学院祭02
おそらくリズさんやリーシャちゃんと合流するであろうアンネさんと別れて案内のチラシ片手にお祭り会場を歩く。
屋台ではいろんなものが売られているし、中にはゴーレムの模型を動かしたり、最新の魔道具を並べて展示してあるところもあった。
(楽しいな……。なんか村のお祭りをもっと大きくしたみたいだ)
と思いながら、見ているとそこで串焼きにかじりついているミシェルを発見した。
「やぁ、ミシェル。楽しんでるみたいだね」
「おう。アルか。ここの串焼きけっこう美味いぜ」
「そうなの? じゃあ僕も一本買ってみようかな」
「おう。そうしとけ」
と言われてさっそく串焼きを買い、ひと口かぶりつく。
なんとも濃いめに味付けされた串焼きは、いかにもお祭りの味という感じがしてなんとも言えない美味しさだった。
「うん。いかにもお祭りって味だね」
「だろ?」
「ガルボさんが好きそうな味だ」
「ガルボ?」
「ああ、ガルボさんっていうのはうちの村にいる鍛冶屋さんでね。僕の剣の師匠の一人でもあるんだ」
「へぇ。伝説の賢者ガルボと同じ名前なんだな」
「……たぶん、その伝説の賢者さんで間違いないと思うよ」
「なっ!? お前、賢者様と知り合いなのか? ていうか、村の鍛冶屋っていったよな?」
「あはは。なんていうか、いろいろあって、そういうことになったんだよ」
という会話をきっかけに僕が村に行くことになった理由やその後のことを言える範囲で説明していく。
するとミシェルは驚いたような呆れたような感じで、
「そりゃ、おめぇ、すげぇ所で育ったな……」
と、つぶやくようにそう漏らした。
「なんていうか偶然なんだけどね。僕は恵まれてるって思うよ」
「ああ。勇者様に賢者様、それに戦士様に聖女様がお師匠なんだろ? 恵まれてるなんてもんじゃねぇぞ、それ」
「あはは。そうだね」
「ああ。まったくもって羨ましいぜ」
「そうだ。いつか時間が出来たら村に遊びにおいでよ。その時ちゃんと紹介するから」
「マジか!? 約束だからな!」
「うん」
と少し興奮気味に言ってくるミシェルと、とりあえず連れ立って会場を回ることにする。
「お。あそこ面白そうな展示やってるな。歌う人形だってよ」
「へぇ。けっこう良く出来てるね」
「ああ。歌はオルゴールの応用でけっこう調整が難しいんだ。それに人形の動きを同期させてるから、けっこうな凝りようだぜ。いやぁ、たいしたもんだ」
「専門的なことはよくわからないけど、子供も大人も喜びそうだね」
「ああ。もっと精度がよくなりゃ、それだけでちょっとした見世物にできるぞ」
「あはは。町がにぎやかになりそうでいいことだね」
「おう。まったくだ」
とか、
「あ。あっちで綿飴売ってる」
「ん? 俺は甘いのはちょっとな……」
「え? 嫌いなの?」
「いや、嫌いってわけじゃねぇがちょっとでいい感じだな。だからあれ一個はとてもじゃないが食いきれない」
「そうなんだね。じゃあ僕が一個買うから、ちょっとだけ食べなよ」
「おう。じゃあ、ひと口だけもらおうか」
というようなことをしながらお祭りを回っていると、リエラさんとシャルさんに出会った。
「やあ、アル楽しんでるかい?」
「はい。楽しませてもらってます」
「それはよかった。ああ、ちなみに、私たちはこれから講堂に向かうんだけど、一緒にいかないかい? ノンナの舞台だよ」
「え? ノンナさんが舞台に立つんですか?」
「ええ。ノンナってとっても歌が上手なのよ」
「それは知りませんでした。是非見てみたいです」
「おう。いいな。行ってみようぜ」
ということになり連れ立って講堂の方に歩いていく。
その途中もいろんなお店を見たが、どこもそれなりに賑わっているようにみえた。
そしてようやく講堂に着く。
中に入るといっぱいの客であふれかえっていた。
「あちゃぁ、もう少し早くくればよかったね」
「ええ。さすがノンナね。すごい人気だわ」
「普段そんな話しないから全然知らなかったです」
「うふふ。ノンナったら恥ずかしがり屋さんだから、そういう話しされるの苦手なんですって」
「そうだったんですね」
