2幕 過去と夢
「洋一、洋一」
白い閃光と激しい雷雨、そして暗闇の中で聞こえる女性の声。11年前孤児院をでてから、雨足の強い日に限ってうなされ、飛び起きてしまうが、夢の中身に心当たりはない。
佐上洋一は、車を走らせながら記憶を辿る。いつも夢に出てくるのは、一瞬垣間見える白い細い腕と青みがかった石碑?
「なぜ?」
考えを巡らせているうちに会社が見えて来た。
洋一はこの町の孤児院で育った。
孤児院から定時制高校に通い19才ぐらいで卒業。卒業後隣町の小さな町工場に就職し、その性格と才能から機械の修理と維持管理を任されている。
孤児院を出る時、園長先生から過去について話を聞かされた日の事は鮮明に記憶している。
「洋ちゃん、落ち着いてよく聞いてくれる?実は、あなたの御両親は、不明なの。」
やさしい瞳で、まっすぐ、洋一の目を見つめながら彼女は言った。
洋一がいぶかしんでいると、
「今のあなたの誕生日は、あなたが保護された日から数えて、3年前の同じ日の日付けなの」
と、言われ当時の様子を初めて聞かされた。
「あの日、巡査さんから事情を聞かされ、一時預かる事になったけれど、警察の捜査では家族やそれらしき親族も見つからず‥‥」
「まって まって」
遮る様に初めて洋一が口を開いた。
「オレ捨てられたんじゃないの?」
見開らかれた目が真っすぐに園長先生に向けられる。
「あなたの場合、複雑だから今日まで説明出来なかったの」
彼女も目を逸らさず
「あなたを預かった前の日の夕方、ここから2、3キロ離れた国道の歩道をずぶ濡れで泣きながら歩いていたあなたを、通りがかりの60過ぎの男性が声を掛け、交番に連絡、そして保護されたの」
その話を聞いた夜、洋一は一睡も出来なかったのを憶えている。
両親が不明そう聞かされて11年も経つが、なんの手掛かりもなく、
「当たり前かオレは刑事でも探偵でもないんだから」と心の中で半ばあきらめている。
ただ名前は当時着ていた肌着に「佐上洋一」と書かれていたそうだ。
洋一はその事実を知ったからといって今更何か出来る訳でもない様に思え今まで何もしてこなかった。