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FAKE HERO  作者: 月江堂
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そうはならんやろ

「マイナンバーカード?」


「そ。マイナンバーカード」


 兵装とは。


 そもそも宇宙船「ばかうけ」に乗って地球にやってきた異星人「ドグマ」が地球人への攻撃のために使っている装備であり、基本的にはヒーローのものも、それをリバースエンジニアリングと言えば聞こえは良いが、鹵獲(ろかく)して勝手に使いまわしているものである。


「宇宙人の装備に、なぜマイナンバーカードが」


 当然の疑問。


 マイナンバーカードは、日本国内だけで流通しているシステムである。システムを使えるようにするためにアイフォーンやアンドロイドのスマホに日本政府がICチップを読み込めるように依頼したことがあったが、それをドグマに対しても同じようにしたなどという話は一切聞いたことがない。


 分からない。


 何も分からない。しかし財布からマイナンバーカードを取り出して内田レンに渡す。


 同じように『グルナヴェ』のアタッシュケースも渡すと、マイナンバーカードを上においてパソコンの操作をし始めた。


「マイナンバーカードで、兵装が強くなるのか?」


「これ単独ではならないよ」


 それはそうだ。


 マイナンバーカードを登録すると兵装がパワーアップされるなどという話が本当にあったら、ドグマと日本政府が繋がっていることになってしまう。


「そうだよな。当たり前だよな」


「銀行口座と紐付けると強くなるんだよ」


 なぜ。


「それはちょっと……噂ですら聞いたことがないんだが。銀行口座と紐付けると強くなる……? それは、どういう理屈で?」


「理屈は分からない」


 たとえば、量子力学というものがある。


 量子力学の世界では「数式」が極めて強い力を持ち、直感的に「そうはならんやろ」と思うような事象でも、数式上成り立っていれば「なっとるやろがい」という挙動を示す。


 簡単に言えば「何故そうなるか」は分からなくても「どう振る舞うか」はきわめて正確に分かるのだ。


 電子はなぜ粒子と波動の両方の性質を示すのか。観測すると状態が決定するのはなぜか。不確定性原理が成り立つ根本原因は何なのか。分からない。


 リチャード・ファインマンも「量子力学を理解していると思っているなら、それは量子力学を理解していないということだ」と発言している。おそらくは今の量子力学はその数式に何か重要な要素が欠けていて、物事を正確に表しきれていないのだろう。しかし近似的にはおおよそ正しい答えを出せる。


 繰り返し言うが、何故そうなるかは分からないが、どうなるかは分かっているのだ。


 そして、そんな状態の量子力学が半導体やレーザーなど、すでに日常生活で原理も分からないのに使われているのである。


 よって、全く科学的に内容の解明されていない兵装が、内容も理解されずに対ドグマ戦に投入されることも有り得る。


 というか、人類の学問の歴史上、そんな状態の時代の方が長かったのだ。「利用」に「理解」は必要ない。乱暴な言い方ではあるが。


「そうか……そうなのか」


 よって、マイナンバーカードによって兵装がパワーアップされても何の不思議もないのだ。


「僕なりの『仮説』はあるがね……よし、これで紐づけできた」


 ターンッとエンターキーを押して、内田レンはマイナンバーカードをジョーに返す。ジョーは受け取ったそれをしばらく不思議そうに眺めていたが、やがて財布の中にしまった。


「ちょっと怖いんだが……たとえば、兵装の力を使い過ぎたら預金からお金が消費されたりは、しないよな?」


「ははっ、さすがにそんな極悪な事例は報告されたことがないねえ」


 笑っている内田レンであるが、ジョーは笑えない。


 もちろんまだ学生なので通帳に大した金額は入っていない。それがすべて消えたところで今まで溜めていたお年玉が無くなる程度であるが、これがもしマイナスになったりしたら目も当てられないだろう。


「お金を払って兵装をパワーアップするわけじゃない」


 それはそうだ。


 そもそもどこに払うのだ。兵装自体がドグマの集金システムでもない限り、そんなことはあり得ない。というかマイナンバーカードと口座番号が分かっただけで引き落としが出来るはずがない。小説や漫画に出てくるスーパーハッカーじゃないんだから。


「預金額が大きいほどパワーアップするんだよ」


「なぜ」


 なぜの嵐。


 しかし問いかけたところでその答えをだれも持ち合わせてなどいない。


「広告費とか投げ銭の君の取り分の振込先も修正しておいたから」


「ん?」


 ここまであまり気にしていなかった要素。投げ銭があればお礼の言葉を言うくらいのことはしていたが、新規に秋葉原などで兵装を購入するのでなければ基本的にヒーローには不要なものだとジョーは切り捨てていた。


「簡単に言えば、視聴者が君たちを応援すれば応援するほど、兵装は強くなる」


 分からないながらも、ようやく何かがつながった気がした。


 理屈としては何となくわかる。ヒーローは、応援されればそれが力になる。感覚的には分かるのだ。だがやはり「なぜ」という疑問が残る。なぜそんな仕様が実装されているのだ。


 なにか、ドグマと人類の戦い自体が壮大なブックありきのプロレスなのではないか。そんなふうにも思えてくる。


「君が何を言いたいのかは分かってるつもりだよ。でも多分、君の考えは遠からずとも、当たらず」


 パソコンの画面を眺めながらレンが呟く。


「今分かっているのは、君とクローンジョーの間の力の差はおそらく、その口座にある、ってところだ」


 このヒーローと、ドグマの戦いの間にはいったい何が横たわっているのか。


「武石丈、令和元年、六月六日生まれ……」


 パソコンの画面に映っているマイナンバーに紐付けられた個人情報を、内田レンはつぶやいていた。

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