泡立つ黄金色 2
沙菜といつ、どんな風に出会ったのか。俺は覚えていない。
ただ、物心つく頃には当たり前のようにお互いの家を行き来していたことはよく覚えている。
沙菜は俺の2つ年上で、ずっと沙菜は俺の『お姉ちゃん』だった。沙菜が小学校にあがる前までは、自分と沙菜は兄妹なのだと信じて疑っていなかった。
夕方になって沙菜が帰ろうとすると、泣いて駄々をこねた。
『沙菜は僕のお姉ちゃんだもん。僕の家が沙菜ちゃんの家だもん』
そんな風に言っては周りの大人たちを困らせた。
沙菜が小学校に上がると、沙菜は小学校の友達と遊ぶようになった。
それが悔しくて悔しくて。
幼稚園に入ったばかりだというのに、俺は何度も小学校に潜り込んで、沙菜に会いに行った。
『梨紅はお利口だもんね。沙菜がいなくても幼稚園いけるよね』
困ったように笑いながら、その度に沙菜はそう言って俺を園に戻らせた。
2年の年の差は、その頃の俺らにはでかすぎた。
俺は大人になりたいと願うようになった。体も、心も、頭も。
牛乳は1日1リットル飲んだ。わがままは我慢して、周りが嫌がることも進んでやった。勉強だって一生懸命やって、ひらがなも漢字も誰より早く読めるようになった。クラスで、学年で、一番の秀才だと言われるようになった。
…でも、沙菜との差は埋まることは無かった。
俺が5年生になる年に、沙菜はセーラー服を着て楽しそうに笑っていた。
その3年後の春。
『沙菜のスカーフが欲しい』と言う俺に、沙菜は頷いてはくれなかった。
『あげる人がいるからごめんね』と困ったように笑うだけで。その日の夜、家にやって来た彼女は誰かの第2ボタンを持っていた。その胸にスカーフは無かった。
さらにその3年後。沙菜は地元から出て行った。
彼女の家に残された制服のブレザーに、ネクタイは無かった。スカーフ同様に俺が欲しがったそれを、彼女はしっかり握りしめて地元を出て行った。
沙菜が大事に持って行ったネクタイは、俺ではない他の男の物だった。俺は随分後になってからそれを知った。
残された俺のことを、沙菜は最後まで男として見てはくれなかった。
『いつでも遊びにおいで。梨紅なら大歓迎。ご飯おごってあげる』
その言葉通り、沙菜は俺がいつ遊びに行っても暖かく出迎えてくれた。何年たっても、それこそ俺が成人して就職するような年になっても。
彼女にとっていつまでも俺は『弟』だった。俺の中の彼女はもはやただの『姉』ではなくなったというのに。
心も体も成長したのに、あとはなにを成長させれば俺は『男』として見られるようになるのだろう。




