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円卓会議 3

 ほとんどが錆助とクレア任せだったとはいえ、なんとか仮説に辿り着き、まとめ役の錆助がこれで良しとした事で弛緩した空気が漂う。しかし、ケンジがそれに異を唱えた。


「やい錆助。俺は最初に、おめぇが何をウダウダと考えてたのか聞かせろと言ったはずだぞ。今んところ、おめぇは一つの説しか喋っちゃいねぇだろうが。色々と考え過ぎて、一つの説をまとめられねぇのがおめぇだろ? 他に一体、何を考えてやがったのか吐きやがれ」

「いやいやいや。一番可能性のある話をして、クレアさんの助けで一つの仮説として纏める事が出来たんだ。他の話なんて、この仮説に比べたら何の根拠も無い空想話に過ぎないよ。今更話すような内容じゃないって」

「今の仮説が正しいと決まったわけじゃ無ぇだろうが。おめぇの空想話の中に正解がまぎれてる可能性だってあるんだ。後になってからあの時聞いておけばなんてなぁ真っ平ごめんなんだよ。もったいぶってねぇでさっさと話しやがれ!」

「うーん。そう言われれば断る理由も無いけど、今日はいきなりのデスゲーム初日でみんな疲れてる。セレナなんか眠っちゃってるしね。そんな中で一つの仮説に辿り着けたんだ。後の話は明日にでもすればいいじゃないか。今日は今後の方針を話し合って終わりにしないか?」


 皆疲れているようで、錆助の言葉に頷く者が多かった。そこにケンジの喝が飛ぶ。


「寝惚けた事言ってんじゃねぇ!明日の夜までおめぇが生き残ってる保障がどこにある!おめぇだけの話じゃ無ぇぞ!俺も含めて、ここに居る全員、もういつ死んでもおかしく無ぇ状況に追いやられてんだろうが!いくら頭で分かってようが、それを実感出来てねぇなら意味無ぇだろ!シャキっとしやがれ!生き残りたけりゃなぁ、今出来る事は今やるんだよ!」

「あ、ああ…………お前の言うとおりだ。悪かったよケンジ。俺が考えた事は全部話す。けどなぁ、本当に空想話でしかないから、期待しないで聞いてくれよ?」

「いーやっ、期待してるぜ?妄想王!」

「俺をそのあだ名で呼ぶなー! ったく……。色々考えたって言っても、デスゲームにどんなパターンがあるか考えただけなんだ。みんなだって一通り考えただろ? 妄想力がどーのなんて関係ない話だよ」

「謙遜すんじゃねぇ妄想王!」

「そうやで!妄想王!」

「妄想において我輩の上を行く輩など、妄想王ぐらいしかおるまいに!」

「まあ、妄想王の妄想力が遺憾なく発揮されるのはっ、エッチな妄想をしてる時に限られているものねっ!」

「黙れお前らー!いいかげんにしろ!ったく! ……で、デスゲームのパターン。よくあるのは、周りは普通にプレイしているのに、1人だけデスゲームをやらされてるってやつだけど、今回は関係なし。次はゲーム世界だと思ってたら、プレイヤーのインナーワールド(精神世界)だったってパターン。俺は自分が確かな主体を持った自分自身である、という実感がある。だからここが誰かの妄想力の賜物としてのインナーワールド(妄想世界)だとしたら、俺のインナーワールドに違いないと思っている。だけど、セレナの持っている動物に関しての知識は、俺のまったく知らない事ばかりだった。俺の創造した世界に俺の知らない知識が入り込むのはおかしい。自分がセレナの妄想力によって生み出された、セレナの創造物だなんてことは、まったくもって認められない。みんなだってそうだろうと思う」


