円卓会議 序
「おお!議題はなんやねん。そんなん言われたら期待してまうやんか」
「ぎ、議題は特にありません!言ってみたかったんだ!リアルじゃこんな機会ないし、一度でいいから円卓に座って、今のセリフを言ってみたかっただけなんだ!」
「はあ~?なんやねんさびやん!がっかりや!ホンマがっかりやで!うちの期待にふくらんだ胸をどないしてくれんねん!」
「風音ちゃんってば、これ以上ふくらませてどうするつもりなのかしらっ?はじけちゃったら元も子もないわよっ?」
「うっさいわミナモー!誰がはじけて消える儚い胸やねん!うちの胸はシャボン玉か!」
「はじけて消えたくらいがちょうど良いのだと何故気付かないのか!我が輩は敢えて此処に宣言しよう!ナイチチイイチチユメノぐはぁっ!」
「「「「黙れ変態がー!」」」」
「言わせるかよぉ! ……ったく、また灰色ネームになっちまったじゃねぇか」
「あはははは、面白いわねー。みんないつもこんな感じなのね?」
葵が笑う。クレアも咲夜も笑って見ていた。
セレナは少し怯えた様子だ。玉男のことを危険人物として認識したに違いない。
ザビエールはと言えば、どうしてもその表情からは、何を考えているのか分からないのだった。
「ち、違うんだ!いつもはもっとこう、ほら、ちゃんと……、してるわけでもないけど……」
「言葉に詰まるくらいなら、はなっから言わんとき!さびやんのせいでこっちまで恥ずかしいわ!」
「ご、ごめん」
「まあええ。今日はバタバタしとったし、せっかくやから自己紹介から始めよか?」
「ああ、そうしようか。改めて言うのも変な感じだけど、俺は錆助。ヒューマンでエンチャンターのつもりだったけど、今はちょっと考え中。とりあえずみんなよろしく」
一同拍手で応えたが、少し微妙な表情だ。それを見てミナモが話し始めた。
「さすがに名前くらいは、みんなもう覚えてるわよねっ! まっ、セレナは動物の名前以外、まともに覚えてない可能性もあるけどねっ!」
「そ、そんなことはなくってよ? に、人間だって動物ですもの。あたしくらいになれば、その辺はちゃんとわきまえているわ」
「何を言ってるのかよくわからないけれど、覚えてないのははっきりわかったわっ!」
「お、おかしな言いがかりはやめてちょうだい!」
「いいからあなたは黙って聞いてなさいっ! というわけで、私が一人一人紹介してあげるわっ! 時計回りで行くわよっ!」
それを聞いて錆助は思った。
『ミナモがやる気になっている。危険だ。何か良からぬ事を考えているに違いない。警戒しておかなくては』
そんな考えはお構いなしに、ミナモは錆助の紹介とやらを始めた。
「錆助はねっ、変態よっ!」
『ミナモさん?いきなり何を言い出すのかな?』
「そしてしょぼくれているわっ!」
『まだそれを言うか!』
「でもねっ! 私達がギルドを作るとしたら、この変態しょぼくれ男がギルドマスターになるのだけは、覚えておいてちょうだいっ!」
「そ、そんなこと無いだろう?ギルマスなんて誰がやったって同じじゃないか!」
錆助は思わず反論した。
「錆助。誰がやったって同じなら、おめぇがやるしかねぇだろうが」
「そうやでさびやん。いまさら何言うとんねん」
「ガハハハハッ! そんな当たり前のこと、話をするのも馬鹿らしいのう!」
ケンジも風音も玉男も、異存は無いようだ。
他の5人は興味深げに見守っていた。
『おのれミナモ!これを狙っていたのか!』
「錆助の紹介は以上っ!お終いっ!」
『何ぃー!議論の余地は無いのか!』
「私は超絶美少女エルフ、ミナモよっ!破壊と治癒を司る、女神のような魔法使いよっ!」
『こいつ!以前は自分のことを天使に例えてたくせに、いつの間にか女神に格上げしてやがる!』
「そしてこの、ボサボサツンツン頭で赤黒い瞳のイケメンテンプレキャラ。赤いマフラーでも巻けばどこかのヒーローにでもなれそうな、前衛刀剣使いハイヒューマンがっ、うおりゃあ様よっ!」
