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14話
酒井の言葉を聞いていた炎は、そろそろとそちらに行きたそうにしていたが、酒井は笑みを浮かべながら、来るなと手を振っていた。妖だからだろうか。むつは追い払われるような炎、父親が少し可哀想な気がしたが、この姿では仕方の無い事かもしれない。
「…もう炎も消えるな」
「みたいですね…」
むつは炎をそうっと撫でた。どんな姿であっても、消えないでずっと居て欲しいと思う。だが、それはどんなに願っても叶わない事なのは、十分に分かっている。むつのそんな気持ちを察してか、炎はすりっとむつの頬を撫でた。そして、くるくるとむつを抱き締めるようにまとわりついた。
「お父さん…」
むつが泣きそうな声を出すと、最期の力を絞り出すかのように、ぽっと明るく燃え上がった。そんな炎に全身を包まれたむつは、驚きを隠せなかった。炎に包まれても熱さを感じず、焼かれずに居られるとは思いもしなかった。




