4 スコップは凶器だよね
E.剣スコップ
E.ジャージ
E.キャップ
E.軍手
E.スニーカー
E.リュック
てぬぐい 2
水 1
パン 2
クッキー 1
◆
拝啓、母上様。つい一時間ほど前に会ったばかりですがお元気でしょうか? 僕はちょっと駄目そうです。
「おらぁぁぁっ! 死ね死ねぇぇぇっ!」
「ハッハー! 逃げる奴はゴブリンだ! 逃げない奴はよく訓練されたゴブリンだ!」
「グルァァァァァァッ!」
主に味方のせいで。
◇
シロと会ってから何だかんだで一月ほどが過ぎた。最初こそ色々とキツかったけど、最近は放課後と土日でアウトドアな生活をしているせいかちょっと逞しくなった気がする。
そして俺は今日が土曜という事もあり、シロが半日ほどで溜め込んだエイザブを冒険者ギルドまで持って来たのだが。
……え? 冒険? しないよ、怖いし。エイザブが一抱えあれば安い飯ぐらいは腹いっぱい食える金になるしね。
「おや、ヒロシ君じゃないか」
「あ、ネグロさん。おはようございます」
相変わらずバリアフルな階段を上ると、いつぞやの黒い竜人さんが居た。あれから何度か同じ飯屋で食事をしていた事もあり、すっかり顔見知りの仲である。
この人もメリーさんに負けず劣らずお節介焼きらしく、こちらを見かけては話をしたり飯を奢ったりしてくれる。
理由を聞いたら「趣味だ」って言われた。何でも、ネグロさんの見た目が怖くて新人に敬遠されてしまうらしい。その反動なんだろうな。
「ああ、おはよう。ギルドで会うのは初めてだな」
「ですね。今日は出るの遅いんですか?」
「あー、まあな……君はいつもこれぐらいの時間に?」
「はい。先に朝飯食っちゃうんで」
成程、と深い詮索無しでネグロさんは納得してくれる。宿も取ってないし色々と怪しいんだろうが、そこに触れないのがデキル冒険者スタイルらしい。何だよスタイルって。
ともかく、俺は出てくるのがどうしても遅くなるので他の冒険者と時間が被る事はあまり無い。メリーさんや他の受付さんからはありがたいらしいけど。
と、階段横のスペースからネグロさんの仲間の一人とギルド職員らしき人が出てくる。
「うぃー、駄目だ駄目だ。どうしてもコレやれってよ」
「えー? 何やってんだよお前」
「……しょうがねぇだろ。確かに実入りは無いけどよぉ」
「また弱みでも握られてたんですね解ります」
う、と交渉をしていたらしいネグロさんの仲間の一人、金髪青眼のエルフであるリッチーさんが唸る。この人はハリウッド俳優顔負けのイケメンなのだが、どうも苦労人と言うか残念なイケメン感が強い。
リッチーさんにぶーたれてるのは普通の人間のヘンデルさん。茶髪で地黒で革装備と某タレントも真っ青なぐらいに全身まっ茶色の筋肉モリモリマッチョマンだ。何とかって宗教の神官戦士らしい。
この二人とネグロさんの組み合わせが冒険者パーティー「トライヘッド」であり、この町の冒険者の頂点に立っている人達だ。
「どうしたんですか、リッチーさん?」
「ん? ああ、犬小僧か。いや、正直ワリに合わない仕事が指名で来てなぁ……」
「そんで撤回してやるーって交渉してこのザマだよ。おい坊主、笑ってやれ」
「フハハハハハハハ!」
「「お前じゃない」」
どう見ても悪役な笑いを上げるネグロさんに二人がツッコミを入れる。お願いですから俺置いてきぼりで漫才しないで下さい。リアクションに困るので。
「指名で依頼が入ったんですか?」
「ああ、南にちょっと行った所にゴブリンの集落ができちまったらしくてな。他に手が空いてるのがいねーんだよ」
「ちょっと前にファイルテスメスでゴタゴタがあって流れの連中が全部北に持ってかれたからなぁ……」
