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うおりゃあ様の苦悩

「あらあら、そんな所にへたりこんで、どうしちゃったのかしら?うおりゃあ様?」

「ほんまやで、肝心のうおりゃあ様がそんなていたらくでは、彼女らががっかりしてまうやろが」


「う、うるせぇ…… ほっといてくれ……」


「え?まさか、うおりゃあ様?」

「あ、あなたがうおりゃあ様だったの!?」

「キャーッ!まさか、本物のうおりゃあ様にお会いできるなんて!夢みたい!」


「ッダァァアアアア!」


 ケンジは額を地面に擦り付け、丸まった体勢で頭を抱え込んだ。


「ソウデス、ケンジサンハ、偉大ナル我ガ神、ウオリャア様ナノデス」

「うるせぇー!てめぇはキリスト教徒だろうが!黙ってろぉ!」

「私、キリスト教徒、言ッタ覚エ、一度モ、アリマセンネー」    

「てめぇそんな面しやがって都合の良いことを! くっそぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


「うおりゃあ様だわ!」

「うおりゃあ様ね!」

「うおりゃあ様に間違いないわ!」


 ダンッ!ダンッ!ダンッ!

 ケンジが地面をたたく音は、しばらくの間鳴り止まなかった……。







「自己紹介が遅れちゃったわね。初めまして、葵です。これでも前はギルドマスターやってたのよ」

「初めまして、クレアです。ギルドといってもこの3人だけだったんだけどね」

「初めまして、咲夜です。あなた達は、前作からのギルド仲間?」


 このゲームでは、人の集まりの名称は大抵ギルドで済まされてしまう。中でも最大規模のものが冒険者ギルド、商人ギルドだろう。そして戦士ギルド、裁縫師ギルドなど技能ごとのギルドがあり、プレイヤー同士の集いとしてのギルドがある。

 例外と言えるのが、光の魔法を司る光の教会と、闇の魔法を司る闇の教団になるが、魔法ギルドも存在しており、その棲み分けは定かではない。


「こちらこそ自己紹介が遅れちゃって。初めまして、錆助です。俺たちも前作からの仲間なんだけど、ギルドは作ってなかったんだ」

「あらそうなの? もったいない。うおりゃ…… コホンッ。あなた達のギルドなら入れて貰えれば安心出来ると思ったんだけど」


 どうやら葵が代表して話をするようだ。項垂れるうおりゃあ様を見て、多少は遠慮してくれているらしい。


「前はギルドの必要性なんて感じなかったものねっ! でも今回はどうするつもりかしら?」


 錆助を見ながらミナモが答えた。


「とにかく自己紹介よねっ。ミナモよっ!」 瞳を輝かせながら見つめる三人娘。

「風音や!よろしゅうな!」 瞳を輝かせながら、胸のあたりを見つめる三人娘。

「我が輩は、玉男と呼んでくれればよい!ハーッハッハッハ!」 ちょっと引き気味の三人娘。

「新参者ノ、ザビエール、イイマス、宜シクオ願イ、シマース」 慌てて5歩引く三人娘。

「……ケンジだ」 6歩近づく三人娘。


「「「よろしくお願いします!」」」







 錆助の見るところ、葵さんは純和風のヒューマンで、お姉さんキャラ。クレアさんはハーフっぽい容姿のエルフで、活発な感じのお姉さんキャラ。咲夜さんは猫耳裁縫師の猫人族だが、ヒューマンに近い感じのお姉さんキャラ。とにかくみんなお姉さんキャラである。

『しかし、ものすごい勢いでミナモに群がったあの光景とは、キャラが合わない気がするな…… 顔面を鼻水まみれにして泣きじゃくっていた光景に到っては、まるで別人のようだ。まあ、彼女たちの名誉のため、記憶の奥に仕舞っておこう。そして、たまに取り出してこっそり眺めよう。うんうん、それがいい……』

