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14話
「むつっ‼」
狐を追うように、むつの身体がぐらっと落ちていく。冬四郎はこの場に居るというのに、何も出来なかった自分を役立たずだと思わずにはいられない。
間に合わないのは分かっていながら、動かずには居られなかったのは冬四郎だけではない。どこからか走り出してきた者が居た。
冬四郎よりもむつに近い何者かが、むつを捕まえようとしている。すぐ側にいた火車かもしれない。そう思ったが、冬四郎は火車が立ち尽くしている事に気付いた。京井であれば犬神の姿をしているはずであり、酒井がこんなに早く動けるようになるとは思えない。気付かないうちに、誰かが忍び寄っていたという事だろうか。だが、今はそれが誰なのかは問題ではなかった。




