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世界樹の守護者、アル~追放から始まるほのぼの英雄譚~  作者: タツダノキイチ
第二章

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ギルドマスターのお仕事その2

アルとライラが無事初めての冒険から帰ってきた翌日。

さっそく報告を聞く。

アルとライラ曰く、きちんと普段通りの行動が出来たと言うし、ミュウとロロアの意見を聞いても上出来だという話しだった。

そんな話に一安心していたが、帰り際ロロアから、

「今回は異常というほどでは無かったけど、あの浅い層でオークが出てきたのはちょっと気になるね。よかったら調査にいってくれないかい? ついでに世界樹の様子も見てきてくれると助かるよ」

と依頼される。

その場で簡単に場所の確認をしたが、やはり普段オークが出るようなところでは無かったので、私はその依頼を受け、さっそく時間を作って調査に行くことにした。


数日後。

「すまんが、留守中たのんだぞ」

「はい。お任せください」

「いざとなったらロロアを頼ってくれ」

「はい。かしこまりました」

と、いつも通りのことを伝えてギルドを後にする。

慣れた道を通り森に着くと、身体強化も使いながら急いで森の奥を目指した。

夕暮れ時になってアルたちがオークと対峙したという場所まで到着する。

近くにあった小高い丘に登り、軽く周辺を見渡してみたがぱっと見の異常はなかった。

その日はそこで野営の準備をして適当に食事を済ませる。

そして、慣れた感じでブランケットに包まると静かに目を閉じた。


翌朝。

早くから行動し、広い範囲を探索していく。

途中、ゴブリンやオークの小さな群れの痕跡を見つけ、

(やはり少し多いな……。もう少し奥になにかあるのかもしれん)

と思いながら進んで行くと、夕方ごろになってなにか大きな痕跡があるのを見つけた。

(夜戦は不利か……。仕方ない、明日改めて追っていこう)

と決め、その日はその場で野営にする。

適当に熾した焚火にあたり、

(痕跡の大きさからみて、コカトリス程度じゃないな。二足歩行っぽいからミノタウロスかゴーレムあたりだろうか? 間違ってもサイクロプスなんて出てきてくれるなよ……)

と思いながら軽く苦笑いを浮かべ、スキットルの酒をちびりとやった。


翌朝。

夜明けを待ってすぐ行動に移る。

痕跡は追っていくごとに濃さを増し、いよいよサイクロプスの可能性が高くなってきた。

(はぁ……。あれは面倒なんだよ。なにせ物理にめっぽう強い。俺との相性最悪だ。……ミュウかロロアについてきてもらえばよかった……)

と心の中で愚痴をこぼすが、ここで今さら引き下がることはできない。

俺は、

「はぁ……」

と盛大にため息を吐きつつ、諦めて痕跡の主のもとへと向かった。

やがて大きな影が二つ見えてくる。

(二匹か……。面倒なことこの上ない。さて、どう仕留めるか……)

と思いつつ、慎重に距離を詰めていく。

近くでしばらく様子を観察していると、サイクロプスが二匹とも横になった。

(食後のお昼寝か。呑気なもんだな。まぁ、助かるが……)

と思いつつ、ゆっくりと近付いていく。

そして、私は一瞬で全身に魔力を巡らせると、まず一匹の首元に渾身の一撃を叩き込んだ。

続けざまにもう一匹の首元にも一撃を食らわせる。

しかし、それで終わるほどサイクロプスは簡単ではない。

すぐに起き上がり、

「グオォォッ!」

と怒りの声を上げると、そのアホみたいに巨大な拳を遠慮なく俺に叩き込んできた。

素早くかわしながら隙を伺い、足を削っていく。

まるで大砲の弾のようにドシンドシンと音を立て遠慮なく地面をえぐっていく一撃に時々肝を冷やしつつ攻撃をかわしては足を削るという地道な作業をかれこれ十五分も続けていると、そこでようやくサイクロプスの動きが鈍ってきた。

(……やっとかよ)

