強気美人、五分で落ちる ~激辛パフェから始まる、ちょっとチョロい出会い~
私の名前は相良レイナ。
完璧主義で、仕事もできて、顔もいい——と、自分では思っている。
駅前のカフェは、春のにおいが少しだけ混じっていた。
ドアが開くたび、やわらかい空気が流れ込んでくる。
——その中で。
「……で、これがその“期間限定・超激辛ハニーパフェ”です」
目の前に置かれたそれだけが、場違いに赤かった。
「ハニーって言ったわよね?」
「はい。“唐辛子の蜂蜜漬け”でございます」
聞いてない。
……いや、聞いていたかもしれない。
でも、限定って言葉に弱いのは仕方ないじゃない。
「……いいわ。いただく」
私はスプーンを取った。
視線は感じている。だからこそ、引けない。
一口。
「……」
——辛い。
違う。辛いとかじゃない。
口の中で何かが暴れている。
「……ふふ」
私は笑った。
崩れるわけにはいかない。
「お客様、大丈夫ですか?」
「ええ、とても。むしろ——」
二口目。
「……っ」
無理だった。
「水、どうぞ」
横から差し出されたグラスを、反射的に掴む。
コトン、とテーブルに触れた音がやけに大きく聞こえた。
一気に飲み干す。
冷たい水が、舌の上の騒ぎを静かに押し流していく。
「はぁ……」
私は小さく息を吐いて、カップを持ち直した。
——知らない男。
「……別に、助けてなんて頼んでないけど」
「顔がそう言ってましたよ」
失礼な。
睨みながら、私は前髪を指先で払った。
普通の男がいた。
普通すぎて、少しだけ腹が立つ。
「……まあ、ありがとうは言ってあげる」
「どういたしまして。で、それ、まだ食べるんですか?」
「当たり前でしょ」
言ってしまった。完全に勢いだった。
「じゃあ、俺、見守ってますね。倒れる前に止めますけど」
「やめなさいプレッシャー」
——でも、やるしかない。
二口目。
「……っ!!」
やっぱり無理だった。
「普通に残していいと思いますよ」
「……」
私はスプーンをそっと皿に戻した。
そして——
「……シェア、する?」
「え?」
「一人で食べるものじゃないと思うのよ、これ」
「さっき“当たり前でしょ”って」
「状況は変わるの」
私は腕を組んだまま言い切る。
男は少し笑って、肩をすくめた。
「じゃあ、一口だけ」
「責任持ちなさいよ」
「怖いな」
——結果。
「無理ですこれ」
「でしょ」
同時に笑う。……悔しい。
「……ねえ」
「はい?」
「あなたのせいで、私の完璧な一日が崩れたんだけど」
「え、俺ですか?」
「ええ」
私は椅子の背にもたれながら、腕を組んだ。
「責任、取りなさいよ」
「だからなんで」
「この後の予定。暇でしょ?」
「まあ、暇ですけど……」
「決まりね」
——こうして私は、五分前に出会った男と、午後を過ごすことになった。
外に出ると、さっきより少しだけ空気がやわらいでいた。
……なんて思ってる時点で。
たぶん私は、結構チョロい。




