【蜂屋 華】の場合。
前回が泥沼だったので、リフレッシュして書きました。そしたら、ベタな感じに…。
「いのりん待ってよぉ!」
幼なじみの黒波祈を呼ぶ声は、無惨にも届かなかった。
「いのり~ん!」
走って隣に着くと、睨まれた。
「華…、それは周りにバレやすくなるから止めろって言ったよな?」
声に怒気が混じってる…。
「じゃあ、……なみりん?」
「呼び方の問題じゃない。俺の事は"黒波君"か"祈"って呼べ。」
そのまま速歩きで歩いてく。
(はぁ…。そんな事言われたって…、
今までずっと"いのりん"だったし?
高校の部活が"恋愛禁止"なんて知らなかったし?
そうじゃなければ、いのりんをこの高校に誘わなかったもん!…ひどいなぁ。名門でも恋愛くらいは自由で良いじゃん…。もし、いのりんが他の子に目を付けられたら………?…"たら"じゃ無いね…"る"だよね…。いのりんカッコイイし、優しいし…。可愛いし…。
私、気弱いから負けちゃうよ…。
寂しいなぁ…。)
「お前はその癖を治せ。」
行っちゃったって思ってた いのりんが目の前にいた。後10メートル先に校門があるのに、私の手を握って"逆方向"、今来た道を走る。その間に部活の先輩と当たり前だけど、すれ違うし、目も合うし…。
「い…、いのりん?」
しばらく走って公園に着く。
小さい頃から一緒に遊んだ、近所の公園。
「いのりん?…学校遅れちゃうよ?それに、あんな大胆に手を繋いだら、先輩にもバレちゃうでしょっ!?見られてたよっ!いのりんはレギュラーなんだし、1年だからって落とされやすいんだから………」
「分かってるっ!!…そんなことより、俺が他の奴と付き合うって?ふざけんな!俺は華しか好きじゃないし、…華だけしか見てない。」
「えっ!?」
「さっきの全部口に出てた。昔からのお前の、…唯一の癖。」
さっきの…?
……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
無理無理無理っ!
恥ずかしいってっ!
「顔が真っ赤(笑)…。」
あっ、…いのりんの笑顔って凄く安心する……。
「俺が優しくするのも華だけ。格好つけるのは、好きな子の前では当たり前だろ?部活・先輩上等!!…って言いたいけど、華がくれたチャンスは潰せないからな。」
ちょっと悔しそうな顔をして目を反らした。でも、すぐ目を向けてきて、
「まぁ、もしっ!もしバレたら、俺は華を選ぶよ。」
躊躇い無く言ってくれた。
それだけでも心強い…。
「ゴメンな?今、華を選べなくて…。」
「ううん。いのりんが頑張ってる所、大好きだもん!それに、いのりんが私しか思ってないのは分かったし。」
今度はいのりんが真っ赤になった。
(やっぱり可愛い…。)
「可愛いくねぇ…!」
「あれ?また口に?」
「出てた。」
どうやら、私の癖は"いのりんに思った事"を言ってしまうらしい…。
「二年。」
「……?」
「……二年待ってくれるか?」
初めは言ってる意味が分からなかった。
「後二年で"確実"にするから。」
この言葉が無ければ…。
「はいっ!待ってますっ!」
嬉しくて泣いて、…その涙はいのりんが拭いてくれた。
「ちゃんと覚悟と用意、しておけよ?」
いのりんの顔が近づいてきて目を瞑る。
…互いに初めてのキスを交わした。
この公園で5歳の頃から何回も、何百回も結婚の約束をしてたのに…。
キスは16才で…、なんてね。
「秘密、な?」
「秘密、だねっ!」
笑って、また、キスをして…。
マネージャーと部員。部活内は恋愛禁止。
その前に、幼なじみで。
…そして、"婚約者"になった。
これが私達の"秘密"、です!
えっと、…鳥肌立ちました?……ごめんなさい。