2話
支度をして、むつがバイクで行くと鍵とヘルメットを片手に出ていくのを、母親は玄関まで見送った。ほんの少し前までは、家から高校に行くむつを見送りながら、今日はちゃんと帰ってくるか、学校に行くかと不安になったりもしていたが、今となっては大丈夫だった。むつの勤めている会社を否定するわけではないが、やはり大怪我をしたり誘拐されたりしているのを知っているだけに、親としては賛成しかねる。だが、むつが決めてやっているならと、信じるしか出来ない。
ふぅと息をつきながら母親が戻ると、ダイニングテーブルに座った冬四郎が、大きな欠伸をしていた。当直明けの昨日も髭を剃っていないようで、無精髭がちくちくと伸びているし、酒の臭いがぷんっと漂っている。
「…冬四郎さん、臭いわよ」
「呑みすぎだから…自分でもそう思う。むつの寝袋、洗濯して干さないと怒られるな」
「全く冬四郎さんも…昔は可愛かったっていうのに。こんなにおじさんみたいになっちゃって」
「すみませんね。おじさんですよ」
くはっと欠伸をして、冬四郎は先にシャワー浴びようと、ふらっと立ち上がると風呂場に向かっていった。