「ええ。でも中等学校のころから有名だったし、隠れたファンも多いのよ」
「そいつぁすげぇな。楽しみだぜ」
と話しているところに、
「間もなく、歌劇『さすらいの聖女』を開演いたします」
と言う案内の声が響く。
そして幕が上がると、その場にいたみんなが舞台に釘付けになった。
物語の内容は昔の聖女が魔獣を倒して各地を回るという冒険物。
しかし、物語の内容よりもノンナさんの澄み渡るようでいて、かつ力強い歌声にみんな引き込まれてしまった。
(すごい……。いつものノンナさんとは別の人みたいだ……)
と思いつつ、その歌声に聞き入る。
やがて舞台は万雷の拍手に包まれて終わり、僕たちも感動の拍手を送り続けた。
講堂を出て、ぼーっとしながら歩く。
どこへいくというあてもなかったので、とりあえず空いているベンチを見つけたのでそこに座った。
「すごかったね……」
「ええ。さすがだわ」
「本当にすごかったです」
「ああ。まいったぜ」
と単純な言葉で感想を言い合い、四人してぼーっと空を眺める。
すると、「きゅるる」と可愛い音がして、リエラさんが、
「あはは。興奮したらお腹が空いちゃったよ」
と頬を染めながらそんなことを言ってきた。
「うふふ。途中で見かけたお好み焼きが美味しそうだったわね」
「いいね。あれならみんなで分けて食べられそう」
「よし。じゃあ買いに行くか」
「そうだね」
と言って立ち上がり、目的の屋台を目指す。
気が付けば辺りは夕日に染められていて、そろそろ祭りの最後が近いことを物語っていた。
お好み焼きを食べ、運動場に移動する。
なんでもお祭りの最後はみんなで火を囲んで踊るのが恒例になっているらしい。
「なんだか、村のお祭りを思い出しちゃったよ」
「へぇ。ちなみにどんな祭りなんだ?」
「ここと変わらないよ。屋台が出てみんなで踊って、最後に花火があがるんだ。子供はそこでおしまいだけど、大人はそのあと酒盛りになって朝まで飲むんだって」
「ほう。そいつぁ楽しそうだな」
「うん。いつかミシェルも見に来るといいよ」
「ああ。そうするぜ」
と言っていると踊りの会場になっている運動場に着いた。
暗くなり始めた運動場にかがり火がたかれ、どこからか調子のいい音楽が聞こえてくる。
「あ! あそこにアンネとノンナがいるよ」
「あら。本当ね。じゃあ二人も誘ってみんなで踊りましょう」
と言ってさっそく二人のもとに近づき、そこからはみんなで踊りの輪に加わった。
見様見真似で踊る踊りは村の踊りとは全く違ったけど、いかにも若者が踊る踊りらしくどこか胸をワクワクさせてくれるような踊りだと思った。
そんな踊りの輪が次第に緩やかになり、祭りの終わりが宣言される。
僕は満足した気持ちと物足りない気持ちの両方を抱え、みんなと一緒に寮へと戻っていった。
「おかえりなさいませ」
「きゅきゅっ!」
といつものように二人の出迎えを受ける。
「二人もお祭り楽しんだ?」
「ええ。ちょっとだけ覗かせていただきましたよ」
「きゅぃっ!」(楽しかった!)
「そうか。それは良かった」
「うふふ。お風呂の準備は出来てますから、さっそくどうぞ」
「うん。ありがとう」
そんないつもの感じでデイジーと一緒にお風呂に向かい、「ぬはぁ……」と息を漏らしながらお湯に浸かると、お祭りで興奮していた僕の体の中から程よい疲れがお湯に溶けだしていった。
「きゅきゅっ!」(来年は一緒に回ろうね)
「うん」
と話をしながらゆっくりと体を温める。
そして、いつも通りほかほかになった体を抱えてベッドに入ると、僕は楽しかった今日のことを思い出しつつゆっくりと目を閉じた。
(楽しかったなぁ。みんなで屋台を作ったり、お店番したり。いろんなものも食べられたし、ノンナさんの歌も聴けた。最後はみんなと楽しく踊って少し疲れちゃったけど、いい一日だったよ)
と思いながら少し頬を緩め、その興奮を抑えるかのように、
「ふぅ……」
と息を吐く。
僕の横で、もう寝てしまったデイジーが、
「きゅぃ……」
と、なにやら寝言らしきことを言っているのを聞きながら、僕もゆっくりと今日という一日に幕を下ろしていった。




