クルニ村04
(カレーってなんだろう?)
と思いながらあぜ道を歩く。
すると、道の向こうにロロアさんのお家よりちょっと大きいかな? というくらいの大きさの建物が見えてきた。
するとジャック村長が、その建物を指さして、
「あれが学問所ですよ」
と教えてくれる。
僕は期待に胸を躍らせながら、
「あの。学問所ってどんなところなんですか?」
とジャック村長に少し勢い込んでそう聞いた。
「ははは。学問所は七歳から成人する十五歳まで通います。最初は粘土遊びやお絵描きも交えながら楽しく読み書きと計算を習って、その後は徐々に難易度を上げて、国の歴史や自然、それに魔法の基礎を習っていくという感じですね」
「魔法も教えてもらえるんですか!?」
「ええ。簡単な生活魔法や基本的な魔道具の扱い方なんかを勉強しますよ」
「すごい! じゃぁ、村のみんなは魔法が使えるんですね?」
「ははは。みんなじゃありません。学問所はまだ出来て20年も経っておりませんから、今の若い連中が生活魔法をちょっと使える程度です。でも、それでずいぶん村の暮らしは楽になりましたよ」
と教えてくれるジャック村長に、
「すごいなぁ……。僕も通ってみたいです」
とお願いする。
するとジャック村長はニコニコと笑いながら、
「ははは。学問所は勉強も大事ですが、それ以上に友達を作る場所でもありますからね。そっちも楽しみにしていてください」
と言ってくれた。
「友達」という言葉に胸がドキドキする。
今まで友達なんていたことがなかった。
だから、友達がどんなものなのかわからない。
僕の胸の中には、
(友達がいるってどんな感じなんだろう?)
とか、
(僕にもちゃんとできるかな?)
というような気持ちが渦巻いて、なんだか妙な緊張感を覚えてしまった。
そんな僕にジャック村長が、
「大丈夫です。アル様ならきっとすぐにみんなと仲良くなれますよ」
と言ってくれる。
僕はその言葉を聞いてもまだドキドキしていたが、それでも少し落ち着いて、
「はい」
と、なんとか笑顔で返事をすることができた。
しばらくして学問所の門をくぐる。
僕はものすごく緊張していたが、メルが、
「大丈夫ですよ」
と、いつものように優しく声を掛けてくれたので、なんとか落ち着くことができた。
ジャック村長は迷わず廊下を進んでいき、「職員室」と書かれた部屋の扉を叩く。
すると中から「どうぞ」声がして、ジャック村長が扉を開くとそこには何人かの大人の人が机に向かって仕事をしているようだった。
「ああ。所長先生。こんにちは」
「あら。村長。こんにちは。今日はどうなさいました?」
「ええ。昨日村に越してきたアルフレッド様が是非学問所を見学したいとおっしゃるのでお連れしました」
とジャック村長が言うとその所長先生と呼ばれた人が、
「あら。そうなんですのね。えっと、アルフレッド君?」
と言って僕の方に目を向けてくる。
僕はまだ少し緊張しながらも、
「初めまして。アルフレッドです。今日はよろしくお願いします」
と、なんとか挨拶をすることができた。
「うふふ。きちんとご挨拶ができてすごいわね。私がこの学問所の所長をしているマーガレットよ。ゆっくりご案内しますから、たっぷり見学していってね」
と言ってくれるマーガレット先生に、
「ありがとうございます」
と、まだ少し緊張しながらそう返事をすると、
「うふふ。いい子ね」
と言ってマーガレット先生は、僕の頭をぽんぽんと優しく撫でてくれた。
それから、
「じゃぁ、まずは教室から見ていきましょ。もう、授業は終わってるからみんないないけど、雰囲気だけでも感じて頂戴ね」
と言ってみんなして教室に移動する。
僕が緊張しながら明るい廊下を歩いていると、マーガレット先生が立ち止まり、
「ここが一年生、七歳の子ね、から四年生、十歳の子がお勉強する教室よ」
と言って、ガラガラっと引き戸を開けた。
小さな机が十個ほど並んでいて、大きな黒板がある。
僕がその光景をぽかんとした感じで見ていると、マーガレット先生が、
「うふふ。ここに座ってお勉強するの。今、一年生は二人しかいないからすぐにお友達になれるわよ」
と説明してくれた。
続けて、
