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2話
コーヒーを片手にむつは立ったまま、誰を呼んでいるのか声をかけてきている。颯介と山上は、不思議そうに振り返った。
「…どうしたんだ?」
「社長って何で結婚しないの?颯介さんも」
ゆったりと座ってコーヒーを飲んでいた颯介は、むつの唐突な質問にぶっと吹き出した。山上は、質問の意味を飲み込めないのか、普段なら細い目を大きく開いて瞬きを繰り返していた。
「ど、どうしたんだい急に…」
ぱたぱたとキッチンに引き返して、布巾を取ってきたむつは、机に飛んだコーヒーを拭き取った。颯介はその間に、机の上にあるティッシュで口元を拭った。
「あのね、昨日…お父さんといちにぃがしろにぃの所に来てたの。その…お見合いの話を持って…」
「ほお…見合い?誰の?」
「はーい」
普段ならアルバイトの祐斗が使っている椅子に座ったむつは、無邪気そうに手をあげて返事をした。