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円卓会議 1

「……っちゅうのがロイドのおっちゃんに聞いた話やな。大集団が来た時に、町に戻って治療手段手に入れたら他に狩りに行こうって話になったらしいんやけど、どうにも気になって結局最後まで見物しとったっちゅう話や。生き死にの話は、もう人ごとちゃうからな。最後は病院まで付いてったらしいわ」


 風音の話を聞いて、ケンジが怒り始めた。


「それじゃあ〔Royal Knight〕の連中が文句を言われる筋合いなんぞ、どこにも無ぇじゃねぇか!ふざけんな!なんだってあいつらは黙って文句言われてやがったんだ?馬鹿じゃねぇのか?そんな勝手な連中のせいでこの中の誰かが死んじまうようなことがあれば、俺はそいつらのことを殺してやる!絶対にだ!」


 それを聞いて、葵が興味津々と言った様子で尋ねた。


「この中の誰かには、今日知り合ったばかりの私達も含まれているのかしら? 例えば、私が死んだとしても、そんなに怒ってくれるのかしら?」


「あたりめぇだ! この中の誰だろうが俺は絶対に許さねぇ!」


 三人娘もセレナも嬉しそうな目でケンジを見つめる。ザビエールは相変わらず表情が読めないが、軽く拍手をしているところを見るとやはり嬉しいのだろう。風音も嬉しそうだが、三人娘やセレナの表情を見てちょっとだけ複雑そうだ。そして錆助は心の中で悪態をつく。


『こんっの天然ジゴロ野郎ぉ!お前なんかザビエールに慕われてザビエールに纏わり付かれてザビエールに押し倒されてしまえばいい!』


 そんな錆助だったが、その顔はやはりどこか嬉しそうだった。もちろん玉男もミナモもそれは同じに見えた。


「グヘヘヘヘッ」


 ミナモから漏れた不穏な笑い声に、錆助は咄嗟にお尻を庇いつつ心の中で叫ぶ。


『違う!この変態娘はまた良からぬ妄想に耽ってやがった!お願いします!どうかカップリングはザビケンでありますように!』







 多少脱線してしまったが、錆助は話を進める事にした。


「どうやら〔Royal Knight〕は信頼に足るギルドみたいだね。それがわかったのは大きいよ。今後この町を支えていくのは恐らく彼等だろうから、俺達としては一安心といったところかな。それにしても、死んでから死体が消えるまで5分か……問題はその間に蘇生魔法が使えるかどうかだな。そもそもこのゲームに、蘇生魔法が存在するかどうかが問題なんだけど」

「まあ、無ぇだろうな。蘇生出来るんなら、デスゲームとしちゃあヌルすぎんだろ」

「そうだよな……それに万一使えたとしても、蘇生魔法なんてもっとスキルが上がるまでは使えないんだし、今はまだ考える必要も無いか」


 錆助とケンジの会話に、葵が一番聞きたかったことを口にする。


「ねえ、やっぱりこれってデスゲームなの? その人達は、本当に死んじゃったの?」

「それは……どう考えても答えなんか出ないよ。死んでみないとわからないってのが正解なんじゃないかな。だから俺達は、とりあえずデスゲームだと信じておくしかないんだ。今はとにかく生き残る事を考えるしかないんだよ」

「錆助。その辺のとこ、詳しく話してくれねぇか?」


 ケンジは錆助の考えた事を聞き出そうとする。


「詳しくも何も、今言ったとおりだよ。どう考えても答えは出ないってのが結論で、考えつく事は全部ただの憶測に過ぎない。みんなだって色々考えただろ? 誰かこの事態を説明出来る?」


 答えられる者など居るはずもなく、皆黙って首を横に振っていたが、ケンジはなおも食い下がった。


「答えが出ねぇのはいつもの事じゃねぇか、錆助。おめぇはいつだって考えなくてもいい様な事ばっか考えてやがるくせに、答えを出したことなんざぁほとんど無ぇだろうが」

「ケンジ君酷い! 図星なだけに酷い!」

「それでもおめぇの考えを聞いておきてぇんだよ。今回みたいな事態じゃ特にだ。どうせ俺が考え付きもしねぇようなことを、ウダウダと考えてやがるんだろ? それに全員で考えりゃあ、何か答えが見つかる可能性もあるんじゃねぇのか?」

