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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第三章

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高等魔法と騎士団02

翌日からも騎士団の訓練に参加する。

その日は個人戦を行うということで、僕は楽しみにしながら訓練場へと向かった。

「アルフレッド。とりあえず、ハミングと対戦してみてくれ。実力を見てみたい」

という隊長さんの言葉でいきなりハミング先生との対決になる。

「遠慮はいらんから、全力でぶつかってこい」

と言われたので、僕はいつもの訓練では使わない身体強化を使うべく全身に魔力を循環させ始めた。

「ははは。本当に遠慮なしだな……。まぁいい。こっちも本気でいくぞ!」

と言ってハミング先生も同じように集中し始める。

まったく隙の無い構えに僕はどうしたものかと思ったけど、ユリウスさんやガルボさんとの訓練を思い出し、まずは牽制の風魔法で相手の様子をうかがうことにした。

「おっと……」

とわざとらしい声を出し、一瞬の隙が生まれる。

しかし、僕はその隙を見ても突っ込まず、さらに牽制の魔法を放って距離を取った。

「さすがにこの程度じゃひっかからんか……」

と苦笑いで言い、ハミング先生が表情を引き締める。

そして、そこからしばらく睨み合いが続いたが、先に動いたのはハミング先生だった。

「ふんっ!」

という気合の声と共に鋭い斬撃が僕に襲い掛かる。

僕はそれをギリギリでかわすと、わずかに出来た胴の隙に横なぎの一閃を叩き込んだ。

ギリギリのところでかわされ、また斬撃が飛んでくる。

僕もそれをギリギリで避け、打ち込むと鍔迫り合いの形になった。

「やはりいい剣筋をしているな。基本がちゃんとできている。だが、実戦経験はまだまだだ!」

と言ってハミング先生がぐっと僕を押したかと思うと、スッと力を抜いた。

一瞬ぐらついた僕の足をハミング先生が払う。

そして、次の瞬間僕の首元にハミング先生の木剣が添えられ、一瞬で勝負が決まった。

「そこまで!」

という声で勝負が終わる。

僕は悔しさを抱えつつも、

「ありがとうございました」

と頭を下げ、後ろに下がった。

そんな僕の横で隊長さんが、

「まったく。大人気ないことしやがって……。次は正攻法で行けよ」

と軽くため息を吐きながらハミング先生に注文を付ける。

ハミング先生はそれに苦笑いすると、

「それだと負ける目が出てきちゃうんですよ」

と冗談っぽくそう言った。

「ふっ。まぁいい。次、リエラ!」

「はい!」

と言ってリエラさんとハミング先生の試合が始まる。

その勝負はお互い真正面からの打ち合いになったが、最後はハミング先生が力で押し切ったような形になった。

「手数の多さと速さはたいしたもんだ。しかし、いつも言っている通り、真正面からいくだけでは力のある相手には分が悪くなるぞ。お前はもう少し搦め手を覚えろ」

「……はい」

と隊長が助言を送り僕たちの試合が終了する。

その後は、

「次は新人とやってみてくれ。勝つ経験もしておいた方がいいだろう」

という隊長さんん言葉を受け、入団して間もないという新人の騎士さんたち三人と続けて勝負することになった。

なんとか勝ちきった僕らに、隊長さんが、

「自分の現在地がわかったか?」

と聞いてくる。

「「はい!」」

と、しっかりうなずきながら応えると隊長さんもしっかりうなずきながら、

「二人ともそれなりの実力はあるが、まだそれなりだということを忘れないように」

と言って僕とリエラさんの頭をグリグリと撫でてくれた。

「ちょっ! 父上!」

と抗議するリエラさんに、

「ははは。まだまだ子供扱いだ」

と隊長さんが笑いかける。

僕はそんなやり取りを見て、ふとユリウスさんを思い出し、なんだか嬉しいような切ないような気分になった。

翌日は防御術式をたっぷり施した魔獣の模型めがけて魔法を放つ訓練を行う。

この訓練は学院でも上級生になればやるらしいが、僕は初めての経験に少しワクワクしながら全身に魔力を巡らせていった。

まずはゴブリンに見立てた複数の模型に素早く魔法を当てる訓練をする。

僕は高等魔法の授業で習ったように、素早く魔法陣を展開すると、

「エレニア!」

と詠唱し、十本の雷の矢をいっきに打ち込んだ。

「おぉ……」

と軽いどよめきが起こる。

だが僕は、

(まだまだ遅いなぁ……)