「他の常駐の連中もテンセイ行きの行商がゴッソリ持って行ったからな。すぐに戻って来るとは思うが、ゴブリンはすぐに対処しないと駄目なんだ」
ゴブリン。小鬼とも呼ばれる魔物の一種。平均的な身長は1メートル前後だが見た目以上に膂力があり、一般的な体格の成人男性と同等の力を持っている。
知能や器用さも人間に準じる個体が多く存在し、魔物としては最も人間社会に馴染んでいる。亜人と見做す地域も多いが、人間側亜人側共に反発も大きい。
しかし、最も特筆するべきは繁殖力と環境適応性である。年中繁殖可能であり、母体が何であろうと最長一月で出産が可能。それも一度に複数匹が誕生する。
新陳代謝に合わせて肉体構造を変化させる事が可能であり、地形や気候に合わせた特徴を持つ亜種が多数確認されている。
尚、人間社会に馴染んでいるとは言えゴブリンは魔物であり、原始的欲求に即した行動による殺人や強姦等の犯罪も多々確認されている。
この事が身の安全を求める人間側と理性的な行動に重きを置く亜人側の反発を招いている一因であり、世界各地で深刻な社会問題となっている。
「―――と言う訳で、もうすぐ第一陣が産まれそうなゴブリンの集落を壊滅させてきて下さいねぇ」
「まあ、確かに取り逃がしたら大変な事になるからな。それは良いんだが……」
「でもよぉメリーちゃん、本当に他に誰も居なかったのか? これでも俺らココの看板チームよ?」
メリーさんが俺に図鑑を見せながらひょっこりと現れる。トライヘッドの御三方は仕事を受けると決めても不満タラタラのようだ。
「皆様もご存じのように、現在この周囲では多少こなれてきた新人から中堅所の半分以上までがスカっと居なくなってますからねぇ。
元々この辺りは人手もあまり多くありませんし、ここ最近の新人に至ってはそちらのヒロシさんしか登録が有りませんので」
「え、そうなんですか?」
「ええ。ディストレインドは教育に力を入れているのでほぼ全ての国民が義務的に教育を受けているんです。お陰で冒険者を目指す方が少なくて……。
民度が高くて犯罪数も格段に少なく、安定した職業を望む国民が多い……まぁ、洗脳とか調教って言い方もありますけどねぇ。結果が出ているのは事実です」
何か若干真っ黒なワードも聞こえてきたけど気にしない方向で。だって俺関係ないし……。
と、何故かいきなりでっかい手に肩を掴まれる。え、何?
「よし解った。おい坊主、折角だからお前もついて来い」
「えっ」
「そうだな、ただの作業になるよりは面白いだろ」
「ちょっ」
「本来は新人がやるべき仕事だからな。多少早いがまあ良いだろ」
「まっ」
何かメリーさんの言葉を聞き流すのに集中してたらオッサン三人に担ぎ上げられていたでゴザル。物理的に。
ってオイオイオイオイマジかよ!? ゴブリン!? ふざけんなよ俺は今日もエイザブ掘りをするんだっつーかシロ! 助けろ!
「わふ」
ここ一月で倍ぐらいの大きさになったシロは平然と三人の後ろについて歩いていた。ここに俺の味方は誰も居ない―――!
◇
で、現在に至る訳だが。
「そらそらぁっ!」
「イヤーッ!」
「ゴアァァァァァッ!」
ヘンデルさんがメイスと盾を振るってゴブリンの頭を飛ばし、リッチーさんが放った矢がカブーム!とそこかしこで爆発する。
ネグロさんに至っては戦闘が始まってからまともに言葉を話している記憶が無い。巨大な鉈は胴体どころか木造のゴブリンの巣すら真っ二つにしていた。
俺? その辺で隠れてますけど何か?
「つーかさ、おかしいだろアレ。何であんな速度で弓矢連射できるんだよ。と言うかそもそも矢が爆発するとか何なんだよ。魔法か、魔法なのか?