 皆、当然だと頷いている。


「よってこの説も却下。次はインナーワールド物の別パターン。1人のプレイヤーのインナーワールド(精神世界)に他のプレイヤーが取り込まれてしまったってパターン。この場合、プレイヤーはそれぞれ主体を持って行動する。自分が間違いなく自分自身だという自覚があっても、他のプレイヤーのインナーワールドに取り込まれた事を否定する事は出来ない。だけどこの説を認めるなら、他人のインナーワールドに取り込まれた意識体が、1人の人格を持った人間として行動出来る事になる。それはもう魂と言った方が分かりやすい。現実世界の肉体から離れて自分の人格を保って思考、行動する魂。その魂は、ゲーム内のプレイヤーキャラクターとしての肉体まで持っている。正直俺にとってこの説は、オカルト以外の何者でもない。けど、俺達が辿り着いた仮説では説明できない事も、この説なら簡単に説明できてしまう。現実の俺達を殺す方法だ。肉体から切り離された魂が戻れなければ、その肉体は朽ちて死に至る。つまりこの世界で魂が死ねば、魂の戻らない現実の肉体も死んでしまう。これなら納得できるだろ?」


 皆頷くが、オカルトじみてきた話に青ざめた顔をしている者が多い。


「ただしこの説を採用するなら、現実世界の俺達は非常に危険な状態にある事になる。誰のインナーワールドに取り込まれたのかは関係なく……いや、待て……あまりに完全なゲーム世界。32000人もの他人を自らのインナーワールドに取り込むほど、このゲームに執着がある者。取り込んだ人間にいきなりデスゲームを突きつけるその精神。誰かのインナーワールドだと言うなら、典膳以外の何者でもないような気がしてきたぞ……」

「まあ、待ちやがれ錆助。そう言われりゃぁ、俺もそんな気がしてきちまうが、今は現実世界の俺達に話を戻しやがれ」

「あ、ああ、そうだなケンジ。これが計画されたデスゲームじゃなく、誰かの妄執ゆえの突発的なインナーワールドだとしたら、VR機の乗っ取りも無いし、さっきの仮説のような犯行声明も無い事になる。なら強制終了は当たり前のように行なわれたはずなんだ。ログアウトしたプレイヤーが居ないという事は、強制終了をしても魂は肉体に戻らないらしい。魂が戻らないまま現実世界に引き戻された肉体はどうなるんだろうか……死亡してしまうか、良くて昏睡状態じゃないのか? その事を、魂だけになった俺達は知る由も無い。今現在、デスゲームで生き残るために話し合いを行なっているに違いない多くのプレイヤーの中の何割かは、すでに戻るべき肉体を失っている可能性があるって事だ。もちろん、俺達も含めて。そして、現在進行形で一人一人接続が切れていっているのかもしれない。現実世界では意識が戻らずに、この世界に取り残されて……。今この世界にいるプレイヤーの何割かは、既に肉体を持たない魂だけの存在になっている可能性がある。それはもう、幽霊と何も変わらないんじゃないのか? ここはすでに、生者と死者が同居する、混沌とした世界なのかもしれない……」

「やだ、怖いわ……」

「あ、ごめん咲夜さん。怖がらせるつもりは無かったんだけど、つい話にのめりこんじゃって。この説は、最初に言ったように空想話みたいなものだから、あまり気にしないで。俺としては魂の存在を肯定出来ないからこの説は支持しない。俺が今、この世界で考え、話してる事は、現実世界の脳の中で処理されているに違いないと思っているからね」

「そうね。私もそう思う。安心したわ。ありがとう錆助君」


 青ざめた顔に血の気が戻り、頬をうっすらと桜色に染めて、弱々しく微笑む咲夜の笑顔に錆助は暫く見とれていた。すると左隣に座るミナモから冷気があふれ出すのを感じた。見ると、全身がうっすらと青白く輝いている。錆助は背筋が凍りつく恐怖を感じた。


