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14話
自ら落ちていく時には何も思う事がなかったが、一度止まった落下が、再び始まるとなると恐ろしい。むつは悲鳴をあげていた。だが、それ以上落ちる事はなかった。
「むつ‼」
「むつ、大丈夫か?」
冬四郎と火車の声が聞こえ、ずりっずりっと上に引っ張られていく。2人がかりで引き上げられながら、むつは名残惜しいと言わんばかりに崖下に、目を向けていた。
「………」
狐の姿はどこにもない。ただの動物であれば、落ちれば命はないかもしれないが、あれはそうではない。玉奥家が代々監視していた怨霊を、唯一の玉奥家の者である自分が逃したとなると、それはそれで困った事になったとむつは思っていた。




