プロローグ
始まりの春には早苗を植える早乙女が点々とした緑に映え、何かと忙しい夏にはアブラゼミやらが忙しなく鳴き声を上げ、その夕方にはひぐらしが奏でる夏の風物詩があちこちから聞こえ、実りの秋には黄金色に色づき、頭を垂れた稲を刈り、閉塞の冬には日本海で大量の湿気を含んだ雪雲が枯れ果てた田に時には静かに、時には荒々しく降り積もる。そして終わりの春を迎え、始まりの春を迎える。
過疎が深刻になりつつある山形県鶴岡市は四季折々の風景を楽しむことが出来る。
若者が鶴岡から出ていき、大都市に住むようになり、その子供もそこの学校に通うようになる。残された家庭は数少ない教育機関に子供を通わせなければならない。しかしそれは保育園までで、幼稚園に上がればあとは中学校までは安泰といったところだ。
学校の供給は充分だが、需要が停滞している。それは、学校の閉校を意味しており3年に1校はこの鶴岡市から消えている。合併などではなく、本当の消滅。この街から消されるのだ。
ここ市立晴田高校もその例外ではなく、2年後に閉校することが市議会で議決された。田んぼのど真ん中に位置するこの高校の生徒数は3学年全て合わせて18人。今年入学して来る1年生の卒業を以て閉校となる。
木造の平屋で昇降口を入ると目の前には職員室。そして左右に木板で出来た廊下が伸びており、その脇に教室が並んでいる。校舎の老朽化も進んでいることから閉校の判断は正しかった。
校門の脇に生える1本の立派な桜の木は今まさに満開を迎え、見頃だ。
そんな穏やかな春のある日。晴田高校最後の1年生の入学式が執り行われようとしていた。
──自分たちが最後の生徒になるとは知らずに。