ヘンデルさんも笑いながら頭潰してるしさぁ……宗教怖い。あとネグロさんは何か喋って下さいマジで。ブレス吐かないで下さい」
因みにシロは三人に混ざってゴブリンの首元に喰らい付いている。鉄輪の嵌められたネグロさんの尻尾が痙攣するゴブリンを肉片に変え、ぶつかる直前に素早く身を翻したシロは次のターゲットへと飛び掛かった。
「元気だなぁ……」
何だかんだ言って三人ともゴブリンの集落である峡谷が近くなった途端に走り出し、そのまま地形や数を確認する事なく突っ込んでいった。
無残に破壊されたゴブリンの集落を見れば、簡素な布や毛皮で作られた服を干していた様子が有り、慎ましくも穏やかな生活をしていたのが見て取れる。
うん、完全にこっちが悪者にしか見えない。
森の幸をふんだんに使ったスープは鉈の先端に鍋が引っ掛けられて熱々のままゴブリン達へと降りかかり、熱された鍋を押し付けられたゴブリンの悲鳴が響く。
妻や子を守るために槍を構えたゴブリンは懐に飛び込まれて頭蓋を叩き割られ、身を挺して子を守っている隙間を狙った矢が子供達の命を散らしていく。
改めて言おう。完全にこちらが悪者の図柄である。
「どぉしたどぉしたぁ? 掛かって来いよぉ、力の限りよぉ!?」
「泣け! 叫べ! そして死ねぇ!」
「ガァァァァァァァッ!」
飼い慣らされたらしい狼が叩き潰される。空高くジャンプして放った矢は峡谷の奥へと逃げていくゴブリン達の眼前に突き立ち、高く聳える壁を作り出した。
極め付けに毎回違う属性のブレス攻撃をしつつ巨大な鉈を振り回してバリケードどころか岩まで粉砕しながら突っ込んでくる巨体の竜人。
あとオマケに正確に首元を掻っ切って来る犬。
「俺、人間で良かった……」
もし仮にこの集落のゴブリンに産まれていたら、今日という日を生きて越える事は出来なかっただろう。
後ろを振り返れば、惨状という言葉が一番しっくりくる光景が広がっている。新しい死体に至っては未だに痙攣を続けていた。
「グ、ガゥ……」
と、倒れた柱が転がって瀕死のゴブリンが這い出てきた。運良く生き残る事が出来たんだろう。
「でも、こっちに来たら真っ先にワリ食うの俺だもんな」
「グァ……?」
「ごめんな」
大上段に振りかぶったスコップを全力でゴブリンの頭に振り下ろす。うぇ、刃が頭蓋骨突き破って中身ちょっと出てきやがった。
……こうするのもかれこれ三匹目だが、特に思う事も無く手を下せる自分が居るのが一番衝撃だった。
元からこうだったのか、異世界だからか、狼と戦ったからか、前の方に居る悪鬼羅刹に当てられたか。
自分でも解らないけれど、それこそ蝿を叩くのと同じ気分で人間にほど近い姿のゴブリンを殺す事ができる自分が居た。
「日本戻ったらやばいかもなぁ、俺……」
こうやって自覚できてる内はまだ大丈夫だと思いたい。いやマジで。
◇
「ふぃー……こんなもんか?」
「疲れたビィィィィ!」
「フシュゥゥゥゥ……」
最後の一匹を叩き潰し、ヘンデルさんが周囲を見渡す。リッチーさんは早々に地面に寝転がり、ネグロさんは牙の隙間から変な蒸気が漏れ出していた。
俺も結局十匹以上のゴブリンにトドメを刺し、スコップが汚れてしまったので適当な布を拾って拭いている所だ。シロは何か食ってる。
「しっかしまぁ、よくもこれだけ増えたもんだ」
「あー、妙に多かったよな」
「リーダー個体も居たしな。家ごと真っ二つにしちまったが」
来る途中にゴブリンについて三人に教えて貰った事があるのだが、その内の一つにゴブリンリーダーという物がある。
コイツはゴブリン達の群れがある程度以上大きくなると群れのボスが変化する存在らしい。所謂ボスキャラって事だろう。
「ああ、俺も見たぞ。何かに乗ってたしライダーかな、アレ」
「俺も見たよ。何かぺしぺし飛んできてウザかったから撃ち殺したけど、多分ありゃシャーマンだな」
リーダー級の個体はそれぞれリーダー、ライダー、シャーマンと呼ばれ、体格も普通のゴブリンより二回りほど大きいらしい。
リーダーはゴブリンがそのまま大きくなったような姿であり、ライダーは何か動物に乗っている。シャーマンは魔法使いであり、三体揃っていると駆け出し冒険者では勝てないそうだ。
それをさらっと片付けている辺り、流石は看板チームなんだろう。
「……なぁ」
「……あぁ」
「……妙だな」
「ど、どうしたんです?」
しかし何やら会話の雲行きが怪しい。だらけていた筈の空気が一気に引き締まるのを感じた。あとシロ、そろそろ食うのやめろ。
「いやな? リーダー級が複数居る群れってのはちょっとした特徴があるんだ」
「成り立ちにもよるが、結構高めの確率でリーダー同士で喧嘩してたりするな」
「特に今回みたいに別種のリーダーがいる場合はな。そしてリーダー級一匹が率いる事が出来るゴブリンはおよそ百匹。
……しかし、この群れは明らかにそれ以上の数のゴブリンが居る。いや、居た」
ネグロさんは最後だけ過去形に言い直す。ですよね、もう死んでますもんねってちょっと待てよ!?