「てめぇーミナモ!余計なこと言ってんじゃねぇ!」
ケンジがすぐに突っ込んだが、ザビエールと三人娘は嬉しそうに拍手をしていた。いや、ザビエールは嬉しそうなのかどうなのかも分からないのだけれど。
そしてセレナが疑問を口にして、すぐにミナモが答える。
「うおりゃあ様?」
「あなたを狩りに行くぞって誘ったときに、うおりゃあ!って雄たけびを上げてたでしょっ? あなた達5人はその声に釣られて狩り場に来たのよっ! だからケンジはあなた達を呼び集めた〔うおりゃあ様〕ってわけなのっ!」
「ふーん、そうだったの。うおりゃあ様ね!ちゃんと覚えたわ!」
「ッダァアアアアアッ!忘れろ!馬鹿女!」
「非道い!死んでも忘れるもんですか!馬鹿ケンジ!いいえ!うおりゃあ様!」
『とりあえず矛先はうおりゃあ様に向かったか。頑張れケンジ。骨は俺が拾ってやる』
「ところでケンジっ。その無駄に整った顔とエルフ程じゃないけど少し尖った耳で、ハイヒューマンのテンプレキャラなのはわかるんだけど、髪の色だけはずいぶん凝ってるんじゃないかしらっ? 根元はほぼ灰色で、先端に行くほど暗い赤になってるのねっ」
ミナモはうおりゃあ様から離れて、ケンジのキャラメイクについて聞き始めた。
「ゴチャゴチャいじっても、わけのわからん事になるだけなのは、錆助が実証してるからなぁ。何度かチェンジして好みのテンプレを見つけた後は、髪の色と目の色だけいじっておしめぇーだ、俺は」
『矛先が戻ってきた!? いやいや、それよりも!』
「いきなり俺を槍玉にあげるな!何度も言うけど俺のはこだわりの結晶だから!ちゃんと思いどおりのキャラになってますから!わけのわからん事になんかなってませんから!」
「わけのわからん事になってるのは錆助の頭の中よねっ!原型を留めないほどいじってるのは一目瞭然だけど、思いどおりのこだわりの結晶が、どーしてそんなにも、しょぼくれたキャラになっちゃうのかしらっ?」
「しょぼくれてもいなーい!」
「ふんっ、まあいいわっ!どーせ錆助には何を言っても無駄よねっ!」
『ミナモさん酷い!』
「それじゃ次は風音ちゃんねっ! 見てのとおり! 女豹よっ!」
「な!そんな紹介の仕方はないやろミナモ!」
「しかたないわねっ!お望みとあらば詳しく紹介してあげるわっ!」
風音はすぐに自分の失策を悟ったが、もうすでに手遅れだった。
「キャラメイクはテンプレ丸ごとチェンジのケンジとは違って、パーツごとに好みに変えていく、いわゆるモンタージュ方式よねっ」
「そんなとこから始めるんかい!」
「モンタージュ方式でヒューマンとあまり変わらない外見にしているくせに、しっかり猫耳を選んでるのよねっ」
「んなっ!?」
「まあ実際は豹耳なんだけどっ。でも豹耳が人間の耳の位置にあるなんて、まるでハイヒューマンみたいよねっ。せっかくちゃんとした獣耳が付けられる獣人なのに、本来豹の耳があるべき所に耳を付けなかったのは、いったいどうしてなのかしらっ? そんなことならハイヒューマンにしておけば楽ちんだったのにっ」
「そんなん好みの問題やろ!うちの勝手やんか!」
「ふーんっ、好みの問題ねっ。獣人には出来てハイヒューマンには出来ないこと……そっかっ! つまり風音ちゃんは、尻尾を付けたくて付けたくて、たまらなかったってことなのねっ? だからそんな所に耳を付けておきながら、獣人を選んだのよねっ」
「そ、そんなんどうでもいいやんか!」
「勘違いしないで頂戴っ。私は耳の位置に文句を付けるつもりは無いし、尻尾を付けたことには大賛成よっ! むしろ獣耳の獣人が尻尾を付けてなかったら、中途半端と罵っていたかもしれないわっ! だから風音ちゃんのことは褒めてあげたい気持ちでいっぱいよっ! 豹の毛みたいな金色に近い淡い黄褐色のショートヘアっ、それをガラスに溶かし込んだような色の瞳っ、豹のお腹のように白い肌っ、豹柄の尻尾っ。モンタージュの後はお化粧程度に整えただけの顔に比べて、完璧に調整されたプロポーションっ。素晴らしいわっ! そんな風音ちゃんを見て、男どもは何て言うのかしらっ? ふふふっ! 決まってるわねっ! たった一言、こう言うのよっ! 女豹っ!」
