げてロビーまで呼び出して貰う事にした。何も連絡をしていないから、何号室に泊まっているのか知らないから訪ねる事が出来ないのだった。京井が経営しているホテルだからか、セキュリティは厳しい。どういう関係なのかとか念の為に身分証明書をと言われた。やましい事のないむつは、素直に答えた。父親は部屋に居たのか、確認が取れたとの事でむつはロビーに移動して、ふかふかのソファーに座って父親を待つ事にした。
尻がふわふわとしたクッションでは落ち着かず、もぞもぞとしていたむつは早く父親が来ないかと、きょろきょろとしていた。
父親はむつが来たとあってか、すぐにやってきた。昨日の様子とはうってかわって、堂々としてゆったりとした歩みだった。むつは、見慣れたいつもの父親に少しばかりほっとしていた。