「そうはそうかもしれないけど………… うーん、その事はみんなどうしても考えちゃうわけだし、共通認識にしておいた方がいいのかもしれないね」


 これは本当にデスゲームなのか。この状況から抜け出すにはどうすればいいのか。今日一日、誰もが考え続けた問題だ。どんなに考えても答えなど見つからず、他の誰かに答えを求めたからこそ、今、ここに集まっている。そして古くからの仲間にとってその誰かとは、つまりは錆助のことだった。なんせ錆助の妄想力は全員の折り紙つきなのだ。


「じゃあ、今までデスゲームをどう考えていたかだけど、VRMMOをプレイしている人間なら都市伝説として頻繁に耳にしていたと思う。でも、有り得ないと言って、笑い飛ばして終わりだったんじゃないかな?」

「それはそうよね。何万人もの人がゲームから出られなくなるなんて、現実に起こったら大ニュースになっちゃうものね」


 葵の言葉に、皆が同意して頷いた。


「そうなんだ。デスゲームなんて、普通に考えたら有り得ないはずなんだ。だけど俺達は実際にゲームから出れない。デスゲームのお約束どおり、外部との通信も出来ない。体感的なものだけど、このゲームの時間は現実世界と同じ速さで進んでると思う。前作では、ゲーム内の1日は現実世界での2時間だった。決まった時間しかプレイ出来ない人が、ゲーム内で昼も夜もプレイ出来るようにするための仕様だったわけだけど、プレイヤーを全員閉じ込めてしまえば関係ないからね。現実と同じ、1日24時間のほうがリアリティは増すよね。だから夕飯時になったら食事に呼ばれて、ゲームは強制終了。デスゲームともおさらば。なんて期待も実はちょっとしてたんだけど、さすがにそんな事にはならなかった。広場に居る人達の中の誰かがログアウトすれば相当な噂になるはずだけど、この部屋に集まる前に少し調べてきた限りでは、そんな噂も無い。だからログアウト出来た人は1人も居ないと仮定して話を進めるけど、それじゃあ俺達はいったい、現実世界でどうなっちゃってるのかな?」


 答える者は居ない。錆助も答えを期待しての質問ではなかったのだろう、さほど間を置かずに話を続けた。


「サスティンワールドにログインする為の、VR機バーチャル・リアリティ・マシン必要最低スペックは、カプセル型筐体第3世代以降、グレードA以上。今、世界で最も普及しているVR機、株式会社センガー製の〔夢の揺り籠〕がシェアをほぼ独占している市場だね。国内に限って言えば、100%に近いはずだ。その上には、富豪専用とまで言われている、馬鹿高い値段のグレードSがあるだけ。第4世代はまだ市販されていない。つまり、今このゲーム内にいるほぼ全員が、〔夢の揺り籠〕を使ってログインしていると思って間違いないはずだ。〔夢の揺り籠〕はホームネットワークへ接続しないと起動出来ない。これによって、ホームネットワークを通して強制終了させることが出来るし、体調の悪化などでも強制終了されてしまう。ホームネットワークからの強制終了命令があれば、どんなプログラムにも優先して、安全な終了シーケンスが開始される事になっている。だから本来ならデスゲームだなんて言っても、外部からの干渉で、どんどんプレイヤーはログアウトしていくはずなんだ。でも実際は、夕飯時を過ぎたこの時間でも、強制終了でログアウトした人は居ない。いったいどうしてなんだろう」


 この手の話が好きなのか、先程から目を輝かせて錆助の話を聞いていたクレアが答えた。


「実はやっぱりゲーム内の1日は現実では2時間で、私達が12時から夜になるまでの時間を過ごしたつもりでも、向こうではまだ1時間も経っていないとしたら?」

「うん、その可能性も考えたけど、ゲーム内の時間が現実とはズレていたとしても、いつか外部からの干渉は起こるはずだ。そうして現実に戻るプレイヤーが増えていくにしたがって、この事態が外部にも知れ渡り、世間からは事件として認識されてしまう。せっかくのデスゲームもそこでお終い。多少先延ばしに出来たとしても、結果は変わらないんだ。それに時間の感覚というのは、体に染み付いちゃってるものだと思う。前作でもゲーム内の1日は、実際には2時間程度だと認識できていたよね。そこは今作でも変わらないんじゃないかな」

「確かにそうねぇ」


 クレアが降参といったふうに両手を挙げて話を戻す。


「でもそれじゃあ、なんで誰もログアウトできないの? 現実世界の私達はどうなっちゃってるの?」

「何故ログアウトできないのか。まず思いつくのはウイルスだね。そもそも俺達をこのゲームに閉じ込めたのは、開発に係わった何者かなのは間違いない。オープニングイベントまで町から出れなかった事や、そのイベントで俺達を一箇所に集めた事、そしてこの町で目覚めた後の事まで。どう考えても始めから仕組まれていたとしか思えないからね。第三者によるウイルス混入の可能性は考えなくていいだろう。サスティンワールドのプログラムに、夢の揺り籠を乗っ取る様なウイルスを仕込んでいたと考えれば、強制終了不能も説明出来る」

