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1話
新年もすっかり明け、正月気分もどこか遠いものになり、街は次なるイベント、バレンタインムードに早くも移行しつつある。まだ先の事だというのに、店頭にはカラフルな包装紙に包まれたチョコレートが、これでもかと山積みになっている。
長い髪の毛をくるくるとまとめて、大きな毛玉にして飾り気のないバレッタでとめている女は、眼鏡越しに山積みのチョコレートを手に取っては裏返して見ていた。製造年月日と賞味期限、原材料に目を通すと首を傾げながら、また元の場所に戻した。そして、腕にしている時計に目をやると、すたすたと人混みの中を慣れた様子で歩き出した。
寒がりなのか、マフラーにマスクをして少しサイズの大きいパーカーを羽織っている。パーカーの下は、シャツにカーディガンにジャケットと重ね着をしっかりとしていた。
かつかつとヒールを鳴らしながら、駅前にあるショッピングモールの前を通りかかった女は、ふっと何かに気付いたように足を止めて振り返った。人の多い昼休み時とあってか、急に立ち止まった女を迷惑そうに、サラリーマンたちが追い抜いていく。