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うおりゃあ様

 場が落ち着くのを待って、錆助は話し始めた。


「で、ザビエールをどうするかだけど……」

「ケンジサンハ、恩人デス、神デス、全テハ神ノ御心ノママニ」

「人を勝手に変なモンに祭り上げるんじゃねぇー!」

「まあまあ、2人とも落ち着いて。とにかくザビエールをこのまま放っておくわけにはいかないと思うんだ」

「まあ、そうだよなぁ、俺の責任もあるみてぇだしなぁ……」

「責任云々はともかくとして、もう一緒に狩るしかないだろ? ってことでザビエールは素手を止めるつもりは無いのかな?」

「私ハ、戦ウ宣教師デース」

「うむ、その意気や良し!」

「そっか。じゃあ、まあよろしく」

「よろしくって錆助、俺たちはもう5人パーティだから、これ以上入れないだろう?」

「それなんだけど、ちょっと気になってる事があるんだ。ザビエール、パーティ誘うから入ってみて」


 サスティンオンラインではパーティの人数は5人が上限だった。

 ザビエールの仮想コンソールにパーティ要請が届く。


「オウ、点滅シマシタ、コレデスネ…… 入レマシタネー」

「えええ?なんで入れんねん!」

「パーティ人数が前より増えてるって事かしらっ?」

「うん、どうもそうみたいだな」

「錆助は分かってたみてぇじゃねぇか、どういうこった?」

「別に分かってた訳じゃないんだけど。うーん、それについては後で話すよ。ちょっと長い話になりそうなんだ」

「そっか、じゃー時間ももったいねぇ、狩りでも始めっか!」




 草原を見渡してみると、さすがにソロのプレイヤーは居ないようだ。パーティの中にも素手の戦士など見当たらなかった。それもそのはず、完成された素手戦士は他の武器職と遜色のない強さを発揮するが、育成途中ではどうしても見劣りしてしまう。初期のキャラなら尚更のことだ。デスゲームだと言われてわざわざリスクの高い素手を選ぶのは、相当の覚悟が必要なはずだ。そう、わざわざ選ぶのは……。

 その事に気が付いた錆助は、どうしても確認せずにはいられなかった。


「なあ、ザビエール。戦う宣教師って事は、初めから戦士を目指してたんだろ? 武器は貰わなかったのか?」

「オウ、コレノ事デショウカ?」


 ザビエールはしれっと〔槍〕の初期装備である〔ダガー〕を取り出した。

 それを見てケンジが一瞬唖然とするが、すぐに怒鳴り始めた。


「てんめぇ~この馬鹿野郎がぁー!なんでそれを使わねぇ!」

「戦ウ宣教師ダカラデース」

「意味わかんねぇよ!」

「私ノ武器ハ、コノ肉体ダケデスネー」

「おめぇの武器は羊にも敵わなかっただろうが!このすっとこどっこいがぁ!」

「ガハハハハハッ!まあ良いではないかケンジ!素手で羊をあそこまで追いつめるなど、なかなか見上げた根性ではないか!次にやれば恐らく倒してしまうぞ、この男!」

「てめぇー玉男!すっかりこいつの味方になりやがって!ったく。しかしまあ、安心したぜ。俺の言葉に惑わされて狩りに出かける素手戦士なんざ、居るわけ無かったんだよな、はじめっから。まあ、こいつ以外はだけどよぉ」

「あらまあケンジ、それはどうかしらっ? 一匹見つけたら千匹いると思えって言うじゃないっ?」

「そうやでーケンジ。油断してると、どんどん増えてまうもんやで?」

「こいつはゴキブリかぁ!」







 話も一段落したので歩を進める。野犬討伐依頼を受けてきているので、草原の奥、森近くに見える野犬を狩る予定だったのだが、ザビエールの為にもう少し羊を狩る事にして、空いている場所を探しながら移動する。

 周りのパーティを観察しながら進むと、どのプレイヤーも青ざめた顔で戦っているのが分かった。やはり過剰すぎるリアリティに打ちのめされているようだ。

 しばらく進むと、思わず皆が足を止めてしまう。そこには瀕死の羊を囲む、3人の女戦士の姿があった。


「う゛う゛う゛う゛う゛ぅ・・・」ズビーッじゅるるる……「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ・・・・」

