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【最終章完結!】婚約破棄? 知りません。睡眠の方が大事です! ~復讐は不眠症王太子に丸投げして、離宮で抱き枕生活はじめます~  作者: 月雅
最終章

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第6話 守るための力



 ゴォォォォォ……!


 窓の外で、風の唸り声が響いている。

 台風は勢力を増し、王宮の堅牢な石壁さえも揺るがすほどの暴風雨となっていた。

 時折、ピカッと鋭い光が走り、遅れてドーンという雷鳴が轟く。


「……っ、くぅ……!」


 私はシーツを握りしめ、痛みの波に耐えていた。

 陣痛の間隔はもう数分おきだ。

 腰が砕けるような鈍痛と、内側から押し広げられるような圧迫感。

 レオンの時も痛かったけれど、今回は嵐の気圧のせいか、頭痛も酷い。


「頑張れ、ミズキ! 呼吸だ、呼吸を忘れるな!」


 枕元で、クラウス様が私の手を握りしめ、必死に励ましてくれる。

 その顔は蒼白で、額には玉のような汗が浮かんでいる。

 彼の手は温かいけれど、小刻みに震えていた。

 怖いのだ。

 愛する妻が苦しんでいる姿を見ることも、外の嵐が結界を削っていく音も。


 ドガァァァン!!


 近くに雷が落ちた。

 部屋の照明が一瞬消え、すぐに魔力灯が再点灯する。

 その衝撃音に、部屋の隅で待機していたレオンが、ビクリと肩を跳ねさせた。


「……ひっ」


 レオンは耳を塞ぎ、うずくまりそうになった。

 まだ四歳だ。

 こんな恐ろしい嵐の夜に、母親が苦しむ姿を見せられているのだ。

 怖くて当然だ。


(……ごめんね、レオン)


 私は痛みに霞む視界で、息子を見た。

 抱きしめてあげたいけれど、体が動かない。


「レオン、こっちへおいで。パパのそばに……」


 クラウス様が手を伸ばそうとした、その時だった。


「うぅ……うぅぅーっ!」


 私が痛みのあまり、声を漏らしてしまった。

 その声を聞いた瞬間、レオンがバッと顔を上げた。

 涙目の瞳が、私を捉える。

 苦痛に歪む私の顔。


「ママ……いたい?」


 彼は呟き、そして唇を噛み締めた。

 その瞳から、怯えの色が消え、強い決意の光が宿る。


「……うるさい! かみなり、あっちいけ!」


 レオンが立ち上がり、窓に向かって小さな両手を突き出した。

 彼の全身から、青白い魔力が噴き出す。

 それは今まで見たどの魔法よりも強く、そして必死な色をしていた。


「ママを、まもるんだ! ボクは、おにいちゃんだから!」


 彼の叫びと共に、部屋全体を覆うように透明なドームが出現した。

 ソフィア王女に教わった防御結界。

 練習では小さなシャボン玉程度しか作れなかったはずのそれが、今は部屋全体を包み込むほどの大きさとなって展開された。


 フッ。


 音が消えた。

 ゴウゴウと吹き荒れていた風の音も、雷鳴も、雨が窓を叩く音も。

 全てが遮断され、部屋の中は嘘のような静寂に包まれた。


「……すごい」


 マリアが感嘆の声を漏らす。

 これは、ただの防音ではない。

 外部の物理的干渉、魔力的干渉をすべてシャットアウトする、完全なる聖域だ。


「レオン……」


 クラウス様が驚愕の表情で息子を見る。

 レオンは両手を突き出したまま、肩で息をしていた。

 額に汗をかき、小さな足で踏ん張っている。


「パパ! ボクがそとをまもる! だからパパは、ママをたすけて!」


 凛とした声。

 それはもう、守られるだけの子供の声ではなかった。

 一人の戦士としての、頼もしい叫び。


「……ああ、分かった! 任せろ!」


 クラウス様が力強く頷き、私に向き直った。

 彼の目からも迷いが消えている。

 息子に背中を押され、父としての覚悟が決まったのだ。


「ミズキ、聞いたか? 最強のナイトが守ってくれているぞ。……安心して、産んでくれ」

「はい……! ふふ、頼もしいですね……」


 涙が出そうになった。

 痛いけれど、嬉しくて、誇らしい。

 こんなに素敵な家族に囲まれて、この子は生まれてくるのだ。


 ズキン!


 最大級の波が来た。

 これが最後だという予感がある。


「頭が見えました! 妃殿下、次の波で!」


 侍医長の声。

 私は大きく息を吸い込んだ。

 レオンが作ってくれた静寂の中で、自分の鼓動だけが大きく響く。


 私と、クラウス様と、レオン。

 三人で力を合わせて、四人目の家族を迎え入れる。

 これ以上の準備はない。


「……んんんーーーっ!!」


 私は全身全霊の力を込めて、命を押し出した。

 クラウス様の手が、私の手を砕けんばかりに握りしめる。

 レオンの結界が、輝きを増して私たちを包む。


 そして。


 オギャアアアアアッ!


 元気な産声が、静寂を破って響き渡った。

 それは、嵐の去った空に響くファンファーレのように、高く、澄んでいた。


「……生まれた」


 侍医長が、白い布に包まれた赤ちゃんを抱き上げる。

 同時に、窓の外の雲が割れ、一条の光が差し込んできた。

 嵐が過ぎ去ったのだ。

 まるで、この子の誕生を待っていたかのように。


 レオンが、へなへなと座り込んだ。

 魔力を使い果たしたのだろう。

 でも、その顔は達成感に満ちて、キラキラと輝いていた。


「……おめでとうございます、元気な姫君です!」


 マリアが泣きながら告げる。

 女の子。

 私の、そして私たちの、新しい宝物。


 クラウス様が赤ちゃんを受け取り、私の隣にそっと寝かせた。

 銀色の髪に、濡れた金色の瞳。

 間違いなく、クラウス様の娘だ。


「……よくやった、ミズキ。そしてレオン」


 クラウス様が、私とレオンを交互に見て、涙ぐんだ笑顔を見せた。


「私たちは、勝ったんだ」


 何の勝ち負けかは分からないけれど、その言葉が一番しっくりきた。

 私たちは嵐に勝ち、不安に勝ち、そして最高の幸福を手に入れたのだ。


 私は疲れ切った体で、それでも精一杯の微笑みを浮かべた。

 ようこそ、赤ちゃん。

 あなたの家族は、ちょっと騒がしいけれど、ここは世界一温かい場所よ。


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