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14話
がちんっと牙が鳴った。だが、それはむつの喉元に噛み付く事はなかった。寸前の所で、むつは身体を反らすようにして逃れていた。
「あっ…」
喉に噛み付かれる事はなかったが、ちりっとした痛みと共に、ぷちんっと何かが切れる音がした。それが何なのか確認せずとも、むつには分かっていた。だからこそ、狐を逃すまいと手を伸ばした。だが、その手には何も触れる物はなかった。
むつの手を蹴るようにして、狐はくるんっと回りながらむつから離れた。地面に着地すると、さらに距離を空けようと狐は、飛び下がった。
「ダメっ‼」