「ミナモー!いったいうちに何の恨みがあんねん!」
「あらあら風音ちゃんってば、そんなに真っ赤になってどうしちゃったのかしらっ? きっと、あんまり褒めすぎたから照れちゃったのねっ? 大丈夫っ、今言ったのは私の素直な気持ちよっ! だからそんなに恥ずかしがらないで、もっと自信を持ってその大きな胸を張っていて頂戴っ!」
「ううぅ、もう嫌や……」
『憐れ風音…… そして恐るべしミナモ。絶対にあの女を敵に回してはならない。今こそ俺は確信した』
錆助は、もう数え切れないほど同じ確信を繰り返しているにもかかわらず、そう心の中でつぶやいた。
「お次は玉っちねっ! 青白い顔っ、眼の下にくまっ、黒い瞳に黒い髪っ。もうわかるわねっ! ハイエルフの変態中年ヴァンパイア見習いよっ!」
「わかるかー!適当に済まそうとすんな!うちんときと違いすぎやろ!」
「あら? 風音ちゃんの紹介は一言で済ませるつもりだったのに、茶々を入れたのは誰だったかしらっ? なんならあと一時間くらいは風音ちゃんの紹介をしてあげるわよっ?」
「それはやめて!」
「あら残念っ。次はいよいよ本題に入って、胸が苦しくなる話をする予定だったのにっ! まあいいわっ! 次の機会にとっておくわねっ!」
「さびやん!また円卓会議を開こうとしたら殺す!」
『なにー!?何故俺に矛先が?落ち着くんだ風音!ミナモに踊らされているぞ!』
「あらあら、穏やかじゃないわねっ。 それより玉っちの紹介よね……そうねっ、おでぶちゃんよっ! 後は……くたびれてるわっ! 後は……キャラメイクはモンタージュをベースにしてずいぶんといじってるわねっ。風音ちゃんと錆助の中間くらいかしらっ。後は……もう無いわねっ! 以上よっ! そうそう、名前は〔蟹玉雑炊スペシャル麺全部盛り好き男〕よっ! 好きに呼んであげるといいわっ!」
ミナモは主に、今日仲間に加わった5人に向けて紹介をしていたはずなのだが、肝心のその5人はとっくに置いてけぼり状態になっていた。ここに来て急に話しを振られて、三人娘はビクッと体を震わせる。少し青ざめた顔をしているところを見ると、ミナモの危険度を認識してしまったに違いない。話しを理解しきれていないのか、セレナはどこ吹く風といった様子だ。ザビエールの顔色は相変わらず読めない。
おそるおそる葵が口を開いた。
「じゃあ玉さんって呼ばせて貰っていいかしら?」
「うむ!好きに呼んでくれて構わん!」
「「「よろしくね、玉さん」」」
「見目麗しきお嬢さん方、我輩こそよろしくお願いする! フワーッハッハッハッハ!」
三人娘は目の前の変人をどう扱えばいいのか分からず、困ったような顔で笑っていた。
「私ハ、玉男サンデ慣レテシマイマシタノデ、玉男サンデ」
「うむ!よろしく頼むぞザビエール! ガァーッハッハッハッハ!」
セレナはやっと話しを理解して、玉男に視線を向けた。
「じゃあ、丸っこいからあたしは玉ちゃんって呼ぶわ!」
「ファッハッハッハッハ。よろしく頼む、お嬢さん」
そう答えた玉男の瞳は、まるで幼子を慈しむ父親のような優しさを湛えていた。
それを見て焦った二人が目を合わせる。
『いかん!まさか奴は気付いているのか?』
『わからないけど、とにかく危険よっ!』
錆助とミナモは、アイコンタクトだけで会話を済ませると、ミナモがとりあえず話しを進めるために、口を開いた。
「次っ!ザビエールっ!」
しかしミナモには、ザビエールについて語るべきことなど、何一つ思い浮かばなかった。
「見たまんまよっ!言いたいことがあるなら自分で言いなさいっ!」
「オウッ、ナントイウ、コトデショウ……」
いきなり振られたザビエールが話し始めた。
「エエト、ソウデスネ。私ハ、ザビエール。ケンジサンヲ、神ト崇メル、ウオリャア教ノ、宣教師デス。素手デ戦ウ宣教師デスネ」
