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3 どらご、にゅうっと

サブタイは別口で考えてたネタのまんま


「うぅ……気持ち悪い……」


 何だかんだで天気も良かったのでギルドに戻る頃には全身ちょっと湿ってるぐらいには乾き、メリーさんにエイザブを手渡す事が出来た。

 まあ、当然のように二束三文で買い叩かれたけど。初回ですからねぇ、と金額を上乗せしてくれたのはラッキーだったな。


 それからシロがゲットしたカラス位の大きさの鳥を見せると、捌いてくれるらしいオススメの飯屋も教えて貰えた。

 あとメリーさんはシロに気付くと「動物に好かれる才能があるんですかねぇ」と言ってくれた。いや今までこんな事ありませんでしたから。


「ザラザラしてる……プチプチしてる……」


 で、その飯屋に着いたら着いたで混雑し始めた時間になっており、捌いて貰えなかった……決して迷子になっていたとかそう言う事実は無い。無いのだ。

 それどころか、泥だらけの俺とシロを見て店の裏手にある井戸に叩き込まれそうになった。料理人コワイ。


 そして今何をやってるかと言えば、その料理人のオッチャンに羽根の毟り方と内臓の洗い方を教わったので実践してる所だったりする。

 だってちゃんと出来てたらタダで飯食わせてやるって言われたんだもん……あぁー鳥肌がぁー! 内臓がぁー!


「わふっわふっ」

「お前生で大丈夫だもんな……うー気持ち悪い」


 忙しい筈なのにちょくちょく見に来てくれるオッチャンに丸洗いされ、再び真っ白になったシロは取り出した鳥の内臓にかぶりついてご満悦だ。

 正直に言うと気持ち悪い。家庭科の調理実習で魚を捌いた事があるが、アレに匹敵する気持ち悪さだ。沢山やれば慣れるんだろうけどさ……。


「オウ、できたか?」

「あ、えっと……一応」

「フム、まあ良いだろ。空いてる所に座れ」


 足元が羽根だらけになってシロがそこに突っ込み始めた頃、オッチャンが再び顔を出した。処理を一通り済ませた鳥を見せると、オッチャンは一つ頷いて厨房に戻ってしまう。

 言われた通りに店に戻ると、少し人がはけたのか空席が幾つか出来ていた。その一つに座るとシロが膝の上に乗って来る。まだ食うのかオメー。


「はぁぁ……なんかもう疲れた」

「わふ?」


 ぐったりと椅子の背凭れに身を預けると、空腹と疲労が全身にのしかかって来る。いや、これはシロの重みか。ぬくい。


「もう一ヶ月分ぐらいの大冒険した気分だよ……」

「わん」

「……そういや、帰れんのかなぁ?」

「わん」


 何かシロの答え雑じゃね? いや待て、犬に答えを期待すんなよ。まずいな、相当疲れてるぞ……。


「ほれ、お待ち」

「わんっ!」

「あ、はい、どうも……っ」


 ゴトリと置かれた木製の器には、湯気を立てるホワイトソース系のスープ。同じく木製のスプーンで掬えば、ゴロリと転がる鶏肉から汁が滴る。

 隣に置かれたパンはガッチガチに固まっているが、つまりこれは思い切り浸せという事なんだろう。フニャッフニャのホックホクにしろという事なんだろう。


「―――頂きます」


 もう我慢できないと腹の虫が獣に変わる。臭みがある筈の野鳥の肉はふわりとソースの香りに包まれ、噛めばあふれ出した肉汁が口の中で舞い踊る。

 スプーンに乗った野菜は切れ端と言って良いサイズだが、不思議と舌の上でシャッキリポンと存在を主張した。一体何の野菜なんだろうかコレ。


 固いパンをエキスパンダーよろしく大胸筋に任せて引き千切り、一口サイズにしたらスープに潜らせる。十秒もしない内に固さが消えたパンは既に口内だ。

 スープの味にパンにしては酸っぱい味が加わり、こちらの舌を飽きさせない。そして指に付いた汁を舐め取った時に気付く。具の味が染みている、と。


 おそらくコレは本来大量の具をソースと共に煮込んだだけの簡単なスープ。しかし、そこから出たうま味と俺が持ち込んだ鶏肉がクロスボンバー気味に襲い掛かる。

 味のゴールデンタッグは更なる食欲を引き出し、そのまま固いパンを噛み千切る力を俺に与えてくれた。この間にシロがパンを半分ぐらい食っているが、それは気にしない事にする。


 気付けば俺は木皿を掴み、パンと肉が浮かぶようになったスープを掻き込んでいた。スプーンを持った右手も高速回転だ。

 吸い、啜り、貪り、噛み、飲み込む。最早口は皿から離れない。固形物だって構うものか。今、俺は、喰らっているのだから!


