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14話
「やだじゃない…帰ってきなさい」
「………」
「むつ…何かあるなら言いなさい」
言えと言われて簡単に言える事なら、苦労はないとむつは思っていた。鼻をすすり、唇を尖らせたりしながらむつは少し考えた。
「悩む事はないだろう…話してごらん」
本当に言ってもいいのかとむつは思ったが、こうして面と向かってゆっくり話した事はない。この機会は逃してはいけない気もして、むつはこくっと頷いた。迷っていては、いつまで経っても言い出せそうにないと思ったむつは、思いきって言った。
「…お父さんはさ、あたしが居ない方がいいって思ったんじゃないの…?今回の事、あたしが原因で、お母さんもお兄ちゃんもだし…お父さんも怪我させちゃったし…前にさ、病院で言ったでしょ?家に居ない方がいいかなって…」
むつを助ける為に崖から落ちる事も躊躇わなかった男、むつと冬四郎の父親は神妙な顔で頷いた。確かにそんな話をした事は覚えていた。




