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FAKE HERO  作者: 月江堂
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配信者

「グハハハハ! 弱い、弱すぎるぞ! この程度でヒーローなどと片腹痛いわ!!」


「くぅッ……」


 銀行である。


 おおよそ人とは思えない、獣の頭骨を被った異形の巨人といった風情の怪人が立っている。その右手には乱雑に詰め込まれたのか、万札のはみ出たアタッシュケースが握られている。


 既製品の米菓と似ている形状をしていたことから「ばかうけ」と俗称される宇宙船。埼玉県の某所に軟着陸して地中に沈み込んだそれは人類よりもはるかに科学力の進んだ異星人のものであった。


 自衛隊を護衛として編成された調査団に対して異星人は攻撃を仕掛けてきた。当時の報道では自衛隊の携行していた小火器では全く歯が立たず、撤退を余儀なくされたという。


 その時から十数年の時が流れた。自衛隊と民間の活躍により宇宙船も入り口付近のごく近辺のみは探索が完了している。そして戦利品、異星人の使用している兵装を、原理も理解せずに使用する者達がいる。


 それはすなわち、一つはオーバーテクノロジーを犯罪に悪用する輩であり、もう一つはそれに対抗する“ヒーロー”と呼ばれる者達である。


 この場で言えば獣の頭骨を被ったような大男は明らかに悪人、超常の力を銀行強盗などという私利私欲のために使う者。


 そしてその怪人から少し離れたところに倒れている者がいる。全身を黒いボディスーツで包んでいるが、そのシルエットは明らかに通常の衣服や防具ではない。


 そう、彼らもまた同じように「ばかうけ」から手に入れた兵装を利用し、しかしそれを正義のために生かしているのである。


 しかし、この場においてはどうやら風向きが悪いようだ。怪人の前に無様に敗北し、地を舐めているのだ。疲弊しきって、アーマーもボロボロになっている。生きてはいるようだが、もはや戦えるとも思えない。


「くそっ、何なんだこの強さは……今迄に戦った怪人とは桁違いの強さだ」


「ユウキ! これ以上は危険よ、一旦引くわよ」


「くっ……」


 どうやら彼のサポートをしている女性が退却を促しているようであるが、ヒーローはそれをためらっているようだ。


「民間人、下がっていなさい!」


 数人の警官が銃を構えて立ちはだかるものの、しかし怪人は余裕の表情である。その頭骨の顔から判別はできないものの、笑みさえ浮かべているように見える。


 警察の装備している9mm口径は怪人の強固な肉体と外皮に対しては少し頼りないように見えるものの、無傷では済むまい。


「撃てッ!!」


 警官三人による一斉発砲。火薬の破裂音が反響する。しかしその時不思議なことが起こった。


 もちろんそれを目視できた者はごく一部であったが、警官の発射した弾丸は怪人の手前で軌道が変わり、逸れて背後に着弾した。一発だけが軌道を変えながらも怪人に着弾したが、角度が浅かったためその強固な外皮に弾かれてしまった。


「くっ、やっぱりブリッツキャンセラーを装備してるか……」


 ブリッツキャンセラー。それが最初期に自衛隊の携行する小火器でも敵に対処できなかった理由である。


 異星人の装備にある特殊な機関に電気を流すことにより特殊な電磁場が発生し、すでにオカルト科学であると思われていたハチソン効果に類似する現象を起こし、重力場により小質量の投擲攻撃の軌道を変えてしまうのだ。


「くそ、やはり……俺が出る。せめて、自衛隊の重火器が到着するまで持ちこたえられれば……」


 ヒーローは立ち上がる。相棒は遠巻きから彼を制止しようとするが、言葉でヒーローは止まらない。彼を動かすのは使命感だけだ。


「ムダムダ。諦めろって。いいか? たとえブリッツキャンセラーが効かない武器が来たところで変わらねンだよ。それは戦ったてめえが一番分かンだろ?」


 それでも男は構えをとる。兵装はボロボロでも、心は折れてはいない。左ジャブからのワンツー。しかし難なく捌かれる。


「かかったな!」


 次の瞬間、男の肘についていた防護用だと思われていた小さな円盤が射出される。ワイヤーのついたそれは時間差で怪人に襲い掛かるが、それも躱される。まるで攻撃の軌道が初めから分かっていたかのようにだ。


 しかしまだ終わりではない。ディスクを躱すためにのけ反って少し間合いの離れた怪人にまだ銃を構えていた警官が発砲したのだ。


 完全に意識から外れていた追撃だと思われた。しかし弾丸は空を切った。狙いが逸れたのではない。だからと言って超スピードで躱されたわけでもない。やはり、あらかじめ相手の狙いが分かっていて避けたような動きであった。


「ほらよっ」


 余裕を持った動きで怪人はヒーローに膝蹴りを入れてふきとばす。


「ハハッ、お前ら見たことがあるぜ。確か、クロノワールとかいう結構人気の配信者ヒーローじゃなかったか? 今も配信してんのか? コレ」


 眼窩の奥の瞳がギラリと光る。そのほの暗い光は空中に浮遊する小型のドローンを捉えた。


 ヒーローは公的な職業ではない。どちらかといえばその行動は非合法な部類に属するのだ。しかし警察で重火器を気軽に配備できない以上ヒーローの力に頼るしかなく、それらは見逃されている。重要なのは、彼らにはその装備をメンテナンスするための、また怪我を治療するための資金を調達する方法が極めて限定的なのだ。


 そのために、使われているのがWowyubeなどをはじめとした動画配信サービスである。現在も、サポートの女性が操作するこのドローンのカメラを通して十万人を超える人間がこの戦いを見ているのだ。


「こいつらが」


 時間稼ぎも自衛隊の到着の予感も、怪人は全く頓着する様子はない。それだけの自信があるのだ。悠々とドローンを捕まえ、そのレンズを覗き込む。当然そんなところから向こう側にいる視聴者の顔が見えるわけではないが、視聴者からは怪人がアップで見えていることであろう。


「何を望んでいるか、分かるか?」


 ドローンを開放して、ダメージによりもはや動くこともできないクロノワールの方を見る。


「ヒーローの活躍……じゃあねえぜ」


 馬鹿にしたような口調。しかしそれに抗する口すら、ヒーローはもう持たないのだ。


「スナッフムービー(※)さ」


※スナッフムービー:娯楽を目的として提供される殺人動画

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― 新着の感想 ―
彼ら「ばかうけ」星人でいいんですよね?
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