と内心ため息を吐きつつさらに加速して足を削っていく。

袈裟懸け、横なぎと連続で刀を振るい、ついに一匹の足の腱を斬ることに成功した。

「グオォォッ!」

と苦悶の声を上げてうずくまる一匹をとりあえず放置してもう一匹の方も動きを止めにかかる。

そちらは私を警戒したのかなかなか懐に入り込ませてくれなかったが、それでも何回かの攻撃を当て、無事に右の手首を両断することに成功した。

痛みでうずくまる二匹のサイクロプスを今度こそ仕留めにかかる。

疲れた体に鞭打って、身体強化を最大限に使い高く飛び上がると、渾身の魔力を刀に込めて最初に付けたサイクロプスの首筋の傷をなぞるように渾身の一刀を浴びせかけた。

サイクロプスの首がスパンと切れる。

(よし。まず一匹)

と心の中でつぶやきつつ、斬られてくずおれたサイクロプスの体を踏み台にしてもう一度宙に舞い上がった。

さらにもう一匹にも同様の攻撃を加える。

そして、俺が地に降り立つと同時に「ドスン」という音がしてサイクロプス首が地面に落ち、そこで今回の異常の原因除去の仕事が終わった。

「ふぅ……」

と息を吐き、その場にどっかりと腰を下ろす。

(たぶん世界樹もマシロも気付いてはいたんだろうが、どうして連絡してこなかったんだろうか? もしかして、アルのこともあって遠慮したのか? まったく。今さら遠慮する間柄でもなかろうに……)

と思いつつ、スキットルを取り出すと、俺はちびりと安酒を煽り、その場で大の字になって空を見上げた。

どこまでも青い空をぼーっと眺めてふとアルのことを思う。

(俺の場合、転生してそれなりに人生経験もあったからまだこの勇者という立場をすんなり受け入れることが出来たが、アルはどう思っているんだろうか? もし無理をさせてしまっているんだったら申し訳ないような気がする。しかし、これはこの世界の誰かがやらなければいけない仕事だ。アルには申し訳ないが、諦めてもらうしかない……。だとしたら俺にできることは彼が成長するまでじっくり見守ってやることだけだ。すまんな……)

そんな謝罪とも言い訳ともとれるような言葉を心の中でつぶやくと俺は軽く目を閉じ、この俺からすれば不思議に満ちたこの世界に吹く前世となんら変わらない爽やかな風を全身で感じた。


十分に休息をとったところで、起き上がりサイクロプスの後始末をする。

サイクロプスは手強いわりに素材が少ないというなんとも効率の悪い魔獣だ。

(まったく。やってらんねぇぜ)

と愚痴りつつほとんど唯一の素材である短い角を斬り落とし、さっさと魔法鞄に詰める。

そして、サイクロプスに生活魔法の火魔法で火を着け、灰に変えたあと大きな魔石を取り出し、それも魔法鞄に詰め込んだ。


その日はその場で野営にしてゆっくり睡眠をとる。

そして翌日。

やや急ぎ足で世界樹のもとへと向かった。

二日ほどかけて世界樹に到着する。

「よう。サイクロプスだったぜ」

と声を掛けると、世界樹はやや申し訳なさそうな感じで、

「こちらで対処しようと思っていたのだけれど、少し遅くなってしまったわ」

と、なにやら言い訳のようなことを言ってきた。

「今さら遠慮する間柄でもないだろう。今度からは素直に頼ってくれ」

と注文を付けつつ、

「で、地脈が乱れてるのか?」

とストレートに今回の原因を聞く。

すると世界樹は、

「いえ。乱れているとまでは言えないわ。正常な範囲内よ。ただ、ちょっとザワザワした感じはあるわね。だから最近になってたまにああいうのが出ているの。クルニ村とは反対側にある森でもサーペントが何匹か出ていたみたいで、そっちには小さな獣人の集落があったからマシロにはそちらを優先してもらっていたわ」