「うんうん、なるほどなるほど」

「それでもやっぱり問題は残るんだ。強制終了出来ないことは、外部の人間が気付いてしまうからね。まさかデスゲームが行われているとは思わないだろうけど、何とかしようとはするはずだろ? ホームネットワークで診断がつかなければ、センガーに問い合わせるなり、修理を依頼するなり、掲示板に書き込んで情報収集するなりしてるはずだ。夕飯時になれば、その数は一気に膨れ上がる。そしてこのゲームが本当にデスゲームなら、強制終了不能者の中からすでに死人が出ていることになる。大量の強制終了不能者。死人。そうなるともう、デスゲームの疑いが濃厚になってくる。いや、そう思うのは俺達がデスゲームの中に囚われてしまっているからかな…… デスゲーム、故障、事故、ウイルス感染。まあどんな扱いにせよ、サスティンワールドにログインしたプレイヤーが強制終了不能に陥り、その中から死亡者が出ているという事で、今現在、現実世界では大事件になってるのかもしれないね」

「ちょっと待って? さっきは大事件になったら終わりって言ってなかった?」


 クレアがもっともな疑問を投げかけ、皆口々に同意を示す。


「いや、この場合は大事件になってもゲーム自体は続行されることになる。犯人の目的がゲームの続行にあるのなら、その目的は達成出来るんだ」


「大事件になってるってことは、夜のニュースで取り上げられちゃってるのかしらっ? もしかしたら特番が組まれちゃってたりしてっ!」

「おいおい、洒落にならねぇなぁ」

「っちゅうことは、うちらが有り得へん言うて笑い飛ばしとった事が、ほんまに起こってしもうたんやな」

「我輩がテレビに!?いかん!それはいかんぞ!」

「オオ、我ガ主ヨ」

「じ、実名報道とかされちゃってるのかしら?」

「ネトゲ廃人だって事がバレちゃう!」

「そんなの嫌ぁー!」

「チロー! ずっと一緒よー!」


「はーい。バラバラに喋らない! 誰が何を言ってるのかわかりませーん」


「そ、そんな事言ったって錆助君、これが喋らずにいられますか! ねえ、ほんとにそんな大事件になっちゃってるの? いえ、私達にしてみれば生死がかかっているんだから、とっくの昔に大事件なんだけど。でもそんな、現実世界で世間を騒がせる大事件になってるなんて、想像もしてなかったから……」