「―――っ……御馳走様でした」


 しかし、至福の時間はいずれ終わるモノ。一滴残らず飲み干した皿をテーブルに戻し、一度だけ親指で口元を拭って静かに手を合わせた。

 そしてゆっくりと目を開ければ、そこにはドラゴン。


 ……What?


「っ!? うぉぉぉっ!?」


 目に飛び込んできた光景に頭が追いつかず、思わず後退ったらバランスを崩して椅子ごと倒れ込んだって痛ぇ! 頭打った!


「お、おぉ? おい少年、大丈夫か!?」

「おごぉぉぉぉ……」

「すまんな、驚かせたか―――闇包癒」


 後頭部を抱えて転げ回っていると、誰かに抱き上げられたのが感触で解る。更に妙にザラついた手が頭を抱える俺の手に重ねられたかと思うと、するりと痛みが消えてしまった。


「さて、もう大丈夫だと思うが気分はどうだ?」

「……あれ? 痛くない」

「うむ、大丈夫そうだな。立てるか?」

「あ、はい。ありがとうござうぉっ!?」


 促されるままに立ち上がり、頭を下げて顔を見ればやはりドラゴン。いや、流石に二度も見れば解る。これは竜人―――ドラゴニュートって奴だ。

 艶のある黒い鱗と口元から腹にかけて白い皮膚。最大まで開けば俺の頭ぐらい丸呑みに出来そうな大きな口には牙が並ぶ。


 こめかみ辺りから軽く湾曲した角が二本ずつ聳え立ち、頭頂部から肩甲骨の間辺りまで髪と言うか漆黒の鬣が生えていた。

 その肩甲骨から生えている羽は幾重にも折り畳まれており、最大まで開くとどれぐらいの大きさになるのか想像もつかない。


 更に3メートルに近いであろう長身は盛り上がった筋肉に包まれており、二の腕なんか俺の太腿よりも太い。尻尾には金属製の輪が幾つも嵌められている。

 格好こそ継ぎ接ぎだらけの布製だが、これはつまり防具は要らないと言う事なんだろう。腰に提げた巨大な鉈は何百キロもあるんじゃないか?


「いやスマン、驚かせてしまったようだ。珍しい格好の少年が珍しいモノを連れていたからつい、な」

「あ、いえ……こちらこそ、その、済みません」

「まあ、食事に夢中になっていたとは言え、向かいの席に人が座ったのに気付かないのはまずいな。目立つ者には厄介事が近付くものだ、気を付けると良い」


 ポンポンと頭を叩くように撫でられ、竜人さんは仲間らしい人達のテーブルへと去っていく。あの人もメリーさんみたいなお節介焼きなんだろうか?

 って言うかそもそも何しに来たんだあの人? まさか本当に珍しいってだけで人が飯食ってる所に来たのか?