 などと考えていると、ミナモが凍りつきそうな冷たい目で錆助を見ていた。

『まるで頭の中を見透かされているようだ…… 今日のミナモさんマジ怖い……』

 見た目だけなら正真正銘美少女なので、そんな目をされると本当に怖いのだ。

 恐ろい視線から逃れるように、錆助は話し始めた。


「ギルドは必要かなぁ。まあ、その辺は後で考えるとして、とりあえず葵さん達はザビエールと組んで貰う。いいかな?」


 恐る恐るうなずく三人娘。無理もない。


「とはいえ俺達も、覚えたての魔法が最低限発動するくらいまでは一緒に狩るから、その間に葵さん達もザビエールもスキルが上がって楽に狩れるようになると思う」


 安心したようにうなずく三人娘。


「じゃあ、パーティ人数の上限が何処まで増えたか知りたいから、葵さん達はこっちのパーティに合流してみて貰えるかな」




 葵達はパーティを解散して錆助達のパーティに合流した。全員入れた事にしばらく驚き合っていが、とにかく狩りを開始する。

 10匹ほど狩ったところで、錆助達は分かれて別行動をすることにした。

 葵達は相変わらず泣いてしまっていたが、もう鼻水を垂らすほどではなかった。


「それじゃあ行くけど、何かあったらパーティチャットで知らせて。直ぐに戻ってくるから。ザビエールは無茶して死なないように。じゃあ、お互い頑張ろう!」

「気ぃー付けてなー!」

「また後でー!」


 手を振って分かれた。

 パーティチャットはゲーム内アナウンス同様、頭の中に声が直接聞こえてくる。位置関係の把握の邪魔になるので普段は肉声で話し合っているが、離れた仲間とも話すことができるので、このように分かれて狩りをする時の連絡にはとても役に立つ機能だった。







「さて、野犬狩りでも始めますか!」


 錆助の言葉に4人は肯き、それぞれ配置に付いた。

玉男を中央に、錆助とミナモが両脇を固める。風音とケンジがその少し後ろに付いた。

 出来れば1匹ずつ相手にしたい所だが、野犬は群れこそ作っていないものの、近くの仲間が襲われると助けにくる習性がある。なるべく孤立した個体を狙って魔法を打ち込みおびき寄せる作戦だが、1~2匹余分に付いてくるのが普通だった。


 錆助が、風音とケンジに付与魔法〔ホーリーブレイド〕を唱える。2人の武器が輝きを増すと、聖なる加護と若干の攻撃力強化が付与された。

 錆助とミナモが〔ファイアボール〕の魔法を詠唱する。こちら側に突出した個体に向かって、同時に魔法を打ち込んだ。

 いきなり攻撃された野犬は、すぐに臨戦態勢をとってこちらを向く。そこに玉男の魔法〔ロッテンウィンド〕が到達した。野犬は一瞬怯むがすぐに走り出す。3人は既に次の魔法を詠唱し始めている。

 ケンジが言う「チッ、3匹来やがったな。いや、4匹だ!」風音が答えた「おいおい、マジかいや、シャレにならんで」

 第2波の魔法がそれぞれヒットしても、野犬は止まらない。次の魔法は間に合わないと判断して、風音とケンジが飛び出した。2人は両脇から野犬に襲いかかる。2人が野犬を挟み込んで攻撃している所に、第3波の魔法が到達する。ようやく野犬は絶命した。


「俺と風音で次を押さえる!」


 ケンジの言うことを一瞬で皆が理解した。2匹目、3匹目の野犬にケンジと風音が対峙した。他の3人は前衛2人から離れるように移動して、4匹目の野犬に魔法を打ち込む。4匹目の野犬は3人の方へと向きを変えて走ってきた。前衛が一対一で戦っている隙に、残りの野犬を3人掛かりで倒す作戦だ。ステータスにほとんど差が無く、ろくなスキルも覚えていない現状、前衛の負担が大きい作戦だが、他に手はない。

 風音もケンジも、上手く盾を使って野犬の攻撃を防ぎつつ戦っている。錆助達は第2波の魔法を4匹目の野犬に打ち込む。次の魔法は間に合いそうにないが、錆助とミナモは詠唱を開始する。牙スキルを持つ玉男が牙を剥いて唸り始めた。

