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カツカレーと今後の話01

村の見学を終えて家の玄関をくぐる。

僕はまだ慣れないその匂いに少し戸惑いつつも、元気よく、

「ただいま」

と声を掛けた。

「はーい。おかえりなさーい」

と奥からミュウさんの声が聞こえてくる。

僕はメルと一緒にミュウさんがいると思われる台所の方に行くと、台所でなにやら作業をしていたミュウさんに、

「ただいま。ミュウさん。あの、今日ギルドにいったらいろいろあって今夜ユリウスさんが来ることになりました。えっと、ロロアさんも含めて僕のこれからのことをお話したいそうです」

と、いろんなことをかなりかいつまんで、ユリウスさんが来ることになったことを告げた。

「まぁ。そうなんですね。じゃぁ、カレーかしら?」

と言うミュウさんに、

「はい。ユリウスさんがカレーにしてくれと言ってましたよ」

と伝えると、ミュウさんは、

「うふふ。あの人のカレー好きは相変わらずね」

と、なんだかおかしそうに笑いながらそう言った。

「あの……。カレーってなんですか?」

と正直に聞く。

すると、

「あら。そうね。えっとね辛いルーをお米にかけて食べる料理なんだけど……。まぁ、食べてみればわかるわ。ああ、アルちゃんの食べる分はちゃんと辛さ抑えめにしますからね」

と、ハンバーガーのことを教えてくれた時のユリウスさんと同じような感じでカレーの正体を教えてくれた。

「そうなんですね。楽しみです」

と答えて、台所を辞する。

そしていったん部屋に戻ると、僕は小さな日記帳を出して今日、楽しいと感じたことをひとつひとつ思い出しながら書き記していった。


その後、

「ご飯の支度が整いましたよ」

というメルの声ですっかり夕方になっていたことに気付く。

「ありがとう。わかった」

と答えて席を立つと、僕は、

(カレー、楽しみだな)

と思いながらウキウキと食堂に向かった。


「失礼します」

と声を掛けて食堂に入る。

そんな僕に、

「ははは。そうかしこまらんでもいいぞ」

とロロアさんがあけすけな感じで笑いながらそう言ってくれた。

「はい」

と少し遠慮して答える横からユリウスさんが、

「やぁ。邪魔してるよ」

と声を掛けてくる。

僕はそちらにも、

「こんばんは。ユリウスさん」

と挨拶をして軽く頭を下げて。

「ははは。本当に真面目なやつだな」

と、こちらは少し苦笑いを浮かべて僕の頭をぐりぐりと撫でてくる。

僕はそれがなんとも恥ずかしくて、でも、どことなく心地よくて少し頬を熱くしながらうつむくと、

「んみゃ?」(どうしたの?)

とサクラが声を掛けてきた。

そんなサクラに、

「ははは。なんでもないよ」

と声を掛けてこちょこちょと撫でてあげる。

すると、サクラは気持ちよさそうに、

「みぃ」

と鳴いて僕の手に体や頭を擦り付けてきた。

「ははは。いいお友達になれたみたいだな」

とユリウスさんが微笑ましいような顔をする。

ロロアさんもそれに続いて、

「ああ。まったくびっくりだよ」

と苦笑いしつつも、どこか微笑ましい表情で戯れる僕たちを見つめてきた。

「あの……。今日はその辺りのお話が聞けるんですか?」

と念のため聞いてみると、ユリウスさんが、

「ああ」

とうなずき、

「世界樹のこと、その守護者のこと、俺たちのこと、いろいろ教えてあげよう。まぁ、飯を食ってからだがな」

と少しお茶目にウィンクして見せるユリウスさんの言葉が終わるのと同時に食堂の扉が開き、ミュウさんとメルがカートを押して入ってきた。

「お待たせしました。今日はカツカレーですよ」

というミュウさんの言葉に、

「おっしゃ!」

とユリウスさんが叫びながら拳を握る。

僕は、

(あれ? 今日はカレーじゃなかったの? あ、でもカツが付いているだけで、カレーって言葉も入っているから、カツカレーもカレーの仲間なのかな?)