「あの、それってつまり……」
「……ヒーロー級、だな」
聞いた事の無い言葉と共に、何かが崖の上から飛び降りてくる。音と衝撃が俺を打ち、思わずゴロンと転がってしまった。
「ゴァアアアアアアアアアアアアアアッ!」
そして轟く爆音。脳味噌から内臓まで震わせるその大音響は、俺達の眼前に立つ巨漢から発せられていた。
「間違いねぇっ! ゴブリンヒーローだ!」
「糞が! どこができたばっかの群れだよ! 五百匹以上居る計算だぞ!?」
「チッ……ヒロシ君! 悪いが自分の身は自分で守ってくれ! 頭上注意で頼むぞ!」
ネグロさんに言われて峡谷の上を見ると、今日の天気は晴れ時々火の玉だった。咄嗟にそれを避ける。
「うぉあっ!?」
「ゲッ!? シャーマンが残ってやがる! リッチー! アイツ何とかしろ!」
「ッ! じゃあこのヒーロー何とかしろ!」
「ガァァァァァッ!」
遠距離攻撃が可能なリッチーさんにシャーマンをやらせまいとゴブリンヒーローがその巨体で猛攻を仕掛けた。
ゴブリンと言えどヒーローの名に相応しく、身長は俺よりも高い。筋骨隆々っぷりはネグロさんと同じかそれ以上だ。
幼児並みの身長で成人男性と同じぐらいの力を出せるゴブリンがそんな体格をしている。それだけで一つの兵器とも言える肉体だった。
「グルァァァァァッ!」
「ゴァァァァァァッ!」
ネグロさんが巨大な鉈でゴブリンヒーローに切りかかる。しかし、知能も高いのか本能のなせる業か、なんと刃を殴って軌道を逸らして回避してしまった。
しかしネグロさんは泣く子が更に泣くドラゴニュートである。元々右手だけで振っていた鉈の遠心力を利用し、左手の爪でゴブリンヒーローの腕を引っ掻いていた。
「グァッ!?」
「シャァッ!」
更にネグロさんはゴブリンヒーローに背を向け、ぐるりと一回転する。それに合わせて腕よりも太い尻尾がゴブリンヒーローを襲った。
甲高い音を立てた事から防具に当たったらしく、更に咄嗟に蹴った右足がゴブリンヒーローの拳に乗った事でネグロさんの巨体が宙に浮いていた。
「ぬぉっ!?」
「オォラァッ!」
「ゴォッ!?」
「あだっ!?」
ネグロさんは咄嗟に羽を広げてバランスを取り、がら空きのゴブリンヒーローの背中をヘンデルさんが殴りつける。
しかし、敵はゴブリンヒーローだけではない。ゴブリンシャーマンが戦場全体に降り注ぐように石礫をばら撒いていた。それがヘンデルさんに直撃する。
「クソがっ! 隠れてチマチマ範囲魔法撃って来やがる!」
「威力が大した事ない上にヒーローにも当たってるのがバカみてぇだけどな」
「でもこのヒーロー地味に強いぞ。魔装無しだと手こずりそうだ」
「ヒーロー程度に本気出さないと駄目とか情けなくて涙ちょちょぎれるわ」
俺がその辺にあったテントの残骸に身を隠していると、そんなヘンデルさんとリッチーさんの会話が聞こえてくる。
……え? つまり今までの虐殺が本気じゃなかったの? 素で何メートルもジャンプしてたの?