と、また申し訳なさそうにそう言ってきた。

「なるほど。そういう事情があったのか。たしかあの集落は武力がそこまでじゃなかったな。サーペントが複数匹となったら対処に苦労しただろう。ていうか最悪全滅って可能性もあったわけだから、それは致し方ないな。しかし、さっきも言ったように今さら遠慮する間柄じゃないんだ。アルのことがあるとはいえ、こちらはいつでも動けるように準備している。だから今後は遠慮なく頼ってくれ」

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

とお互いに情報を交換し終えたところで、話はアルのことに変わる。

「アルは元気?」

「ああ。サクラを通じて感じているだろ?」

「ええ。ただ、幸せに暮らしているかどうかとか、日常の細かい感情の動きまではわからないから、その辺りのことを教えて欲しかったの」

「ああ、そういうことか。……今は学問所にも通って友達も出来たみたいだし、毎日楽しそうに稽古をしてミュウの飯をたくさん食っているよ。あいつはすごい。とても十二歳とは思えんほど落ち着いているし、なにしろ頭がキレる。剣の腕前はまだまだ修行が必要だろうが、もうそんじょそこらの冒険者や騎士には負けない程度になっているからそっちも相当なもんだろう。あと、魔力については知っての通りだ」

「そう。順調でよかったわ」

「ああ。順調そのものだ。しかし……」

「しかし?」

「ん? ああ。……なんというか、あいつは勇者になることを運命付けられてしまっているだろ? だから、もっと子供らしいことをたくさんして泣いたり笑ったりして欲しいっていう気持ちもあってな……」

「そうね。それは申し訳ないと思っているわ。本来ならあなたがそうだったようにある程度人としての生活を謳歌したあとで、勇者として選ばれるはずなのに、あの子にはあんなに小さいころからその運命を背負わせてしまった。それが偶然なのか必然なのかは私にもわからない。でも、選ばれてしまったのは事実。だから、私もできるだけゆっくり成長していって欲しいと思っているのよ」

「ああ。俺もそう思っているよ。せめて楽しい人生を送りながらゆっくり成長していってくれとな」

「ええ。……お願いね?」

「ああ。もちろんさ」

と話したところで、なんとなく会話が途切れた。

「……。また来る。今度は遠慮なく呼んでくれよ」

「ええ。わかったわ」

と挨拶を交わして世界樹のもとを辞する。

俺はひと仕事終えた安堵感を覚えつつも、アルのこれからを思い、なんとも言えない気分で村へと戻っていった。


村に帰り、ロロアの屋敷を訊ねる。

ロロアにも今回のことを報告し、世界樹の想いを伝えた。

「そうだね。アルにはかわいそうなことをしているんじゃないかって私も時々そう思うよ。せめてゆっくり成長していって欲しい、か……。まさにその通りだね」

というロロアの顔には何とも言えない表情が浮かんでいる。

おそらくは申し訳なさと無力な自分に対する呆れや諦めを混ぜたものだろう。

そんなことを思いながら、話しているとそこへミュウがお茶を持ってきてくれた。

「すまんな。今日は飯を食っていっていいか?」

「はい。そのつもりでご用意しておりますよ」

「そうか。で、なんだ?」

「うふふ。みんな大好きなカレーです。カツもから揚げも温泉卵もたっぷり用意してますから存分にどうぞ」

「そいつはいいな。よし、今夜はから揚げカレー温泉卵のせだ」

「はっはっは。君は相変わらずカレーが好きだね」

「ふっ。逆に嫌いなヤツなんているのか?」

「ははは。たしかにそうだ。でも世界中探せば何人かはいるかもしれんぞ?」

「ふっ。もしそんなヤツがいるなら見てみたいもんだ。そして説教してやるよ。『お前は人生を無駄にしている』ってな」

そんな会話で笑いが起きる。

そして、その日は嬉しそうにカツカレーを頬張るアルを見ながら、人生を無駄にしないよう、から揚げカレー温泉卵のせを頬張った。


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