と不思議に思いながら、そのカツカレーが僕の目の前に置かれるのをドキドキしながら待った。

やがて、白と茶色の二色に別れた料理が僕の目の前に置かれる。

(えっと。白い方はお米なのはわかるけど、茶色いのはなんだろう? これがカレーかな? あ、でもカツってついてるから……)

と考えている僕に、ロロアさんが、

「この茶色いソースのことをカレーって呼んでるんだ。で、上にのっている肉がカツだね。カツがのっているカレーだからカツカレーって寸法さ。まぁ、とにかく美味いから食べてみてくれよ」

と、このカツカレーという料理のことを解説し、僕に勧めてくれた。

「ありがとうございます。いただきます」

とお礼を言ってさっそくカレーにスプーンを伸ばす。

顔をお皿に近づけた瞬間、なんとも言えない香りが僕の鼻先をくすぐって来た。

(え? なにこれ……。こんな香りこれまでに嗅いだことがないよ。……なんの香りだろう? わかんないけど、これはたまらなく食欲を刺激してくる……)

と驚きつつ、思い切ってカレーを口にする。

そして、その瞬間、僕は魔法をかけられてしまった。


「!」

びっくりして言葉が出ず、ただ目を見開いてみんなをみる。

するとみんなが僕を見て、微笑んでいた。

「どう?」

と聞いてくるミュウさんに、「コクコク」とただ首を縦に振って応える。

「うふふ。先ほどお味見させていただきましたが、私も同じようになってしまいましたわ」

と、少し照れたように笑うメルにも「うんうん」とうなずいて同意した。

「ははは。気に入ってもらえたみたいだね。さぁ、私たちも食べようじゃないか」

「ああ。そうだな。あ、アル。カツも食ってみろ。美味いぞ?」

とロロアさんとユリウスさんが言ってみんながカレーに手を伸ばす。

僕は最初に感じた衝撃を引きずったまま今度はカツにかぶりついた。

「サクッ」と音がする。

そして、その次にやってきた弾力のあるお肉の感触を確かめるように噛み進めていくと、次にじゅわっとうま味たっぷりの脂がしみ出してきた。

「!」

と、こちらにも驚いて目を見開く。

そんな僕を見て、ユリウスさんが

「はっはっは。これがカツカレーさ」

と、どこか自慢げに笑った。

そこからは夢中で食べていく。

いったいなんの香りなのかわからないけど、僕の心を魅了してやまないカレーの香りに引き寄せられるように僕はスプーンと口を動かし続けた。

やがて、お皿が空っぽになり、寂しさと共に満腹感を感じる。

僕はやや呆けた感じで、

「ごちそうさまでした……」

と言うと、ミュウさんがニコニコ笑いながら、

「お粗末様でした」

と言ってくれた。


それから、食後のお茶になり、いよいよ僕の話が始まる。

僕はジュースを少し飲んで口を潤すと、緊張しながらユリウスさんが話すことに耳を傾けた。

「まず。世界樹の話は聞いたか?」

「あ、はい。えっと、不思議で大事な木があるってことは……」

「うん。その認識で間違いない。もう少し詳しく言うと、この世界の魔素、つまり、魔力の素だな、その流れを正しくしてくれているのが世界樹ってわけだ。だから世界樹に異変があると、魔獣がたくさんでてきたり、時にはバカみたいに大きくて強い魔獣が出てきたりしてしまう。だから俺たちは世界樹を守らなきゃいけない。ってここまではわかるか?」

「はい」

「ははは。偉いぞ。……で、その世界樹を守る役目ってのは誰にでもできるわけじゃない。そもそも世界樹がどこにあるのか知っているのはこの世界のごく限られた人間だけだ。なにせ、世界樹に許されないとその姿すら見えないからな。だから、世界樹に認められし者、ようは世界樹のお友達は世界樹が危ないことにならないように見守ってやらなきゃいかんってわけだ」

「……なるほど」

「大丈夫か? 難しくないか?」

「あ。はい。大丈夫です」

「うん。だから、世界樹の友達に選ばれたアルには今後世界樹を守るのに必要なことを少しずつ勉強していってもらわなきゃいけない。もちろん、危険が無いように慎重にやるし、大変になり過ぎないように配慮もするが、みんなよりちょっと勉強の量が多くなってしまう。それはわかってくれるかい?」

というユリウスさんの問いかけに、

「はい。大丈夫です。僕、お勉強好きだし、それに、初めて出来たお友達のサクラためにできることがあるならなんでもやってみたいです!」

と勢い込んで答える。

するとユリウスさんがニッコリ笑って、

「ははは。アルは偉いな」

と言い、僕の頭をまたぐりぐりと撫でてくれた。

「みゃぁ!」(よろしくね!)

とサクラが嬉しそうに言って僕に頬ずりをしてくる。

それがなんだかくすぐったくて、僕は、

「えへへ……」

と嬉しい気持ちを抑えきれずについつい笑みを漏らしてしまった。


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