15話
「その時に走り出したから間に合ったのかもな…まだ走れる事にびっくりしたよ」
父親が、ははっと笑うとそういう事なのかと思うと感謝しかない。あと少し遅れていれば、むつは狐と共に真っ暗な崖下に落ちていた。
「本当にありがと…」
「無事だったんだ、それでいい。もう1つの答えの方はな…」
むつの頭を撫でた父親は、そのままむつの耳元でこっそりと、何故場所が分かったのかを教えてくれた。聞きながら、むつは驚いたように目を見開いていった。
「…お父さんは、そういうの平気なの?」
「どうだろうな…でも、自分の目で見た事くらいは信じるぞ?それにあの時は、むつも冬四郎も探さないといけないと思っていたからな」
「………」
「もう家出なんてするんじゃないぞ?それから、もう遅いから朝になったら会社の人にも、その…誰だ?恋人にもだな…連絡はしておきなさい。いいね?」
「…携帯ないの」
「冬四郎のを借りなさい」
「そうする…お父さん、ありがとう」
「もう離縁の話なんか簡単に出すんじゃないぞ。でも、本当にどうしてもそうしたい時がきたら…玉奥に戻る事を考えてやってもいいからな。お父さんもお母さんも納得出来る理由があって、むつの意思が揺るぎないものだって分かった時だけだからな。あくまでも、考えてやるだけだがな」




