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第3話:両手の物

「千春ッ!!はよ起きなさい!!また朝飯食べれんやんか!!」

とある一軒家の一室から大声が響き渡った。その後にはビシともバシとも聞こえそうな痛々しい音が聞こえてくる。

「痛い!分かってるよ!もう起きるって!!…ちっ」

僕らは今年でここに引っ越して5年になる。僕はしょう学6年になった。和美姉ちゃんは中学3年になっている。専ら生意気になった僕はいつも遅刻ギリギリまで布団にくるまっている。

姉ちゃんも父ちゃんも既に学校と会社へと向かっているが、僕はやっとのっそりと布団から這い出てきた。

「…やべぇ…。今日は陸上クラブの朝練やん…」

僕はそっこうで着替えを済ませると、ボロボロになったランドセルを担いで玄関に滑り込む。

「ちょっと!こらっ!千春!!寝癖ぐらい直しておきんさい!!」

後ろから何故か両手にブラシを持って追いかけてくる。僕にとってはこれがかなりの恐怖だった。

「そんな時間あらへんわっ!!行ってきます!!」

僕は学校へ続く道を全速力でダッシュした。


「こらぁあ!杉本ぉ!!また朝練遅刻か!」

教室で体育着に着替えて校庭に身を小さくさせて行くと、さっそく顧問のデコ橋の怒声が聞こえてきた。

このデコ橋という名前は、まだ30のくせにかなりデコが後退しているという理由から、僕たちの先輩が名付けた名前だ。もちろん本人にはそう言わないが、僕たちの中でデコ橋の名前が挙がる時は絶対にこう呼んでいる。

「すみません…寝坊しました」

僕は正直に本当の理由を告げると、デコ橋の顔をおそるおそる見てみる。やはりこの男のデコは広かった…。というのはどうでも良いことなのだ、剣道部でもないのにいつも手に持っている竹刀が上に上がっていく。僕の中で警戒信号が発令される。

「一度これで頭殴って目覚まさないとダメかもなぁ…?」

僕は一歩、また一歩と後ろに逃げていく。それを一歩、また一歩と距離を縮めるように近づいてくるデコ橋。

「暴力は行けませんよぉ!!高橋先生!!」

僕は軽いフットワークでデコ橋をかわすとそのまま陸上クラブの輪の中に逃げ込んだ。


午前の授業も終わり、給食の時間も含まれた昼休みに入った。この時間はたいがいは給食の後は仲間同士で校庭でドッヂボールをしたり、鬼ごっこをしたり遊ぶ。

「ちぃ〜?今日は何する?」

ちぃとは僕のことである。千春の千を伸ばした呼び方だ。僕はこの呼び方は嫌いではないが、女の子みたいで少々気に入らなかったりするときもある。

「ん〜…、鬼ごっこしようよ」

数人の仲間からオッケーという声が聞こえてくる。そしてみんなで校庭に出ようとした時に、僕だけ前に進むことが出来なくなってしまった。

「千春くん!今日はお掃除当番だよっ!!」

軽いショートカットに目が少しおっとりしていて、鼻立ちが幼いながらも綺麗な女の子が箒を両手に目の前に現れたのだ。この子の名前は小坂 由香という。僕が小学1年の時に転校して依頼、ずっとクラスが同じ女の子である。

顔は可愛いのだが、性格がしっかりしていて男子からは嫌がられるコトも多い。

「うっ…忘れてたわ…。すまん!根本!みんなに掃除終わってから行く言うといてくれ!」

僕は少し焦ったりすると、昔の土地の方言が少しでてしまうことがある。

根本という男子はわかったと言うと、そのまま校庭へと降りていってしまった。僕はその背中を見つめて、自分勝手ながら友を見捨てるなぁ!と心の中で叫んでしまった。

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