「魔装・燃力!」
「ふっ……!」
「ネグロ! 交代だ! あとお前も魔装使え!」
「グルォゥッ! わかったぁ!」
返事に合わせてゴブリンヒーローと真っ向勝負の力技をしていたネグロさんが下がり、横合いから全身が燃え盛るような光に包まれているヘンデルさんが突っ込んだ。
え、今ヘンデルさん何て言った? まそう? ねんりき? それにリッチーさんも何か光ってるし……何これ。
「うぉら死ね死ねぇっ!」
「グガブッ!?」
「流石に変わりたてか。まあ、魔装使わせただけでも立派なもんだよ」
「ギャッ!?」
凄い。今までは何とか目で追えてたけど、今はもうそんなレベルじゃない。ゴブリンヒーローの周りで何かが動いているってしか理解できない。
そんな中にリッチーさんは躊躇なく矢を放ち、ゴブリンヒーローをハリネズミにしていく。そして、
「―――二重魔装・金剛」
一度下がった筈のネグロさんが再びゴブリンヒーローに襲い掛かる。いや、襲い掛かったんだと思う。だって全く見えなかったから。
気が付けばネグロさんはさっきとはゴブリンヒーローを挟んだ反対側に立っており、そのゴブリンヒーローの背中には巨大な裂創が五本。
……まさか、引っ掻いたのか?
「ギガアアアアアアッ!」
「やかましいっ!」
「シッ!」
「■■■■――――ッ!」
命の危険を感じたのか、ゴブリンヒーローの筋骨隆々な肉体が更に盛り上がる。筋肉の収縮によって出血が止まり、脳内麻薬も出ているのか痛みも感じていなさそうだ。
しかし、盾とメイスで関節を壊され、筋肉の隙間に矢を射かけられ、腕を根元から噛み千切られたゴブリンヒーローに勝ち目は無い。
これが、トップチームの本気。これが、魔法。
「……って言うには随分肉体的だけど」
俺が唖然としている間にゴブリンヒーローは文字通り解体されていく。骨を外され砕かれ、皮を裂かれ剥がされ、肉を削がれ切り落とされる。
ほんの数分の間にゴブリンヒーローは立っているだけしかできなくなってしまった。いや、内臓丸見えの状態で生きてる事自体がおかしいんだけどさ。
よく見ればその辺にあった丸太を臓器の隙間に突き刺し、それに支えられているだけで最早意識も無いだろう。この上なくグロテスクな絵面になっている。
「ァ……グ、ブ―――」
「さて、と……ノリでここまでやっちまったけどどうしよう」
「と言ってもなぁ……特に背後関係なんかは無いだろ?」
「フシュゥゥゥ……」
ノリでこんな前衛芸術もビックリの代物作ったのかよと驚く俺を尻目に、リッチーさんの問いにネグロさんが大きく頷いていた。
「……トドメ、刺しとくか」
「そういや上のシャーマンどうした? 途中から魔法降って来なくなったけど」
「遠距離はお前の仕事だろうが」
ネグロさん達の会話内容に、それもそうだと残骸から顔を出して上を見る。そこには清々しく晴れ渡る空だけが広がっていた。
いや、やっぱ訂正。何か降って来た。
「ギョボォ!?」
「あ」
峡谷の上から落ちてきた何かは丁度ゴブリンヒーローの真上に落ち、グシャリと潰れてしまう。幾ら何でも散々な死に方である。
「ワンッ!」
落ちてきたのは事切れたゴブリンシャーマンであり、その下手人は口と前足を真っ赤に染めた白いワンコでした。うん、怖いよお前。
「……すげぇな、お前の犬」
「……ども」
そう言えば途中で見かけなくなってたけど、どうやらゴブリンシャーマンと一騎打ちをしていたようだ。
そして改めて考えると俺って何のために連れて来られたんでしょうか。マジで暇潰しのためですかね?
◇
そうして翌日。今日こそエイザブ掘りをしようかと思ったんだけど。
「……モヤが、消えてる」
大問題、発生です。
◆
仲間モンスターが強いのは引換券の頃からのお約束。
リメイクのアイツは魔物使いマスターしてても良かったと思うんだ……。