 その時だ。自分を襲った魔法使いをターゲットに一直線に走っていた4匹目の野犬が、視界の隅に入った風音へと急に進路を変えて襲いかかった。風音は咄嗟に盾で防ぐが、盾をはじき飛ばされてしまう。そこに、対峙していた野犬が襲いかかった。野犬は風音の首に食いつき頸動脈を断ち切った。その血しぶきは、噴水のような勢いで飛び散り、野犬と風音を真っ赤に染め上げた。


「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 風音の悲鳴が響き渡る。


「ダッッリャァァァアアアアアアアアアアアアっ!!」


 ケンジが駆け寄り、全体重を乗せた一撃で、風音から野犬を引きはがした。


「ッガャァァアアアアアアアア!!!」


 4匹目の野犬に、玉男が噛み付くのを見て、錆助は叫ぶ。


「ミナモォォォォォオッ!」


 ミナモは肯く事すらせずに、錆助と同じ行動をとった。

 風音から離れる方向へ移動して、2人並んでケンジと対峙していた野犬に向けて魔法を打ち込んだ。今はフリーになったその野犬をこちらに引きつけるためだ。『絶対に風音の側には行かせない!』2人の魔法が同時に野犬を焼いて、野犬は2人に向けて駆けだす。


「よしっ!」


 続けて魔法を打つ。ギリギリで間に合ったが、野犬はもう目の前に迫っている。錆助は素手で野犬に飛びついた。体が重く、力も入らない。戦闘系の技術もステータスもスキル0なのだから当たり前だ。野犬の牙が錆助の腕に深く食い込むと、激痛が走った。


「ガァァアアア!」


 今までは、どんなに致命的なダメージを負っても感じることの無かった痛みだ。しかし激痛の中でも、錆助は野犬を締め上げて放さない。


「錆助ぇーっ!」


 ミナモは錆助の手から逃れられない野犬に魔法を打ち込んでいく。やがて野犬は絶命した。見回すと、野犬を倒したケンジが風音に走り寄り、上半身を抱きかかえている。玉男もどうやら野犬を倒したようで、ふらりと立ち上がる。錆助達もすぐに風音の側に向かった。


「「「「風音ぇー!」」」」

「んん……」


 風音は弱々しく震える手で腰のアイテムポーチを探り、治療キットから薬剤をすくい出し、傷口になすり付けた。薬剤が微かに光って傷口からの出血はほぼ治まる。同時にHPの減少も止まった。光が消えるとまた薬剤を塗り、出血は完全に止まった。何度か繰り返せば完治するだろう。全員ホッと息をついた。風音は弱々しくしゃべり出した。


「すまんなぁ、ドジッたわ。みんなに迷惑かけてもうた」

「ばっか野郎ぉ、こんな時に何いってやがる!」

「こんな時ってケンジー、そんなん言われたら、うちこれから死んでしまうみたいやないかい」

「ばっ、ばっか野郎!縁起でもねぇーこと言ってんじゃねぇ!」

「はははっ、しっかし焦ったわ、血ぃー出とる間、HPもどんどん減りよんねんな。治療キット買っとかんかったら、死んでしまっとたなぁ」

「だから、縁起でもねぇーこと言うんじゃねぇつってんだろうが!」

「いやいやケンジ、結構大事なことやで、これ。今なぁ、まず最初に痛みで死ぬか思ったわ。出血でも死ぬか思った。そんで気ぃー遠くなってこのまま死んでしまう思った。みんなが声掛けてくれんかったら、ほんとヤバかったかもしれん。もうHPだけで生きとる世界と違うわ、ここは」

「そうか……」


 風音の言葉に、皆が深刻な表情で聞き入っていた。


「っておいおいさびやん。手ぇー酷いことになっとるやんか早く治しー」

「あ、ああ、そうだな……」

「風音ちゃんっ、もう帰る?」

「いやいや、ミナモー。これで逃げ帰ったら、たぶんこの世界では生きて行かれへんで。ちょっとだけ休ませて貰たら、ちゃんと元通りや」

「風音ちゃんっ……」

「風音? 俺と前衛代わらないか?」

「そんな手ぇーして何言ってんねんさびやん。後衛だって変わらんやろ。それより早く治しーや」

「そうよっ。錆助も早く治そっ?」

「ああ、そうだな……」


 錆助は、ようやくセルフヒールの呪文を唱えた。

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