『氷魔法、だとぉ!?』


 ミナモの氷の視線と、その魔力から逃れるように、錆助は話を急ぐ。


「と、とりあえず、次の説。さっきの話はインナーワールド(精神世界)と魂の話になったから受け入れにくかったけど、VR世界、つまり電脳空間に、データとして意識を取り込まれてしまったと考えたらどうだろう? 俺達はVRMMORPGをしてるんだから、こっちの方がしっくりくるよね。インナーワールドを電脳空間に、魂をデータとしての自己意識に置き換えると、同じような話が出来るんだ。電脳空間に取り込まれた意識が戻らなければ、現実世界の肉体は朽ちて死に至る……ね? この説なら、典膳にとっては計画どおりの、デスゲームの正しい仕様だろうと思える。そしてVR機の乗っ取りが無くても、痛みの問題にも説明が付く。データとして俺達の意識体はこのVR世界に居るわけだから、VR機の仕様なんて関係ないからね。その部分を改変すれば、仮説と同じような宣言が使える。強制終了による肉体との接続解除の心配は無くなるんだ。宣言を無視して強制終了したとしても、戻る肉体が無くなるだけで、こっちの世界の俺達には影響が出ない。現状の説明としてはこっちの説のほうが有力なんじゃないかと思えるくらいだよ。けど、肉体との接続が切れてもこっちの世界の俺達に影響が出ないなら、俺達はこの電脳空間の中で、現実世界の肉体を持たない、ただのデータとして生きていける事になる。ただのデータなら、コピーする事だって可能なはずだ。自分をコピー出来てしまうなんて、正直ぞっとしない話だけどね。でもコピーが可能だとすると、こんな危険な計画を実行する必要すら無くなるんだ」


 興味深く聞き入ってるようで、口を挟む者はいない。錆助はさらに続ける。


「と、いうことで、次は電脳空間の別パターン。実は俺達は全員データだけの存在になっていて、現実世界と切り離されている。現実世界の俺達は普通に生活をしていて、夜になれば普通にゲームとしてサスティンワールドを楽しんでいる。今ここに居る俺達は、意識の喪失以降、肉体を失い、電脳空間のデータとしてのみ存在しているコピーなんだ。そして、現実世界とは違う、デスゲームであるサスティンワールドに強制的に参加させられている。これなら現実世界でニュースにもならないし、デスゲームのお決まりの目的である、ゲームクリアをのんびり目指しても何の問題も起こらない。いや、クリアを目指さなくても何の問題も起こらないんだ。ゲーム内の死亡がデータとしての自分の死亡というのも分かり易い。でもやっぱり俺には自分がただのデータだなんて思えない。何度も言うけど、俺は俺の現実世界の脳で思考しているはずで、現実世界で普通に生活していた自分との連続性も確かに感じてる。〈お前はすでに肉体を持たない、ただのデータにすぎない〉とか言われても全然納得出来ないよ。それにこのパターンだと、ゲームクリアすれば現実世界に戻れるってお約束は成立しなくなる。もっとも典膳はそんな事一言も言って無いから、俺達の勝手な思い込みに過ぎないんだけどね。まあ、前のパターンでも言える事だけど、データとして人間の意識を取り込むなんて話もオカルトだよね。今まで生きてきた記憶をきちんと持っていて、それと齟齬の無い人格も持っている。それをデータとしてまるごと電脳空間に取り込むなんて事が可能だとは思えない。だからこの説も俺は支持しない」