「てんめぇザビエール!変な宗教作ってんじゃねぇ!おめぇはどう見てもキリスト教の宣教師だろうがぁ!」
「見タ目ニ騙サレテハ、イケマセンネ。我ガ主ヨ」
「そんなもんになった覚えはねぇー!いいかげんにしやがれ!」
「主ハ、オ怒リノヨウデス。悪イコトガ、起コラナケレバ、良イノデスガ」
「起こせねぇよ!起こせたとしても、おめぇがいなくなりゃ何も起きやしねぇよ!」
「オオ、主ハ手厳シイ。コレガ、神ノ試練、ナノデスネ」
「うるせぇよ!こんっのてっぺん禿げがぁ!おめぇはもうしゃべるんじゃねぇ!次だ次ぃ!」
ケンジが強引にザビエールの自己紹介に幕を下ろした。玉男もそちらに目を移していたことを確認して、ミナモはひとまず胸を撫で下ろした。
「次は葵ちゃんねっ!」
「私も自分で自己紹介したほうがいいわよね。頑張るわ!」
ミナモが自分の名前を呼ぶと、葵は間髪いれずにそう言って立ち上がった。
風音の紹介を聞いていた葵は、自分があの立場に立たされるのだけは避けようと心に誓っていた。ミナモがザビエールの紹介を本人に放り投げたのを見て、溺れかけの人間が目の前に浮き輪を投げられたかのごとく、それに飛びついたのだ。
ミナモは少し不満そうだったが、先ほどザビエールに放り投げてしまった手前、葵の紹介の権利を強硬に主張するのは、やはり少々気が引けたようだ。どうやらおとなしく引き下がることにしたのだろう。葵に軽く頷いて見せた。
葵はそれを見て安堵した。クレアと咲夜も回避策を探していたのだが、自己紹介の流れが出来たので、ほっと一安心していた。そして何故か錆助もほっと胸を撫で下ろしていた。
『あの三人がミナモの毒牙にかからなくて、本当に良かった。せっかくお会い出来たのに、ここでサヨナラなんて、もったいないもんな……』
錆助の考えることなどにはおかまいなく、葵が自己紹介を始めた。
「葵です。ヒューマンの裁縫師よ。前は私達三人で〔カンパニュラ・ブルーワンダー〕ってギルドを作ってたの。今回はもちろんこのギルドに入れてもらうつもりよ。よろしくね。そしてこの子はセレナちゃんが捕まえてくれた、アンゴラウサギの〔わたあめ〕ちゃん。この子もよろしくね」
『葵さんは和風美人だ。抱きかかえた白い毛玉が、その美しさを一層引き立てている。潤んだような黒い瞳に濡れ羽色の長い髪、透明感のあるきめ細かな白い肌。素敵だ……』
「次は私ね。クレアよ。エルフでもちろん裁縫師。〔カンパニュラ・ブルーワンダー〕は花の名前ね。薄紫の、とても小さなバラのような花が、たくさん咲くの。カンパニュラの花言葉は〔感謝〕〔誠実〕。私達もそんな裁縫職人になりたいなぁ、なんて思ってギルド名にしちゃったのよね。今思えば若気の至りってやつかしら?」
『とんでもない!その心意気、素敵です!』
「このウサギの名前は〔マッシュルーム〕よ。地名のアンゴラが名前に入る動物はたくさんいるけど、裁縫師にとって〔アンゴラ〕と言えば、やっぱりこの子達のことね」
『クレアさんは、日本人とダークエルフのハーフといった感じ。焦げ茶色の瞳がキラキラと輝く切れ長の目、健康的な小麦色の肌、肩で切り揃えた、赤栗色のストレートヘアから覗くエルフ耳、それでいて、そこはかとなく漂う和テイスト。素晴らしい……』
このゲームには、ダークエルフやハーフエルフといった種族は用意されていないが、前作ではそのような見た目にして、自らその種族を名乗るプレイヤーは多かった。種族間の能力差もあまり無いので、その辺は自由意思を尊重する風潮になっていたのだ。エルフと名乗ったところを見ると、クレアは種族にこだわりは無いようだ。
「咲夜です。猫人族の裁縫師です。前は鎧なんか、レシピどおりの既製品しか作れなかったけど、今回はちゃんと防具も研究するつもりよ。風音ちゃんに似合うセクシーな革鎧を作ってみせるわ」
「お、おおきに」
風音が挙動不審になりながら答えた。
「ウサギの名前は〔ピンポンマム〕。この子ともどもよろしくね」
