6話
「まぁ、話はゆっくり、ファミレスででもしようや」
サワダはそういうと、俺達を道路向かいのファミレスに連れて行った。
そのファミレスは知っている全国チェーンの店だ。しかし、名前はそのままだが店のロゴと雰囲気が安っぽくなっていて、俺は少し違和感を感じた。サワダはその違和感を察したのか、席に着くすぐに口を開けた。
「ここは3年位前に海外の企業に売られたんだ。名前は残ったけど、オーナーが変わったからな。中身はスッカリ別もんだよ」
何か特別な感情があると言うより、事実を淡々と話すような口調でそういうと、机の上にあるディスプレイに手をかざした。あの手帳と同じ、定期くらいの大きさのディスプレイだ。
すぐに電子音が可愛らしくなり、続いて「IDカクニン シマシタ」と女性っぽい声がする。
「個人識別制度が導入されたのはそのもう少し前だよ。今じゃ、国民のほぼ全員に数字が割り振られている。最新機器に静脈登録さえしておけば、今みたいに支払いもそこからできるんだ」
お財布ケータイのようなものなのかな? と想像しながら俺は「へぇ」と頷いた。十年って、短いようで世の中が変わるには十分な年月なんだ。
「何か、食うか?」
サワダはそういって、他のボタンを押す。今まで普通の机にしか見えなかった自分達の手元に、メニュー画像が映し出された。注文はタッチパネルらしいと言うことだけは辛うじてわかる。
「あ、はぁ」
俺は固い表情でサワダをみつめる彼女を一瞥してから、同じようにサワダを見る。
もし、さっきの立体画像を見ていなかったら、本当に普通のどこにでもいるお兄ちゃんだ。ただ、先に彼の偉大さを頼みもしないのに警察官に叩き込まれたもんだから、事前情報分の緊張はあるが、正直この世界で彼がどれくらいの有名人で、どれくらいの人気なのかわからないから、そこまでこちらも緊張できない。
「じゃ、俺は」
軽くサンドイッチでも……とパネルを押しかけた時だった。彼女の鋭い声がサワダに突き刺さった。
「アナタ、何なんですか?」
俺は目をしばたたかせ、警戒を色をあらわにする彼女を見つめた。
「誰って、サワダだって、さっきの警察も……」
「そうじゃないよ。どうして、私たちのことを知ってるかきいてんの!」
彼女は俺にそういいながら、視線はサワダを逃すまいとずっと定めたままにしていた。その頬は引き攣り、前を見据えサワダを捕らえる目は不安と不信感に満ちている。
「知ってるって、どういう」
これじゃ、親切にしてくれてるサワダに失礼なんじゃないか? そう思い、彼女の腕を引いてみるが、彼女は岩のように頑として動かない。
「だって、変よ。どうして、私たちがこの時代のこと知らないの、この人は知ってるの? どうして人を探してるのを知ってるの?」
「あ」
俺はそれを聞いて、まだサワダの手元にある警察の電子手帳に目をやった。
大きな手が宝を守る番犬のように置かれた、黒い四角い手帳。あれは確かに、俺達が人探しを依頼した時に警察が開いたものだ。それにIDか何かを打ち込めば検索できるんだろうということは想像に難くない。
もし、これが当たってるとして、サワダがこれを餌に俺達を連れ出したと言うことは、俺達の事情を知ってるってことじゃないか?
「サワダ、さん。アナタは一体……」
俺はそのまま視線を上げた。
俺達の向かいに座る、その男は、黙って変わらぬ笑みを浮かべているだけだった。




