プロローグ
プロローグ
[少女]
ある少女は、父親から言葉をもらった。欲しかったわけではない。
少女の友達が持っている、可愛い鏡や櫛の方が、ずっと欲しかった。
でも、大好きな父親がくれた言葉を、少女は一生大切にしようと誓った。
少女はその日、幸せそうに眠った。
[少年]
ある少年はただ、勝ちたかった。
テストの点数にしても、スポーツの成績にしても、少年は常に二位だった。
どうしても越えられない男がいて、その男を振り向かせたかった。よくある話だ。
必死になって、勉強して、必死になって友人を作った。けれども、少年は常に孤独だった。
眠れない日が続いた。意地になって眠らない日もあった。
三日連続で睡眠を取らなかった朝、気づいたら少年は夢の中にいた。悪くない夢だった。
起きてしまえば消える、ただの夢だと分かってはいたが、少年は目を覚ましたくなかった。夢の中で少年はライバルを打ち負かし、たくさんの友人に囲まれていた。
昼頃になってようやく目を覚ました少年は、違和感を覚えた。まるで夢の続きにいるような錯覚にとらわれ、それを振り切るように閉めっぱなしだったカーテンを一気に開いた。
少年は、自分に言葉が授かったことを知った。
[英雄]
英雄と呼ばれた男は、四十年ほど昔に言葉を手にした。
あまりにも昔のことだから、彼自身も、誰からもらったのかよく覚えていない。
その言葉は、名声とは裏腹に、彼を苦しめた。若い頃には多くの場面で助けられたその言葉も、年をとっていくに従い、いつしか逃れられない罰へと変わっていた。
時々、彼は死を考える。
夢と現実の区別が曖昧になりつつある人生を、終わらせたいと思う。
しかし、彼にはそれが出来なかった。六十になっても、やはり命は惜しく、死は怖い。
英雄と呼ばれた男は、安らぎを求めていた。
[父親]
ある父親は余命を削って言葉を手に入れた。
欲しくなんてなかった。もっと娘と一緒に暮らしたかった。
しかし、彼は父親であると同時に学者だった。
心の中、繰り返し娘に謝る。そばにいてやれなくて、ごめんよ、と。
幸せそうに眠る娘のそばで、いつしか男は涙を流していた。
明くる朝、娘の目覚めを待つことなく、男は自室で息を引き取った。