「もう、いやぁ・・・・・・・・・・・・・・」ずじゅじゅじゅじゅじゅじゅぅ……じゅるっ

「ひんぅ ひんっ ひっ んひっ ひんっ・・・・」ぐしゅっ……ぐしゅしゅしゅぅ……「ひっ ひぅんっ ひっ・・・・」

「ン、メェ エ エ ェ・・・・・」 「メェ エ エ ェ ェ ェ ェ ェ ・・・・・・・」


 自分たちも通ってきた道だ。誰もが今の状況を直ぐに理解した。ザビエール以外は。

瀕死の羊が見せる悲哀に満ちた表情に、トドメを刺せずにいるのだ。ウンウンそこが一番辛い所なのだと、風音は深く同情する。可哀想に、手に持ったナイフは既に羊の血を吸って真っ赤に染まっているというのに、どうしても最後の一太刀を入れることが出来ずに、顔面を鼻水だらけにして泣きじゃくっているのだ……。    ――――うん? そこはうちらは通らなかった道やで? お? ケンジ? なにをぽや~んっと見取れとんねん? おお? さびやんまでもか? 何? おいおいたまやんお前までもか? そいつらはお前の好きなちみっ娘ではないぞ? ザビエール? お前の表情は何考えとんのかまったくもってわからんねん。 ほうほう? 3人の女戦士がすがるようにこちらを見ているではありませんか? 一体全体どういうつもりや? まさか自分じゃトドメを刺せないからどうか代わりにお願いしますっとでもいいたいんか? お前ら戦士やったら責任もって最後まで相手の面倒見てやらんかい! おい? ケンジ? 一歩前に踏み出してお前はいったい何をするつもりや? おいおいさびやん? なんでケンジに張り合うように一歩前に出たんや? まさかとは思うがお前ら。 代わりにトドメさしよるつもりか? やめときや? それはお前らの仕事やないで? あ、やりよった。 アホやこいつら。 して? この後はいったいどーなるんかのう? ほう。 3人が揃って。 礼をして。 まあ礼儀正しいのはいいこっちゃ。 んでー? ケンジとさびやんは鼻の下なんかこれ以上伸びきらんってほど伸ばしよってからになんやそのだらしない顔! おっと? すまんなケンジ! 気ーついたらお前の背中思いっきりつねり上げとったわい! そのだらしない顔も少しは引き締まるやろ!


「イテテテテテッ!なにしやがる風音っ!」


 ケンジの耳に風音が囁いた


「あんたが可愛らしい女の子らの前であんまりにもだらしない顔晒しとるから、少し引き締めたろいう親切心やんか」


 風音のドスのきいた声にケンジの顔は引きつった。

 もちろん同罪である錆助にも魔の手は伸びていた。


「痛い!ミナモさん?いったい何を?イタタタタタタッ!お尻は止めて!」

「錆助ってば相変わらず変態ねぇ~ この私の超絶可愛らしい顔にはまったく反応しないくせにっ、顔面鼻水だらけの女にはあーんなに鼻の下伸ばしちゃうのは、いったいぜんたいどーしてかしらっ? つまり錆助は鼻水大好きな変態さんって事よねっ? だいたいこーんなに可愛らしい女の子がいつも一緒にいるっていうのにっ、感謝ってものがまったく……!?」


「キャーッ!可愛い!可愛すぎる!あなた一体何者?こんなに可愛らしいエルフ見た事無いわ!」

「これは凄いわ!感動ものね!」

「同じ道を通って産まれてきたとは思えないわね!何をどうしたらそんな事になるの?」


 3人の女戦士がミナモに群がった。


「あら?あなた達見る目はあるのねっ!鼻水女なんて言って悪かったわっ!」


「口は悪いのね……」

「でも、この顔で言われたらアリよね!ゾクッと来ちゃった!」

「ねえねえ!私たち裁縫師なのよ!あなたの服作らせて!」


 その言葉に反応して、風音がようやくケンジを解放した。

 風音は頭を掻きながら3人に近づく。


「なんや、あんたら裁縫師やったんか、悪かったな~」

「「「?」」」

「いやいや、こっちの話や、気にせんといて」


「あなたも凄くスタイルいいわね!」

「出るところは出てて、締まるところは締まってる!戦士らしいのに色っぽい、均整の取れた体つきね!」

「あなたの服も作らせて!あなたに合ったセクシーな服、作ってみせるわ!」


 風音がキョドる……。堂々としていればバレ無いのに……。と、錆助が助け船を出す。


「裁縫師でその格好って事は、前作からの移行組?」


「そうそう、綿花も羊も混みそうだけど、どうせ混むなら羊からと思って」

「コットンよりウールの方がスキルも上がるしね」

「だから敢えて戦士で始めて羊を狩ろうと思ったんだけど…… まさかこんなにリアルだなんて……」


 裁縫スキルを上げるためには大量の素材が必要になる。そのため羊毛と羊皮が手に入る羊を狩るのは、非常に効率が良い。羊は戦士に頼まなくても狩れるので、自らの作った服で着飾り羊を狩る彼女達の姿は、前作では血まみれの淑女と呼ばれていた。いや、このサスティンワールドでこそ、そう呼ばれるべきだろうが、果たして精神的に耐えられる淑女は何人いるのだろうか……。


「なるほど、それで羊は諦める? もし続けるなら1人貸そうか?」

「おいおい、さびやん、大丈夫か?」

「スキル的には丁度いいけれど、生理的には大問題かしらねっ」

「逆に、羊を殺す精神的苦痛からは目を背けれるかもしれへんな」




「「「・・・・・・」」」


 しばらく3人で話し合っていた彼女たちは、意を決したようにうなずき合った。


「「「お願いします!」」」


 血まみれの淑女、三丁上がり!




「オッケー。こっちもスキル的に丁度良いから助かるよ。でもこんな事になっちゃったのに、よく3人で町から出てきたね。戦士だって出てくる人の方が少ないのに、基本生産職の人達なら余計怖かったんじゃない?」


「うん、私達3人広場で泣きながら抱き合ってたんだけど、凄い雄叫びが近づいてきて、直ぐに離れて行っちゃったんだけど、狩りに行くぞー!うおりゃああああ!って出て行っちゃって」

「そうそう、それで私達だってなんだか行かなきゃー!うおりゃあああ!ってなっちゃて、気付いたら3人で歩き出してたよね」

「恐る恐るだったし、立ち止まっちゃったりもしてたけど、なんとかここまでこ来れて、それで、あなた達みたいな親切な人にも会えたし、ホントに良かったよ。うおりゃあ様々よね」


 グシャァッ!!

 ケンジが潰れる音がした……。

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