「咲夜さん。もしこのウイルス説が正しかったときは、残念ながら大事件になってると思うんだ。でも、」


「ほんまかい、さびやん!」

「終末ガ、始マルノデスネ」

「マジかよ。やれやれだぜ……」

「マシュマロちゃーん!むっちゅっちゅっちゅっちゅうー!」

「お嫁にいけなくなっちゃうわ!」

「婚期が!婚期がー!」

「さようなら、たかし君……」

「全国のちみっ娘達の夢と希望を壊してしまうでわないか!これはいかーん!」

「まさか私の禁断の楽園に国家公安の魔の手がっ!それはまずいわっ!」


「だから! みんな同時に喋らない! 誰が何を言ってるのか、ホントにまったくわかりません! っていうかお前は何を言ってるんだ玉男! それとミナモ!」

「わかっているではないか錆助!嘘はいかんぞ!」

「そんな事だからしょぼくれたひねくれ男なんて呼ばれるのよっ!」

「二度と俺をそんなふうに呼ぶなー! まあとにかく! 夢の揺り籠が〔世界で始めてホームネットワークに接続するVR機〕としてシェアを伸ばした事を考えると、ウイルス説にも疑問が浮かんでくる。脳波を解析して電気信号に変換し、機械と脳を接続する〔ブレイン・マシン・インタフェース〕の中でも、最も複雑で精密なのがVR機だからね。安全性は最重要視される。家電から車まで、ありとあらゆる物をホームネットワークに接続して一元管理している現在、万一のことを考えるならVR機は独立させたほうが安心できるはずなんだ。ホームネットワークはそのままインターネットへも繋がっているからね。実際、今までのVR機はそうしていた。それでも夢の揺り籠をホームネットワークに接続したのは、ホームネットワークの核である、量子フォトニックコンピュータ用の新OSオペレーションシステムとして3年前に登場し、世界を席巻したA.I.(人工知能)、〔HLOW0713〕に世界中から絶大な信頼が寄せられているからに他ならない。なにしろ〔HLOW0713〕の登場以降、クラッカーは壊滅したと言われるほどに〔HLOW0713〕の防衛システムは優秀で、しかも、攻撃を受けたときの反撃は凄まじい。クラッカーはほぼ検挙されて、現在活動中なのは、かの〔キャプテンインビジブル〕のみだと言われている。〔キャプテンインビジブル〕の正体は、一人の天才クラッカーだとも、生き残ったクラッカーの集合体だとも噂されているけど、〔HLOW0713〕を開発した〔ブラッガリン社〕が、〔HLOW0713〕の必要性を訴えるために作り上げた傀儡だという噂も根強く残っている。まあ、その辺の憶測はどうでもいいとして、ホームネットワークに接続するということは、〔HLOW0713〕の管理下に置かれ、その庇護を受けることを意味する。〔ホームネットワークに接続する不安〕が〔ホームネットワークに接続する安心〕に置き換わったんだ。夢の揺り籠が圧倒的なシェアを手に入れたのは、もともと評判のいいVR機を作り続けてきたセンガーが、〔HLOW0713〕の登場後いち早く〔世界で始めてホームネットワークに接続するVR機〕として売り出したからだ」


「あと、18禁ゲームの全面禁止もやな」


 風音の的確な補足に皆うなずいた。


「そう。ホームネットワークに接続する上での副次的なものではあったけど、色々と問題視されていたVR機の18禁ソフトの全面禁止も大きいね」

「そっか。錆助が他のVR機も持ってるのは、夢の揺り籠じゃ出来ないソフトをするためだったのねっ! 変態よねーっ!」

「黙れミナモー!」

「あらあらっ? ちょっと鎌をかけてみたら、今のは肯定の一言と受け取っても構わないのかしらっ?」

「だ、断固否定します!」


 神経工学の飛躍的進歩により、体内にセンサー類を埋めこむ必要の無い〔非侵襲式ブレイン・マシン・インタフェース〕が実用段階に入ると、ありとあらゆる分野に急速に普及してゆき、現在ではすでに円熟期を迎えている。車は既に自動制御されていて運転の必要は無いのだが、行き先の設定、変更や、発車、停車などの命令は、シートに座って頭の中で思い浮かべるだけで、車に伝わる仕組みになっている。家庭内でも、ソファーに座れば脳内仮想ディスプレイを使って、ホームネットワークへ接続出来るのが当たり前になっている。ブレイン・マシン・インタフェースを埋め込む場所として、椅子が適切であると判断された結果なのだが、照明のオンオフ、家電製品の制御程度のことならば、さまざまな箇所に埋め込まれたブレイン・マシン・インタフェースのおかげで、家庭内のほぼ全ての場所で行うことが出来る。

 そして、仮想現実内とはいえ、人体をそのままの感覚で動かす必要の有るVR機は、最も実現困難と言われていたにもかかわらず、ロボット工学方面からの異常に熱心な協力の甲斐もあってか見事完成し、現在では既に手ごろな値段で買えるまでになっている。とはいえそれなりのお値段はするので、コンタクトレンズ型の網膜投影ディスプレイと立体音響イヤホンを使った擬似VRシステムを、セカンドマシンとして持っているのが普通だったりするのだ。男の子ですもの! しかし錆助は、擬似VRシステムの安価ゆえにフィードバックの無い一方通行のインターフェースを嫌い、ちょっと奮発して、フィードバックの有るヘッドギア型VR機をセカンドマシンにしたのだ。絶対に内緒だよ!


「そんな事より! 夢の揺り籠がウイルス感染したとすると、〔HLOW0713〕の防衛システムが突破されるなんていう、有り得ないと思っていた事態が現実に起こった事になるんだ。そんなの信じられる?」


 この質問に、やはりクレアが答えた。キラキラと瞳を輝かせて、錆助との問答を楽しんでいるようだ。


「何事にも絶対は無いとはいえ、正直信じられない思いがあるわ。あのキャプテンインビジブルでさえ、〔HLOW0713〕の反撃をかいくぐり逮捕されていないというだけで、防衛システムを突破することは出来ないと言われているのにね。だけどデスゲームなんてもっと有り得ないと思っていたのに、私達は巻き込まれている。今更驚くほどの事じゃ無いのかもしれないわね。デスゲームを作れちゃう人間なら〔HLOW0713〕の防衛システムくらい突破出来て当然なんじゃないかしら?」