 皆、同意して聞いているようだったが、珍しくザビエールが口を挟んだ。


「シカシ、都市伝説トイエバ、夢ノ揺リ籠ニハ、隠シ機能トシテ〔ブレインスキャン〕機能ガ搭載サレテイル、トイウ噂ガ有リマスネ」

「ほ、本当なのか? ザビエール」

「私モ、〔ゲーハー板〕デ、チョット見カケタダケデスノデ、詳シクハ知リマセン。ソンナ噂ガ有ル。トイウ程度ノ話デスネ」

「ゲーハー板やって? なんやザビエール。お前そんな頭しとるからもしやとは思ーとったけど、ほんまもんのゲーハーやったんかい!」

「風音……」

「風音ちゃんっ……」

「な、なんやねんさびやん!ミナモまで!そんな憐れむような目でうちを見んなぁー!」

「風音。ゲーハー板ってのは、とある掲示板の〔ゲーム業界、ハードウェア板〕の事で、お前が思っているような、頭髪に悩みを抱えた方々の集まるような板では断じて無い!」

「な、なんやて!?なんちゅう紛らわしい名前を付けよんねん!そんなんうちのせいとちゃうやろ!名付け親呼んで来いやー!」

「風音……。20世紀から続く伝統ある板だぞ。無茶を言うな」

「くっ、うううっ。うちは負けてへん。負けてへんでぇー」

「風音ちゃんっ。いったい何と戦っているのっ? 不憫過ぎてもう見ていられないわっ」


 ブレインスキャンとは、ブレインマシンインターフェイスの結晶としてVR機が出来上がった後、その次の目標として注目されている技術である。簡単に言えば人の記憶を映像として取り出す技術の事で、犯罪者に対しての使用が考えられているが、いくらでも悪用できる技術であり、倫理的にも問題があるとされて議論が絶えない。「記憶など日々改竄されていく曖昧な物で、犯罪の証拠能力が期待出来るのか? それよりも、逆に犯罪に利用される可能性が高い危険な技術である。誤認逮捕だった場合など、無実の人間の記憶を盗み見る結果になる。プライバシーの保護の観点からしても到底容認出来ない」というのが反対派の意見で、「直近の鮮明な記憶を改竄する事など不可能であり、時間が経ったとしても、犯人しか知り得ない情報を持っていれば充分な証拠になり得る。そもそも冤罪を防ぐための技術であり、無実の罪に問われている人間ならば、自ら進んでブレインスキャンを受けたがるだろう。もちろん、プレイバシー保護の観点に基づいた法の整備は必須である。どのような技術であれ、正しく使えば有益で、悪用すれば誰かの不利益を生むのは周知の事実であり、そのような理由で開発を中止するなど、科学の進歩を否定する愚行である」というのが賛成派の意見だ。世論的には、自分の記憶を見られたくはないのが一般的な感情で、反対派が多数を占めている。結局、世論などにはお構い無しに開発が進められているのが現実だが、完成したなどという話はまだ聞かない。


「けど、その噂が本当だとすると、電脳空間に記憶を取り込むのは、オカルト話じゃなくなるのか……。それでも意識をデータとして取り込むなんて話が、本当に有り得るんだろうか……」

「錆助。おめぇがどう思ってんのか言いやがれ。俺にとっちゃぁそれで充分だ」

「ああ、ケンジ。俺はこの説を支持しない。とてもじゃないけど、自分がただのデータにすぎないなんて事、納得できない。そして、俺が考えた話は、これで全部だよ」

「よっしゃ。わかった。なら俺は、おめぇを信じるだけだ。まったくおめぇって奴は、よくもまぁそんなにウダウダと、いろんな事を考えられるもんだ。感心するより呆れちまったぜ。ハハハッ!」

「ケンジ君酷い!」

「けどまぁ、聞けてよかったぜ。暗闇の中を手探りで進まなきゃならねぇ時に、先に在る物がまったく想像出来ねぇのと、ある程度想像出来てるのとじゃぁ、えらい違いだからなぁ」

「ああ。俺としてはせっかく出来上がった仮説を推したいとこだけど、結論を言うなら、現時点では何もわからないって事になってしまう。けど、仮説が出来た事で、俺達の中でデスゲームの信憑性が高まったのは事実だし、それを踏まえた今後の方針を立てやすくなった。必要があればそれを人に説く事も出来る。もしこの仮説が決定的に否定されるような事態が起こったとしても、また今日みたいに、みんなで話し合えばいい。さあ、もう一頑張り。このデスゲームで俺達が生き残るための方針を話し合おう」

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