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残酷なあなたへ  作者: いかの天ぷら
2/2

遅過ぎた

続けての投稿です

目当ての物が買え、俺は機嫌よく帰宅した。


家に帰って静かなことはよくあることだった。ここ2週間はあいつも全然呼んでいないから尚更だ。


なのに今日は部屋に入った時、嫌な静けさだと思った。


玄関のドアを閉めるとカタンと何かが落ちる音がして、ポストに差出人のない真っ白な封筒を見つけ、嫌な予感がした。


中にあったのはあいつからの手紙。


俺の浮気に気付いていたが、気付かない振りをし今まで過ごしてきたこと。


俺への怒り。


俺にとって自分はどうでもいい存在だと考えてしまうようになったこと。


俺に好きになってもらいたかったこと。


そして、別れの言葉と謝罪。


...そんなことが綴られていた。


慌てて電話をかけるが、聞こえるのは無機質な電子音。


「くそっ!!!」


今日買ってきた物をベッドに投げつける。

コロンと小さな四角い箱が床に落ちた。


それを見て酷く惨めな気持ちになる。


買ってきたのは小さなふたつの指輪。


以前、あいつが立ち止まって見ていたペアリング。


あいつは俺から物をねだらない。

俺から何かをあいつにはプレゼントしたことがない


あいつからは貰っていたのに。


このペアリングは今日、今からあいつを呼んで渡そうと思って買ってきた。


喜んでもらえるかと、考えながら買った俺からあいつへはじめてのプレゼント。


俺とこれからずっと共に過ごして欲しいと。


好きだ、と。


はじめての告白を一緒に言うつもりで。


「くそっ!くそっ!!くそっ!」


遅過ぎた。


何もかもが遅かった。


確かに、あいつに嫌われていると思われても仕方の無いことを俺はずっとしてきた。


金が無い、と何度も何度も金を借り、返さなかった。


正式に付き合っているわけじゃないからと

何度も何度も浮気をした。


何度も何度もあいつの言う通り、裏切ってきた。


何度も別れた。

でも、悪かったと何度も謝ってきた。

その度にあいつは赦してくれて俺のそばにいてくれた。


今回の浮気は元カノ。

ヨリを戻したいと言ってきた。あいつと過ごす時間が増えていたが、久しぶりにと、ヨリを戻す気もないのに、あいつを忘れ、数回元カノを抱いた。


あいつが気付いている事はわかっていた。だけど嫉妬もせず何も言わない様子のあいつに腹が立った。


でも、あいつじゃないヤツを抱いていても気は晴れなくて余計に苛立った。


理不尽に怒りをぶつけたこともある。


あいつは黙ってそれを受け止め、ごめんと、

何度もあいつは悪くないのに俺に謝った。


2週間前、あいつをいつものように呼んで俺の家で過ごした。


あいつは何かを見つけ、動きが一瞬止まった。


はじめは何のことかわからず、あいつもいつもの様子に戻ったから気に止めなかった。


その日は何もせずただ、2人で横になり寝た。


夜中、隣に誰もいないと思って目が覚めた。トイレかと思ったがなかなか戻って来ない。

おかしいと思って探すと、外からすすり泣く声が聞こえた。


泣いていたのはあいつ。


俺の前では一度も泣いたことのないあいつが俺に隠れて泣いていた。


俺は静かに離れ、あいつの動きが止まった棚を確認した。


中には箱の空いた避妊用具。俺とあいつが使っているものじゃない、別の箱。


俺は入れた覚えがない。


でも一つ心当たりがあった。


元カノだ。


前日に元カノを家で抱いた。


物は全て持って帰らせている。いつも確認をして帰していた。こんな所にこんなもの置いていいなんて言っていない。故意、だ。


でも、故意かそうじゃないかなんて、あいつにはわからない。


ただ、この事実だけ見てあいつは泣いている。


俺には何も言わず、俺を責めることなく隠れて泣いている。


その事実がつらかった。

何度も何度も浮気に気付く度に俺に隠れて泣いていたのかと思うと苦しくなった。

罪悪感でいっぱいになった。


あいつを抱きしめて謝りたかったが、今の俺にそんな資格はない。


俺は気付かなかった振りをして、ベッドに戻った。


朝、いつもより早く目が覚めると隣にはあいつがいた。


泣いた跡はあまり目立たない。


だけど、少しだけ残っていてそれが切なかった。


そっと瞼にキスをする。


謝罪の意味を込めて。


この日、やっと俺は過去の最低な自分と決別することを誓った。


そこから2週間、あいつへの連絡を絶ち、元カノときっちり別れ、連絡先も整理した。


ケジメを付けるのにそれだけの時間がかかってしまったけど、今日やっとあいつとちゃんと向き合えると思っていた。


それなのに...。


「ふざけんな!おせぇんだよ、俺!!」


あいつは、俺から離れてしまった。


好きだと言って離れていった。


俺の意思とは関係なく、涙がこぼれる。


自分への怒りに、至らなさに、情けなさに。


そして、あいつを失った悲しさに。


人は失ってから大切なものに気付くとよく歌とかであるけど、俺は失う前に気付けたのに、大切だと大事にしたいと思ったのに間に合わなかった。


あいつの名前を呼ぶ。


何度も何度も呼ぶ。


でも、あいつの声は聞こえない。


俺の名前を呼ぶ声も何もかもが聞こえない。


俺は虫の音が響く秋に、大切だと気付いた人を失った。

初悲恋の結果、こんな感じになりました。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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