『咲夜さんは猫人族の特徴的な部分以外、見た目はほぼヒューマンだな。とても大きな、灰色がかった淡い水色の虹彩。明るい場所でも真ん丸の、大きめの瞳孔。小さい面積ながらも、しっかりと存在を主張する白目。おっとりとした感じの垂れ目は、よく観察するとヒューマンと猫人族のいいとこ取りだ。薄い桜色の肌に、もはや髪なのか毛なのかも判らない、ゆるっふわの真っ白い頭髪。そこから突き出たやや小振りの正統派猫耳、白い尻尾。完璧じゃないか……』
猫人族には、猫耳と尻尾が必ず付いている。猫耳は位置も形も本来の猫耳だ。それに比べて、獣人は自由に選択が可能だ。獣耳も尻尾も付けなければ、ヒューマンのような見た目にも出来る。ハイヒューマンは尻尾は付けられないし、獣耳でも必ず人間の耳の位置に付けなければならないが、全種族中唯一、頭の上に第二の耳として獣耳を付けることが出来る。いわゆる四つ耳だ。第二の耳に聴覚器としての機能は無いが、本物の獣耳のように動かすことが出来る。尻尾はゲーム内の装飾品で代用出来るので、ハイヒューマンのテンプレキャラの無駄に整った顔立ちと相まって、一部のマニアには垂涎ものらしい。さすがは人に造られし種族〔ハイヒューマン〕である。
ハイヒューマンの四つ耳を偏愛する彼らは〔生耳派〕と呼ばれ、獣人に尻尾と人間の耳を付けて、装飾品の猫耳を付ける〔生尻尾派〕との間で、人知れず抗争を繰り返しているという。しかし、四つ耳を決して認めない〔獣人愛好家〕との戦いになると〔四つ耳派〕として団結することもあるらしい。ただし全てを獣耳にしてしまうと〔四つ獣耳派〕という違う派閥になってしまうので注意が必要だ。〔四つ耳派〕は彼らのことを冒険者と言って恐れ、争いに発展することは無いようだ。
そんな彼ら全てに共通するのは、〈尻尾が無ければ見向きもしない〉という一点だ。「尻尾の無い獣耳なんて唯の異形じゃないか」というのが彼らの主張らしいのだが、一般人がその感覚を理解することは非常に難しい――――
『しかし皆様お美しい……防具云々は置いといても、この出会いは素敵な出会いだったと言わざるを得ない。なによりみんなお姉さんキャラなのがいい。そんなキャラは今まで俺の周りには居なかった。それはもう見事なまでに居なかった……』
「最後はあたしね!ハイエルフの調教師、セレナよ!よろしくお願いするわね!」
『お姉さんじゃないキャラの見本が出てきたな。普通にしていれば穏やかな印象の薄茶色の瞳、普通にしていれば柔和に見える整った顔つき、少し黄色がかった明るめのブロンド、ハイエルフらしい白い肌、ハイエルフらしい尖った耳。普通にしていれば見た目は素敵なお姉さんキャラなのに、どうしてこんなに普通じゃないんだ……』
「早速この子達の紹介をするわ!まずはシンリンオオカミの〔チロ〕!優しい顔をしてるでしょ?そしてこの灰色の毛並みがたまらないのよー!私のチロー!」
セレナは我慢しきれなかったようでチロに抱きついて叫んだ。
「そしてこの子がシマエナガの〔マシュマロ〕ちゃん!白くてちっちゃくてかわいいでしょ?マシュマロちゃーん!んむっちゅー!ん!ん!ん!」
セレナは我慢しきれなかったようでマシュマロにキスを繰り返した。
「そしてハクトウワシの〔トウちゃん〕よ!白い頭が格好いいでしょ?私のトウちゃーん!」
セレナは自分の左腕に止まるトウちゃんに、器用に抱きついた。見るとその左手には、鷹匠が使うエガケのような、大きな手袋がはめられていた。まだ革手袋を作れない裁縫師三人娘が、布で工夫して作ったようだ。昼間セレナが血を流しているのを見ていたのだろう。少々不恰好だが、血が出ていないところをみると、機能性は何とか確保出来たようだ。
ひと段落着いたところで、風音が話し始めた。
「さて、自己紹介も終わったことやし、特に議題も無いんなら、お次の話題は決まっとるやろ。ロイドのおっちゃんにしっかり聞いといたで」
その一言で弛緩した空気は消え去り、皆真剣な表情で風音の話しに耳を傾けた。