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強気美人、五分で落ちる ~激辛パフェから始まる、ちょっとチョロい出会い~

作者: 春凪とおる
掲載日:2026/04/06

 私の名前は相良レイナ。

 完璧主義で、仕事もできて、顔もいい——と、自分では思っている。


 駅前のカフェは、春のにおいが少しだけ混じっていた。

 ドアが開くたび、やわらかい空気が流れ込んでくる。



 ——その中で。


「……で、これがその“期間限定・超激辛ハニーパフェ”です」


 目の前に置かれたそれだけが、場違いに赤かった。


「ハニーって言ったわよね?」

「はい。“唐辛子の蜂蜜漬け”でございます」


 聞いてない。

 ……いや、聞いていたかもしれない。


 でも、限定って言葉に弱いのは仕方ないじゃない。


「……いいわ。いただく」


 私はスプーンを取った。

 視線は感じている。だからこそ、引けない。


 一口。


「……」


 ——辛い。


 違う。辛いとかじゃない。

 口の中で何かが暴れている。


「……ふふ」


 私は笑った。

 崩れるわけにはいかない。


「お客様、大丈夫ですか?」

「ええ、とても。むしろ——」


 二口目。


「……っ」


 無理だった。


「水、どうぞ」


 横から差し出されたグラスを、反射的に掴む。

 コトン、とテーブルに触れた音がやけに大きく聞こえた。


 一気に飲み干す。

 冷たい水が、舌の上の騒ぎを静かに押し流していく。


「はぁ……」


 私は小さく息を吐いて、カップを持ち直した。


 ——知らない男。


「……別に、助けてなんて頼んでないけど」

「顔がそう言ってましたよ」


 失礼な。

 睨みながら、私は前髪を指先で払った。


 普通の男がいた。

 普通すぎて、少しだけ腹が立つ。


「……まあ、ありがとうは言ってあげる」

「どういたしまして。で、それ、まだ食べるんですか?」

「当たり前でしょ」


 言ってしまった。完全に勢いだった。


「じゃあ、俺、見守ってますね。倒れる前に止めますけど」

「やめなさいプレッシャー」


 ——でも、やるしかない。


 二口目。


「……っ!!」


 やっぱり無理だった。


「普通に残していいと思いますよ」

「……」


 私はスプーンをそっと皿に戻した。


 そして——


「……シェア、する?」

「え?」


「一人で食べるものじゃないと思うのよ、これ」

「さっき“当たり前でしょ”って」


「状況は変わるの」


 私は腕を組んだまま言い切る。

 男は少し笑って、肩をすくめた。


「じゃあ、一口だけ」

「責任持ちなさいよ」

「怖いな」


 ——結果。


「無理ですこれ」

「でしょ」


 同時に笑う。……悔しい。


「……ねえ」

「はい?」


「あなたのせいで、私の完璧な一日が崩れたんだけど」

「え、俺ですか?」


「ええ」


 私は椅子の背にもたれながら、腕を組んだ。


「責任、取りなさいよ」

「だからなんで」


「この後の予定。暇でしょ?」

「まあ、暇ですけど……」


「決まりね」


 ——こうして私は、五分前に出会った男と、午後を過ごすことになった。


 外に出ると、さっきより少しだけ空気がやわらいでいた。


 ……なんて思ってる時点で。


 たぶん私は、結構チョロい。



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