待ち合わせ
「ケンジ!お待たせ!」
「おう!錆助!遅かったじゃねぇか! つっても他のみんなもまだみてぇだけどな」
「そりゃキャラメイクがこのゲームの売りの一つだからね。ミナモなんか時間ギリギリまで来ないんじゃないか?」
「あいつは自キャラ萌えはなはだしいからなぁ……」
「このゲームの価値の90パーセントはキャラメイクにあり! とか、のたまってるしな」
「それに比べて錆助ときたら…… 時間掛けた割に、そのしょぼくれたキャラはどーなんだ?」
「うるさい!これでも俺なりに色々とこだわってんだよ!お前の方こそ、そのテンプレくさいイケメンキャラはどうなのよ?」
「いいんだよ! あんまりゴチャゴチャやったって、おめぇーみてぇにわけのわからん事になるのがオチだしなぁ」
「人のこだわりの結晶つかまえて、わけわからん言うな!」
「ハハハッ! さて、時間までまだ45分程か……。チュートリアルは出来るみてぇだが、みんなを待ってなきゃならんし、正直暇だなぁ」
「だな。オープニングイベントなんて、いったい何する気なのかね?」
「わからんよなぁ。ログイン開始から2時間も街から出れねぇなんざぁ前代未聞だろ?」
「だよなー。これでイベントが期待はずれだった時には、ただじゃおかん!」
「おう! そんときゃ王城に乗り込んでいって、王様をギッタギタのドロッドロのグッチョングチョンにしてやろーぜ!」
「グロいわっ!つーか王様関係無いだろ!だいたい貴重なイベントNPC消滅させたら、俺らが他のプレイヤーにギッタギタのドロッドロのグッチョングチョンのポニョッポニョにされてしまうわ!」
「ポニョッポニョっておめぇ……」
「き、聞かなかったことに…… どうか聞かなかったことにしてくださいケンジさん……」
「そらもう遅いわ!グロッグロのケンジ!そしてポニョッポニョのさびやん!」
「えっ、風音!? ちょっ、なんてタイミグで現れやがる!」
「そっちこそ待ち合わせ場所で、声掛けるのが恥ずかしくなるような会話しとるんやない!このポニョッポニョどもが!」
「てめぇー風音!俺までポニョッポニョに入れるんじゃねぇ!」
「いやいや、俺だってポニョッポニョなんかじゃないんだ!話を!俺の話を聞いてくれ!風音!」
「えーい!やかましいわ!あんたらもうポニョッポニョに決定や!このゲームしてる間はポニョッポニョワン、ツーと呼ぶから覚悟しとき!」
「「ええええええええー!?」」
「なんだか騒がしいと思えば、やはりおぬし達か…… 声を掛ける方の身にもなってくれ……」
「た、たまやん!? ちゃうねん!うちはただこの馬鹿二人に世の中の常識ってもんを教えてるだけや!せやからそんな三馬鹿みたいなくくり方せんといて!」
「「やかましい!馬鹿おんな!」」
「!? 馬鹿二人組に馬鹿って言われた!?」
「やれやれ…… まったくおぬし達ときたら……」
「部外者ヅラしてんじゃねぇ!そもそも声を掛ける方の身になるのはおめぇだ!恥ずかしネームナンバーワンの、たまおとこ!」
「そうやで!たまやん!」
「そうだ!自覚しろ!このっ蟹玉雑炊スペシャル麺全部盛り好き男!」
「…………」
「「「「そこっ!素通りしようとすんな!ミナモ!」」」」
VRMMORPG〔サスティンワールド〕内の一幕である。完全スキル制国産VRMMORPG〔サスティンオンライン〕の続編として、ファンの期待は高い。レベル制のゲームに人気が集まる昨今、完全スキル制を望む声も多く、そういったプレイヤー達が今日のサービス開始を前に集まっている。現在進行形で前作のプレイヤーである錆助達も、本日12時のオープニングイベントに参加するために、待ち合わせていたところだった。
「ひ、人違いじゃ無いでしょうか? みなさん見覚えありませんし……」
「おいおいミナモ? あっ!そういや名前の重複がないように早い者勝ちなんだよな。ありきたりな名前だし、かぶっちまったのか? むしろケンジ取れたのって奇跡に近いんじゃないか?」
「おいおい錆助、鳥頭もたいがいにしとけよ? 俺がこの名前取れねぇわけがねぇだろーが」
「え?」
「そうやで、騙されんなやさびやん!うちら名前引き継ぎサービス使ったやろが!なに忘れとんねん!」
「そういやそうだったな……ってことは! ミ~ナ~モォ~!」
「嫌ぁーっ! 変態が集団で襲ってきますーっ! お巡りさんっ!ガードさんっ!GMさ~んっ!誰でもいいから私を守ってーっ!」
「グフフフフッ! 世界広しといえどもおぬしを守る者などどこにもおらぬわ!いい加減に観念せぬか! ファーッハッハッハッハ!」
「たまやんは黙っとき!」
「ううぅ…… せっかく気合い入れて、とんでもなく可愛らしいキャラを作ったというのにっ…… 仲間が変態集団だというのは選択の余地がないのでしょうかっ? 神様ぁーっ」