「……あれ? そういやシロ、は―――」

「くぅ……すぅ……」


 寝てるし。



 明けて翌日。再びエイザブを採りに川辺へとやって来たのだが。


「……なんじゃこりゃ」

「わふ?」


 せめて昨日の狼に土をかけてやろうと思ったら、狼の遺体から何やら黒い靄のような物が出ていた件について。


「靄って言うか海藻か? いや、でもたまに途切れてるしな……」

「わふ」


 反対側が全く見えないぐらい濃い煙のような何か、と言えば良いんだろうか。それが風も無いのにユラユラと揺れている。

 超怪しい。魔法だ何だって言うか怪し過ぎる。なのに目が離せない。いや、だからこそだろうか? 呼ばれているような気さえする。



 ―――気が付けば俺は怪しさ1000%の靄に触れ、次の瞬間には自分の部屋に立っていた。



「……え?」


 右。崩れた布団を適当に直しただけのベッド。

 左。スペースが無くなって本の上に本が重なり始めた本棚。

 前。本来の役割ではあんまり使われない勉強机。

 上。カバー裏に虫の死骸が溜まった電灯。

 下。カーペットと着替えと隅っこにエロ本。


 うん、俺の部屋だ。


「いやいやいやいや! え、は、えぇ!?」


 訳が解らない。布団の感じを見た限りでは恐らく昨日の朝のままの部屋だが、どうして死骸から出た煙に触ったらココに戻って来るのか。

 いやとりあえず靴だ。うわ、カーペットに泥付いてる! やべぇ! 母さんに怒られる!


「んーっと……何でだ?」


 とりあえず靴を脱いでティッシュでカーペットを拭き、ベッドに腰を下ろして考える。

 とは言え、そもそもどうやって向こうに行ってたのかも解らないから割とどうしようもないんだけど。


「まあ、一番怪しいのはコレか」


 左、つまりさっき俺が立っていた場所の後ろへ目を向けると、そこには色々と押し込んであるクローゼット。

 その壁は見慣れた木目調ではなく、つい先程見たような黒い靄になっていた。まあ、つまりそういう事なんだろう。


 徐にその霧に顔を突っ込んでみる。


「ああうん、やっぱり」

「わんっ!」


 川のせせらぎ、水の香り、尻尾を振って待ってるワンコ。やはり川辺へと繋がっていた。

 原理はさっぱり解らないが俺の部屋のクローゼットの壁と狼の死体から出てる靄が繋がっていると見て良いだろう。


「シロ、悪いけどちょっと待っててくれ。色々片付けてくるから」

「わんっ!」


 顔を引っ込めて部屋に戻り、ケータイを充電器にセット。レンジ加熱式の牛丼レトルトがあったので用意しながらシャワーを浴びて考えを纏める事にする。


「まずはあの世界にまた行くか……まあ、行くしか無いよな。戻って来れるなら色々と用意も出来るし、どんな所なのか改めて見てみたいし。

 シロも狼に任されちまったし、最悪こっちに連れてきて飼えば良いか……シロはこっち来れんのか? 後で確認しないと。

 あ、そういや昨日帰ってないんだよな、俺。やっぱ怒られるよな……まあしょうがないけど。言っても信じて貰えるかな? ……無理だな」


 やっぱり考えを纏める時は口に出して言うのが一番だな。スルっと決まる。口に水が入るのが難点だけど。

 体を洗い終えたらバスタオルで拭いて水気を切り、腰蓑状態で飯を食おうとリビングを通る。と、机の上に何やらメモが。


「ん? えーっと……何だよ。心配して損した」


 日曜なのに妙に家が静かだと思ったら、昨日の晩に急に予定が入ったので今日の夜まで帰らないって事らしかった。

 まあ怒られないならそれに越した事は無いし、こっちも堂々と準備が出来るからありがたいけど。


「持ってく物は……まずスコップかな。あとは靴と軍手と……帽子と手拭いって所か。いっただっきまーす」


 後顧の憂いが無くなった所でホカホカご飯に牛丼をドーンとぶちまけた。最近のレトルトは中々に美味いから困る。


「まあ、昨日みたいな味に感動するって事も無いけど……アレは腹減ってたからだな」


 よく考えてみたらこっちのパン屋とかでもっと美味いパンは普通に売ってる筈だ。普段は百円以下の安売りパンぐらいしか食わないけど。

 そんな安物でも向こうじゃ凄い物として高値で売れて注目されて秘密を知るために捕まえられてハイそれまでよコースですね解ります。


「……大人しくシロと戯れてよっと。御馳走様でしたっ」


 気が滅入る前に食べ終わって良かった。そうだ、シロにも何か持ってってやらないと。あ、お徳用のウィンナーあるじゃん。これちょっと持ってこっと。


「後は……まあ、良いか」


 着替えて持っていく物を一式用意し、再びクローゼットの前に立つ。じゃあ、いっちょ行きますか!



トリップと往復って一緒にしても良いんだろうか。駄目?

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