今の恋。
「俺をどうする気だ。赤の呪術師」
多津が忌々しそうに私を睨む。
ぞくぞくしちゃうわね。
「これから調教してあげる。男の私を抱いてみなさい」
「誰が!」
「それとも抱いてあげましょうか?私、抱かれたことはあるけど、抱いたことないのよね。ちょっと楽しみ~」
「誰が!やってやるよ。脱げ!」
「そんなんじゃだめじゃない。多津」
私は彼の手を取り、その指を口に含む。
「ゆっくりと楽しませてあげるわ」
多津を術で拘束するのはできたけど、術をずっと持続するのは辛い。
それなので物理的に彼を拘束した。
紐で彼の手足を縛り、動けなくする。
私の正体を知った彼は私に敵意しかもっていない。
「馬鹿よねぇ。私、まだ華能が好きみたいだわ」
華能そっくりの顔の多津。
今まで女として多津に抱かれてきたけど、男としてはまだだった。
多津は抵抗したけど、そんなの快楽に勝てるわけがない。
華能の顔をした多津、彼に男として抱かれるのは嬉しいはずなのに、とても悲しかった。
「ほら、ご飯」
多津は変わっていった。
食事をとらなくなった。
あの生意気な態度もなくなった。
「つまらない。どうしたの?解放してほしいから、そんな態度?」
私が飽きると思っての態度かしら。
まあ、男なんて抱きたくないでしょうから、自己嫌悪で酷い気分なんでしょうけど。
彼が男を抱けるなら、阿緒ちゃんを抱いていただろうし。
「彼女」をちゃんと愛することができただろう。
「それとも今になって阿緒ちゃんを手放したことを後悔?もう彼女があなたを見ることはないわ。残念だけど」
今までなら怒鳴り返してきたはずなのに、彼は視線を落としたまま。
オカシイ。
頭がおかしくなっちゃったのかしら?
そうよね。
監禁されて大嫌いな男を抱かされている。
「……もういいわ。解放してあげる。ちゃんと家まで届けてあげるわ」
一か月が過ぎ、彼はすっかり痩せてしまった。
華能とは全然見た目が変わってしまった。
「飽きたのか?」
「そうね」
飽きた。
それとも違う。
多津に抱かれるのはやはり気持ちいい。
だけど、嬉しくない。気持ちいいだけ。
もう、華能と代わりだとも思えないし。
「代わりはいらなくなったか」
「知っていたの?」
「当たり前だ。なんども別の男の名を呼びやがって」
多津は忌々しそうに吐き捨てる。
久々に彼らしい言葉を聞いた気がした。
「長い間。ありがとう。楽しかったわ」
「また別の男を探すのか?」
「そうね。あなたは最高だったけど、こんなに痩せてしまうとは思わなかったし。あなたは華能とは違うから」
「……俺ではだめなのか?」
「は?」
「俺は華能ではない。華能の代わりになりたいとも思わない。だが、お前を気持ちよくできる最高の男だろう。華能とは、やっていないんだろう。お前」
「……な、なに言っているのよ」
「縄を外せ。一方的にやられるのは嫌だ。俺がやりたい」
痩せて随分野生的になっていた。
目がぎらぎらとしていて、猛禽類のようだった。
「やりたくないのか?」
そう問われ、体がうずく。
男である私に積極的な多津など初めてだった。
縄を外した。
彼が動く。
逃げるのかと思った。
「椿」
久々に名を呼ばれた。
なぜか涙が流れる。
涙をぺろりと舐めたのは多津。
鼻が触れそうな近距離で、見つめられる。
視界が全部彼で埋め尽くされる。
「男のお前のことが好きなのかはわからん。だがお前を抱くのは気持ちいい。もう代わりなんて思わせない」
その後、記憶はとても曖昧。
はっきりと目が覚めた時は酷い惨状。
体中がべたべたで、声が酷く枯れていた。
寝台の上で、多津が背後から私を抱きしめていた。
男の私を。
「多津」
「ん?椿。まだ足りないか?」
「何、言ってんのよ!」
調教しすぎた?
なんていうか……。
「ご飯食べましょう」
「そうだな。やっと飯が食べれる」
「そうよ。なんで食べなかったの?っていうか食べないでその体力、ちょっとおかしいわ」
「別に食べなくても栄養は足りてただろ。ありがたいことに」
「……ほんとう、嫌だわ。えっと、なんで食べなかったの?」
「単なる代わりじゃ嫌になったからだ。作戦成功だろ?」
「作戦って……。まあ、いいけど」
多津の熱が後ろから伝わってくる。
「やっぱり足りないか?」
「足りてる。さあ、ご飯よ!」
立ち上がり、羽織を羽織る。
やっと見つけた。
男の私を愛してくれる人。
もう離さないわ。
ふと振り向くと、彼が私を見つめていた。
もう私が彼に、華能の姿を重ねることはなかった。