「「「「誰が変態集団だ!いい加減にしろ!」」」」
サスティンオンラインのプレイヤーが、サスティンワールドに移行するにあたって、唯一優遇されるのが、この名前引き継ぎサービスなのだ。
「まあ変態は仕方ないとしてっ!このキャラの可愛さったらどう?まるで映画のヒロインが抜け出してきたんじゃないかってくらいの出来じゃないかしらっ?ねっ錆助、どう?」
「変態はお前だ!この自キャラ萌え変態娘が! しかしまたエルフとはね、ミナモは今回も魔法使いでいくのか?」
「まーねっ!こんな天使みたいなキャラに回復してもらえるんだからありがたいと思いなさいよねっ!って誰が変態かっ!このど変態っ!私の可愛らしさをスルーする変態に呪いあれっ!だいたいゲームの中でくらい超絶美少女の夢を見たっていいじゃないっ!そんなしょぼくれたキャラを作っちゃう錆助にはわかんないのよっ!ケンジだってイケメンキャラだし風音ちゃんだってボインボインだし玉っちは……まっ置いといて。 とっ にっ かっ くっ! 自キャラに思い入れがないと楽しくないでしょっ!みんなだってそーでしょ?」
「人のこだわりの結晶つかまえて、しょぼくれた言うな!」
「俺のはほとんどテンプレまんまだけどなぁ。見てくれがいい方が思い入れがってなぁ、まぁ同感だな」
「ちょ、ミナモ!?そんな流れで言われたら、まるでリアルのうちが断崖絶壁みたいやんか!」
「魔法少女を目指すのならば何故ハーマイオニーを目指さないのか!ちなみに我が輩は1作目のハーマイオニー以外は認めん!」
「「「「黙ってろ!このっ真性ど変態っ!」」」」
古い映画ではあるが、ファンタジーなゲーム世界にどっぷりと浸かりまくった彼らにとっては、古典の一種として認識されているのだ。
「私はエルフ魔法使いとして、みんなはどうするのかしらっ? うーん、そうねっ、ケンジの無駄に整った顔と少し尖った耳はハイヒューマンのテンプレキャラねっ!」
「おう、当たりだ。俺は前作と一緒で、刀剣使いの前衛だな」
「そのボサボサツンツン頭といい、ケンジらしいわねっ。錆助は?」
「俺はヒューマンで、エンチャンターでもやろうかと思ってる。前は戦士だったからとりあえず魔法使いの予定」
「あらまっ、じゃあ回復はご自分でどうぞっ! 獣人の戦士でもヒューマンの魔法使いでも、しょぼくれ具合は変わらないのねっ! そして……風音ちゃんは豹の獣人ねっ!」
「正解。前は魔法使いやったし、今回は獣人の斧戦士やな」
「そっか、職業は180度変わっても、ボインボインは変わらないのねっ! 玉っちは……何かしらっ?」
「ふむ、見てわからんか? 我が輩はハイエルフじゃから魔法使い志望じゃの」
「わかるかー!たまやんのアホー!ついでにミナモのアホー!誰が万年インチキボインボインやねん!まあそれは置いといて!どこにそんなまるまると肥え太って、くたびれた中年じみとるハイエルフがおんねん!」
「そうよっ!玉っち!それはハイエルフのみならず、全エルフ種に対する冒涜よっ!」
「フッフッフッ!よいでわないか!こんなハイエルフヴァンパイアが一人くらいおってものう!」
「よりにもよってヴァンパイア志望かい!謝れ!全国のヴァン・ヘルシングさんに謝れ!」
「何故に我が輩が宿敵たるヴァンなんちゃらさんに謝らないといかんのか!納得いかーん!」
「「「「いいからお前は謝まっとけ!」」」」
サスティンワールドでの種族はサスティンオンラインから引き継がれており、獣人、ハイヒューマン、ヒューマン、エルフ、ハイエルフの順で、近接戦闘が得意な種族から魔法が得意な種族になっている。その他に、猫人族、ドワーフが、生産職向きの種族として用意されており、猫人族は料理などの細やかな作業、ドワーフは鍛冶などの力仕事が得意だとされている。
とはいえ、完全スキル制の前作では種族間の差異はあまり無く、よほどこだわりのある者や対人戦に明け暮れる戦争好き以外は、見た目で選ぶプレイヤーがほとんどだった。猫人族の前衛戦士や、獣人の魔法使い、ハイエルフの鍛冶屋なども珍しくはなかったので、今作もおそらくそうなるであろうと思われている。
「さて、ミナモも来たことだし、そろそろじゃねぇのか? 錆助」
「ん? そうだな、そろそろ行きますか! っとその前に、はぐれないようにパーティ組んでおこうか」
――――オープニングイベント会場、城門前広場――――
城門の真上にあるバルコニーで、猫人族のGMがマイクを握っている。
「それでわ皆様!いよいよサスティンワールドの幕開けです!皆さんもご一緒にー!」
「じゅー!きゅー!はち!なな!ろく!ごー!よん!さん!にー!いちっ!」
「ぜろ!!」
ジ…ジジッ ジッ ザァァァァァァアアアアアッ
世界はノイズに包まれて、錆助は意識を失った…………