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14話
「…酒井を頼む」
目をきゅっと吊り上げた火車は、冬四郎に酒井を押し付けた。妹の見合い相手で上司であり嫌な相手ではあるが、この状況で嫌だとは冬四郎も言えない。
「何、するつもりだ?むつに…何を…」
「何か出来る程、僕にも余裕はない。むつを力で押さえるのは犬神でも無理だな」
「…えぇ、無理でしょうね。あそこまでの力があるとなると、力付くで押さえるには私と火車でも足りないと思います」
「だろうな…」
「なのに、お前が行くのか?」
「…酒井が死ぬのは困るんだ。昔からの付き合いでな。酒井くらいだ、友人って呼べるのは」
「なら、私はむぅちゃんに頼まれはしましたけど、ここは大人しく引き下がります」
「そうしてくれ。ダメだったら頼む」
「ま、待て、それなら俺が…」
「人間は近寄らない方がいい。あの怨霊…むつの炎の中でも、まだ消えはしないんだ。お前が餌食になれば、むつはそれこそ止まらなくなる」
火車はそう言うと、酒井の顔をちらっと見た。そして、むつの元へと向かっていった。




