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3幕  特集

この所、以前にも増して例の夢をよく見る。この夢の話は、現在付き合っている川崎かおりだけには話した事がある。他人に話してどうなるものでもなく、たいして興味も持ってはくれないだろうと感じるからで、その点かおりは洋一の過去に興味を持ってくれていつも真剣に聞いてくれる。

 勝ち気で明るい彼女は24才、両親も健在で弟が一人、そして祖母も一緒に暮らしていて彼女の両親も弟も、特に彼女の祖母は洋一のことを可愛がってくれる。洋一にとって唯一の家族の様な人たちである

 話は戻るが、この日もテレビを見ながらその夢の話になった。

「いつもの夢は最近見るの?」

コーヒーを渡しながら、かおりが聞いてきた。

「夕べ見たよ」

とソファーに腰掛けて、テレビから目を離さずに洋一は答えた。

 テレビでは、徳島県三好市の祖谷の山奥の映像が映し出されている。源平のその後と銘打たれた特集は、祖谷のかずら橋の説明に入っていた。その昔、弘法大師が造ったとも、平家の落人が造ったとも言われると説明されている。

 弘法大師説は、川向こうへ渡りたい地元住民が、困っているのを見かねた弘法大師が、掛けた橋との説で、平家の落人説は、屋島の合戦の後30名程の兵士が阿波の国(今の徳島県)の西の端にあたる、東祖谷や西祖谷へ逃げて源氏の追っ手が近づいた時、かずら橋を切り落として、時間稼ぎをする為に造ったとも言われている。この地方には、この時、平国盛(後の平教経)が逃げ延びて阿佐家の祖となったと言う伝説もある。

 元来歴史には、興味がない洋一だが、かおりと何気なく観ていた。テレビでは、平家の末裔阿佐氏の話や、平家屋敷の歴史等を振り返った後、山城町の赤谷、平野と言う歴史には縁遠い地区に映像が変わり標高1000メートル程の、塩塚高原の麓の集落の画面が映った。ここに、平家にまつわる名字が多いとして取材されたようで、Vの字に切れ込んだ谷は、まさに平家の落人の里にふさわしそうに映っている。先程まで興味を示さなかったかおりが、引き込まれる様に見入っていた。ほんの数秒カメラが石碑を映し出し、平家の落人が残したと説明している。

洋一が「あっ」

と声を発し、暫く画面に釘付けになって、顔が険しくなり始めるのをかおりは見ていた。おもむろに洋一は立ち上がり、せわしなくリビングを歩き回った。歩き回ったと言ってもそんなに広いわけではなく、8畳程のフローリングの部屋に、ソファーとテーブルそして32型の液晶テレビくらいが大きな家具なので、歩き回れるのだ。しかもソファーの周りだけである。洋一の険しい顔と行動を見ていて、かおりは少しおかしかった。だが真剣な顔に戻ると、

「どうしたの?」と聞いていた。

「いやっ」

と一瞬声を出し、もう一度考えて、そして

「今の石碑見た事がある!」と言い。

人指し指を立てて首を斜め前に傾げて目をつむり3、4回指を振りながら

「ほらっ ほらっ さっきはなしていた」

「えっ?」

一瞬かおりは、首を傾げて、

「あぁっ!あの夢?」

眉間にシワを寄せたままかおりが聞く

「うん、多分間違ないと思う」

考えを巡らせる様に目だけ上を見ながら洋一は答えた。

「でもあんな山奥に行った事があるの?」

「いや、無い」

はっきりとした口調で洋一が言い

「なら・・・」と、かおりは言いかけて止めた。 

この時テレビのナレーターが、48年前に同じ石碑が、多摩川上流で造られたことを語っていたが、二人とも驚きの余り聞き逃していた。

 既に洋一は、パソコンの前にいて画面には地図が映っている。

 かおりがイスを持って隣にやって来た

 徳島県は、四国の東側に位置し北側には香川県、西には愛媛県、南に高知県と隣接する。

 讃岐山脈と剣山系の山々に挟まれ、吉野川が西から東へ延びていて、徳島市内を横切って海へ続く。その吉野川の上流を目指せば目的地の山城町に辿り着く。いたって簡単そうではあるが、山城町に入ってからの道がわかりづらそうである。


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