と反省しながら、身体強化を使って素早く動き、残りの模型に次々と魔法を当てていった。

「そこまで! 反省点はわかっているか?」

「はい。初撃の展開が遅かったです」

「そうだな。冒険者ならそう言うだろう。しかし、騎士団の場合は必ず前衛がいるから、そこは心配するな。確実に正確性を重視して攻撃するように」

「はい!」

と答えて他の人と代わる。

他の人の訓練を見ていたが、隊長さんが言った通り、確実に当てて相手を削っていくような魔法の使い方をしていた。

(なるほど。これが集団戦か……)

と思いながら、その様子を見つめる。

すると次はコカトリスを模した模型が出てきて、

「よし。アルフレッド。とりあえず好きなようにやってみてくれ」

と、また僕に順番が回ってきた。

「ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊れんから思いっきりいっていいぞ」

と言ってくれる隊長さんの言葉にうなずき、

(さて。どうしよう? 思いっきりいっていいってことは全力でいけってことだよね? あ、そうだ。せっかくだしあれを試してみよう)

と思いながら集中して魔法陣を展開する。

そして、僕は、

「アゼリアート!」

と叫び炎の竜巻を顕現させた。

「なっ!?」

と言う声が聞こえた次の瞬間、炎の竜巻がコカトリスを模した模型に襲い掛かる。

そして、轟々と燃える炎の柱が模型を包み込んだ。

「防御魔法展開!」

と言う声に驚き、僕も防御魔法を展開する。

すると、五メートルはあろうかというコカトリスの模型が燃えながら一気に崩れ落ちてきた。

僕は少し慌てながら、その残骸を防ぎ切り、

「えっと……」

と戸惑いつつ隊長さんの方を見る。

すると隊長さんは驚いたような呆れたような顔で、

「……。ここまでだとは思ってなかった」

と素直に反省の言葉を述べてきた。

「あはは! さすがアル! すごいことしてくれたね!」

とリエラさんが笑いながら僕の肩を叩いてくる。

そんな僕に騎士団全員の目が集まり、その場になんとも言えない空気が流れた。

そんな中、ハミング先生が、隊長さんに、

「ははは。今年の予算で賄えますかね?」

とお伺いを立て始める。

しかし隊長さんはこめかみを軽く抑えながら、

「……学院にも半分協力してもらおう」

と言った。

その言葉で、僕はどうやら自分がやらかしてしまったことに気付き、

「あ、あの! すみません……」

と小さくなりながら、しょぼんと頭を下げる。

すると隊長さんは、

「なに。思いっきりいけと言ったのは私だ。責任は私にある」

と苦笑いで言い、僕の頭をまたグリグリと撫でてきてくれた。

そんなことがあって、その日の訓練はそこまでとなり、後片付けが始まる。

もちろん僕も申し訳なく思いながら一生懸命手伝った。

その後、夕暮れの中、リエラさんと一緒に寮への道を辿る。

「いやぁ、面白かったね!」

とケラケラ笑うリエラさんに、

「もう……。僕にとっては笑いごとじゃないですよ」

と言うと、リエラさんはまたおかしそうに、

「きっと明日のお昼はこの話題で持ちきりになるよ!」

と言って「あはは!」と笑った。

その言葉に苦笑いで寮の門をくぐり、部屋に戻る。

「きゅきゅっ!」

「おかえりなさいませ」

と、いつも通り出迎えてくれるデイジーとメルにほっとしながら、デイジーを肩に乗せ、食堂に向かう。

その日の晩ご飯は元気を出そうと思ってハンバーグ定食を選んだ。

しかし、ハンバーグは思っていた味とは違い、また少し落ち込んで部屋に戻ることになってしまった。

そんな僕に、

「アル様。今日はなにかあったんですか?」

とメルが心配そうに聞いてくる。

そんなメルに僕は苦笑いしながら、今日あったことを正直に話した。

「やはりアル様はご優秀なのですね。その大きな模型を壊してしまうなんてなかなかできることではありません! 逆に自信を持ってください」

と励ましてくれるメルの言葉にどこか安心しながらお風呂に向かう。

僕は、

(ああ、やっちゃったなぁ……)

と思いながら、

「ふぅ……」

と大きく息を吐いた。

「きゅきゅっ!」(大丈夫だよ、アル!)

と言ってくれるデイジーだが、その言葉はどこか楽しさが含まれているように見える。

「もう、デイジーったら……。笑いごとじゃないんだからね?」

と抗議するが、デイジーはまたおかしそうに、

「きゅきゅっ!」

と鳴いて僕に頬ずりをしてきた。

「もう……」

と抗議しつつも、その仕草でどこか心が落ち着いていくのを感じる。

僕はまた友達の存在に助けられたんだな、ということを実感しながら、その日は少し諦めにも似た感情で、開き直ってゆっくりと体を休めた。


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