「言われてみれば確かにそうかもしれない……。けど、ブラッガリン社がただ手をこまねいて見ているなんて事は有り得ない。〔HLOW0713〕を作り上げた天才達が事態の収拾に乗り出しているはずだ。センガーにしても〔夢の揺り籠〕を作った人達が、ハードウェアの乗っ取りなんて許しておけるはずが無い。天才達が全力で取り組んでいるんだ。ウイルスの駆除にはそれほど時間は掛からないんじゃないかな? 少なくとも、俺達がデスゲームをクリアするまでウイルスを駆除出来ないとは思えない。しかしそれだとデスゲームは途中で終了してしまう。これだけ手の込んだまねをした犯人が、そんな一か八かの計画で動いているとは思えないんだ。もっと確実な方法で俺達をログアウト不能に追い込んでいるはずなんだ」

「犯人は悪魔的な天才で、ウイルスを駆除されない絶対的な自信があるんじゃないかしら?」

「そうなんだろうか……しかし相手も間違いなく世界トップレベルの天才達なんだ。デスゲームを現実のものにしてしまうような悪魔的な天才が作ったウイルスだとしても、絶対に駆除されないなんて事が有り得るんだろうか……正直俺はそんな事が可能だとは思えないんだ。思えないんだけど……ウイルス説にはそれなりの信憑性があるのも確かなんだ」

「痛みの問題ね」

「そう、VRゲームではあまりリアルな痛みは伝えないことになってる。ショック死の可能性があるからね。そもそもVR機にはハード的な制約がかせられていて、どんなソフトだろうと、ある程度以上の痛みを感じさせることは不可能だ。ゲーム内の失血死もご法度。極端に不快な感覚も伝わらない。脳がリアルに死を感じたり、精神的にダメージを負う様な不快な感覚を与えることは、法的に禁止されているんだ。でもこのゲームではその制約は無くなっている。何らかの方法でハードを乗っ取っている可能性は非常に高いんだ」

「そうなるともう、ウイルス説以外は考えられないんじゃないかしら?」

「うん……痛みの問題を考えると、どうしてもウイルス説が有力に思えてしまう。俺自身ウイルス説を捨てられないのは事実なんだ。だからこんな話し方になっちゃったんだけど……でもね、ごめんクレアさん。残念ながらウイルス説には致命的な問題があるんだ」

「え? そうなの?」

「うん。既に死人が出ているのなら、ウイルスの駆除なんて悠長に待ってないで、ハードを壊してでも助け出そうとするのが普通だと思わない?」

「そ、それはそうね……言われてみればあまりに当たり前すぎて、失念してた自分が恥ずかしいわ……」

「いやまあ、ここに居る全員気付いて無かったみたいだけど……」


 錆助が一同を見回す。全員そっぽを向いたところを見ると、その指摘は正しかったようだ。


「終了シーケンス無しに無理やりVRの世界から現実に引き戻すのは、危険だと言われてご法度になっている。だけど放っておいたら死んでしまうかもしれないんだ。そんな事にかまってられないだろ? だからウイルス説が正解だとするなら、強制終了不能だろうとなんだろうと、ログアウトするプレイヤーが出始めていなければおかしいんだ」

「だけどログアウトしたプレイヤーはいまだに1人も居ない……」

「そうなんだ。だからウイルス説からは離れて、ログアウト出来ない別の理由を探さなくちゃいけない」

「うーん、難しいわね……。でも……待って? ウイルス説から離れる必要は無いんじゃないかしら? 私達をこのゲームに閉じ込めてから、〈ウイルスを駆除しようとしたり、無理やり助け出そうとすれば、そのプレイヤーは死ぬ〉って宣言すればいいのよ。それならゲームが終わるまでウイルスを駆除される心配も無くなるわ」

「なるほど。俺達は人質でもあるわけか。ウイルスと言われるとプログラムのごく一部だと考えてしまうけど、サスティンワールドはどう見ても初めからデスゲームとして作られている。プログラム本体がウイルスで、それを駆除しようとすれば死んでしまうのか……。うん、その可能性は否定出来ないね。ゲームクリアさえすれば無事生還出来る事を約束すれば、一か八かで助け出そうとする人も居ないだろう。あまり死人が増え過ぎると、どうなるかわからないけどね……。けど、うん。確かにいい案だね。でもこの案が正解なら、犯人の犯行声明が必要になる。ところで、俺達をこの世界に閉じ込めた犯人は、誰だと思う?」

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