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14話
「むぅちゃんっ‼」
「え?」
緊迫した雰囲気もなくなり、安堵していた冬四郎は、京井の切羽詰まったような声にむつを見た。
むつも気が緩んでいたのか、ばっと京井の方を見ていた。だが、すぐに京井の声の理由に気付いたようだった。
狐がむつの隙をつくようにして、大きく口を開けて飛び掛かってきていた。尖った牙は、むつの喉元を目掛けている。身体を器として奪う事は諦めたのか、今はむつを殺さんとするかのようだ。
油断をしていた火車も動くのが遅れたようで、むつに突き飛ばされていた。
「むつっ‼」
誰の声なのかは分からなかったが、むつは名前を呼ばれた事を、場違いなくらいに嬉しく思っていた。