「教科書を見てみる?」
と言ってくれるマーガレット先生に、
「はい。見てみたいです」
と言ってさっそく教科書を見せてもらう。
そこには簡単な字の書き取りや数を数える問題が書いてあって、正直内容としては物足りないと思った。
「うふふ。どう? 楽しそう?」
と聞いてくるマーガレット先生に、少し遠慮しながら、
「自分でやっている勉強より簡単にみえます……」
と正直に答える。
するとマーガレット先生は少し驚いて、
「まぁ。じゃぁ、上の学年の子達が使う教科書を使ってもいいかもしれませんわね」
と言ってくれた。
そこへメルが、
「僭越ながら、アルフレッド様は大変に優秀です。お勉強に関しては心配無いかと」
と横から話に加わって来る。
その言葉にマーガレット先生は「まぁ。そうなのね」とまた驚いたような表情を見せると、
「うふふ。じゃぁ、アルフレッド君には周りのお友達にお勉強を教えてあげる役もやってもらおうかしら?」
と言ってきた。
「え? 僕にそんな……」
と正直に戸惑いを伝える。
するとマーガレット先生はまた僕の頭をぽんぽんと撫でて、
「いい。アルフレッド君。学問所みんなで一緒にお勉強をする場所なの。だから、お勉強がわかる子はわからない子に教えてあげるのも大切なお勉強のひとつなのよ」
と少し諭すような感じで優しく語り掛けてきた。
僕はその言葉になんだか照れながら、
「僕にできますか?」
と正直に不安を伝える。
すると、マーガレット先生はにっこりと笑って、
「大丈夫よ」
と答えてくれた。
その後、運動場と呼ばれる小さな芝生のお庭や飼育小屋という鶏を飼っている場所を見せてもらう。
なんでも鶏を飼う事は将来村で生活していくうえで知っておいた方がいい知識なのだとか。
それにマーガレット先生曰く、
「生き物に接することは優しい心を持つことにもつながりますからね」
と言う事だった。
(そっか。学問所ってお勉強以外にもいろんなことを学ぶ場所なんだな……)
と納得して見学を終える。
最後に、
「学問所は午前中にだけで、お弁当の子はみんなでお弁当を食べて、おうちに帰って食べる子はおうちで食べるの。どっちを選んでもいいのよ」
と教えてくれた。
商店の子はお昼も残る子が多いし、農家の子は帰って家で食べる子が多いんだそうだ。
「みんなおうちのお手伝いがあるから、そうしてるみたいね」
と言うマーガレット先生の顔はほんの少しだけど、どこか寂しそうにしているように見える。
僕が、
(どうしてそんな顔をするんだろう?)
と思っていると、そこにジャック村長が、
「早く学問所でも食事を出して午後も子供達を預かれるようになればいいですなぁ……」
とマーガレット先生に声を掛けた。
「ええ。でも、こうして午前中だけでもみんな勉強ができるようになっただけでも大きな進歩ですわ」
「はい。しかし、村長としてはもっと村の生活に余裕ができて、子供らが思う存分好きなことをする時間を増やしてやりたいものです」
「うふふ。きっとこの学問所で学んだ子達が次の世代で答えを出してくれると思いますよ?」
「ええ。私もそれを願っております」
というマーガレット先生と村長の会話を聞いてなんとなく事情を察する。
(そうか。学問所に通えるって幸せなことなんだな……)
と思うと、僕はそれまでの緊張よりもむしろ楽しみの方が大きくなっている自分の気持ちに気が付いた。
やがて、マーガレット先生に見送られて学問所を後にする。
「なんだかこれからこの村で生活していくのが楽しみになってきました」
とジャック村長に今日の感想を伝えると、ジャック村長は本当に嬉しそうな顔をして、
「それはよかったです。どうぞ、このクルニ村を思う存分楽しんでくださいね」
と応えてくれた。
その後、村長にも別れを告げ、メルと一緒にあぜ道を歩く。
「楽しそうな村で良かったですわね」
「うん! また商店街にも行ってみたいし。学問所も楽しみ!」
「うふふ。それに魔力があることも分かったので、これからは魔法のお稽古もできますね」
「うん! 僕、この村に来られてよかった!」
と会話を交わしながらたどる家路は午後の明るい日差しに照らされて、キラキラと輝いているように見えた。