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第5話:嫌な奴ら

 あの夕方の学校でのことは僕と小坂しか知らない。先生に言うつもりもないし、友達にも親にも言うつもりはなかった。しかしあの日のことは、今でもずっと僕の中で嫌な気分にさせた。

 小坂とは六年になっても同じクラスで、あの一件以来よく話すようになった。家も同じ方向でたまに一緒に帰ったりすることもあったが、クラスの男子にそれを見られて囃し立てられてからはあまり一緒に帰ることはない。

「千春くん!ちょっと待って!」

 僕が一人で帰ろうとしていたところを小坂が呼び止めてきた。僕も小坂もこれから受験をするため同じ塾に通っている。そういう時は帰りも遅くなるので一緒に帰れと親から言われているのでいつも一緒に帰っていた。しかし、今は学校帰りであって塾帰りではない。それに僕はこれから塾の前の昼寝をしたい、小坂と一緒に帰る時はたいがい小坂の家の前で長話になってしまう。僕はちょっとしかめっ面を意識して振り返った。

「一緒に帰ろうよ!待ってくれても良いのになぁ…」

 小坂は頬をぷくっと膨らますと、僕の横に並んで歩き出した。小坂は僕のことを千春くんと呼ぶが、僕はずっと小坂と呼んでいる。小坂は別に名前で呼んでも良いよと言うんだけど、なんだか僕の学校には男子は女子を苗字で、女子は男子を名前でという知らないウチにルールが出来ていた。だからずっと呼ばないでいる。今もちょうど小坂はその話を僕にしているところだ。

「変なルールだよね?なんでだろうね?男子ってそういうの恥ずかしいの?」

 でた…。質問攻め。僕はこの質問攻めが苦手だった。どんな簡単な質問にも答えられなくなってしまうのだ。そしてそれは家までずっと続いた。


 「ただいま…」

 ため息まじりに家へ帰った。最近は受験が近くなったせいで最後の追い込みとかでも物凄い量の課題を出される。今日もそれをこなしてきたのだ。そしてたくさんの宿題プリントを貰った。

「溜息は幸福が逃げるよ?」

 ソファーに寝転がりながら雑誌を読む姉がこちらに目も向けずにそう言った。姉は去年受験を終えて見事私立の名門高校に合格したのだ。しかし、僕は姉が勉強している姿を見たことがなかった。部屋はとなりなのだが、いつもソファの上で何かしている印象しかない。しかしテストでは学年トップクラスの成績を出している。僕は絶対になにかインチキをしていると思っている。僕の親から受け継いだ血で天才が出来るはずがないと確信しているからだ。

 僕はさっさと宿題を片づけようと思い、自分の部屋へと向かった。ドアを開けると目の前にはベッドがあって、その枕の横に机がある。僕は机に向かって勉強を始めた。


「おはよう…」

僕は眠くてまだ霞む目を擦りながら食卓へと向かった。僕の家は朝は絶対にご飯とみそ汁って決まっていて、パンなんて滅多に食べない。僕はすでに机に準備されている自分のご飯とみそ汁を頂いて、洗面所に向かった。


 午後のチャイムが学校に響いた。友達にじゃあねと手を振ったり別れを告げていると、同じクラスの女子に声をかけられた。そして言われるまま教室を出てあまり人の来ない隅っこの空間に行くと、そこには数人の女子がいた。

「なに…?」

 流石に僕も男が一人という状況に怯んまずにはいられなかった。その中のクラスでもリーダー格の女子が僕に少し強い言い方をした。

「杉本くんってさぁ…。由香のこと好きなの?」

 僕は言葉か出なかった。小坂を好きとか誰を好きとか思ったことが僕にはなかった。この前行った修学旅行でも男子同士で好きな人は誰かと言う話しになったときも、僕はそういうのは全然わからないと正直に言った程だった。もちろん僕は首を横に振った。

「じゃあさ、仲良くするのやめてよ!あの子ってわがままだし、うるさいしうざいから」

 またしても言葉が出なかった。次は驚きではない、あの日と同じ腹の底を握られるような怒りがそうさせたのだ。別に誰が誰を嫌いになったって、好きになったって僕はかまわないと思っている。だけど、これはそういうのとは違った。きっとこの子以外の子は、この子がそう言うなら…、とかみんながそうだからとかそんな理由で小坂を一人にしようとしている。そう考えた時、既に周りの女子から悲鳴のような声が上がっていた。

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